[PG51] 看護学生の情緒的コンピテンスの縦断的調査
他者とのかかわりの変化に焦点をあてて
Keywords:情緒的コンピテンス, 他者, 看護学生
問題と目的
高度な看護実践能力には,継続的学習が不可欠であり,その育成には省察的実践と臨床における学びの振り返りが有効といわれている。また,S. Atkinsら(1993)は,リフレクションの土台となるスキル「自己への気づき」が自身の情動の評価や分析によって可能であると述べている。さらに,P. Smithら(2001)は,リフレクションは他者とのかかわりや支援によって引き出され養われると述べていることから,本研究者らは,臨床においてリフレクションや継続的学習が不可欠であるならば,看護師を養成する看護基礎教育課程では学生の情動知能を教育によって高める必要があると考えた。しかしながら,現代の看護学生の特徴として,周囲に無関心で対人関係が希薄であることが指摘されている(菱沼ら:2013)。
そこで,本研究は,看護学生の情動や情緒と他者とのかかわりが学習の進行とともにどのような特徴を示すのか,縦断的調査によって明らかにすることを目的とした。
方 法
調査協力施設及び対象者は,医療専門学校2校であり,2015年度に入学した3年課程の看護学生83名である。調査内容は,対象者の属性及び日本版Emotional Skills & Competence Questionnaire(以下J-ESCQ,豊田ら:2005)と対象者が日ごろ看護を学ぶ上で大切にしているかかわり先である。J-ESCQは28項目からなり,得点が高いほど情緒的コンピテンスが高い(5段階評定)。かかわり先は[クラスメイト][教員][学内の先輩]など8項目の中から上位3つの回答を得た。調査票は,連結可能な匿名化されたIDを付し,5月と12月に配布・回収した。
分析は,基本統計量を算出し,5月のJ-ESCQ平均値を用い,等サイズで3群(高群・中群・低群)に分けた。その後,3群の5月及び12月のJ-ESCQ平均値を対応のあるt検定により比較し,それぞれのかかわり先(多重回答)はクロス集計により比較した。統計ソフトはSPSS Ver.23を用いた。
本研究は,責任研究者の所属機関及び調査協力施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結 果
対象者は83名,平均年齢18.6歳(SD 1.4),女子78名と男子5名であった。初回調査のJ-ESCQ平均値を用い,3.50以上を高群(n=27),3.03以下を低群(n=25),中間を中群(n=31)とした(表1)。
J-ESCQは,正規分布を確認し,対応のあるt検定の結果,低群の12月J-ESCQは5月よりも有意に高かった(t=-2.381,df=24,p=0.026)。
対象者のかかわり先(多重回答)は,5月調査では,[クラスメイト](n=72,34.4%)が最も多く,次に[他校の他学科の同級生](n=38,18.2%),[他校の看護学生](n=24,11.5%),[教員](n=20,9.6%),[就職している同級生](n=19,9.1%),[アルバイト先の同僚](n=17,8.1%),[学内の他科学生](n=10,4.8%),[学内の先輩](n=9,4.3%)であり,12月と比べて大きな差はなかった。次に,J-ESCQにおいて有意差があった低群の5月と12月のかかわり先を比較した。傾向として,12月調査時に[教員]を選択した者は5月調査時よりも多く,12月調査時に[学内の先輩]を選択した者はいなかった(図1)。
考 察
本研究の結果から,入学時に情緒的コンピテンスが低かった学生のJ-ESCQは,学習の進行によって向上することが明らかとなった。その理由として,対象者と[教員]とのかかわりが増えていること,入学後初めての臨地実習を経験したことがあげられる。今後は,対象者が専門科目を学び始めることや実習や演習などグループによる学習方法への変化,後輩や新たな教員とのかかわりが情緒的コンピテンスにどのような影響を与えるのか,縦断調査によりさらなる分析を行う。
高度な看護実践能力には,継続的学習が不可欠であり,その育成には省察的実践と臨床における学びの振り返りが有効といわれている。また,S. Atkinsら(1993)は,リフレクションの土台となるスキル「自己への気づき」が自身の情動の評価や分析によって可能であると述べている。さらに,P. Smithら(2001)は,リフレクションは他者とのかかわりや支援によって引き出され養われると述べていることから,本研究者らは,臨床においてリフレクションや継続的学習が不可欠であるならば,看護師を養成する看護基礎教育課程では学生の情動知能を教育によって高める必要があると考えた。しかしながら,現代の看護学生の特徴として,周囲に無関心で対人関係が希薄であることが指摘されている(菱沼ら:2013)。
そこで,本研究は,看護学生の情動や情緒と他者とのかかわりが学習の進行とともにどのような特徴を示すのか,縦断的調査によって明らかにすることを目的とした。
方 法
調査協力施設及び対象者は,医療専門学校2校であり,2015年度に入学した3年課程の看護学生83名である。調査内容は,対象者の属性及び日本版Emotional Skills & Competence Questionnaire(以下J-ESCQ,豊田ら:2005)と対象者が日ごろ看護を学ぶ上で大切にしているかかわり先である。J-ESCQは28項目からなり,得点が高いほど情緒的コンピテンスが高い(5段階評定)。かかわり先は[クラスメイト][教員][学内の先輩]など8項目の中から上位3つの回答を得た。調査票は,連結可能な匿名化されたIDを付し,5月と12月に配布・回収した。
分析は,基本統計量を算出し,5月のJ-ESCQ平均値を用い,等サイズで3群(高群・中群・低群)に分けた。その後,3群の5月及び12月のJ-ESCQ平均値を対応のあるt検定により比較し,それぞれのかかわり先(多重回答)はクロス集計により比較した。統計ソフトはSPSS Ver.23を用いた。
本研究は,責任研究者の所属機関及び調査協力施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結 果
対象者は83名,平均年齢18.6歳(SD 1.4),女子78名と男子5名であった。初回調査のJ-ESCQ平均値を用い,3.50以上を高群(n=27),3.03以下を低群(n=25),中間を中群(n=31)とした(表1)。
J-ESCQは,正規分布を確認し,対応のあるt検定の結果,低群の12月J-ESCQは5月よりも有意に高かった(t=-2.381,df=24,p=0.026)。
対象者のかかわり先(多重回答)は,5月調査では,[クラスメイト](n=72,34.4%)が最も多く,次に[他校の他学科の同級生](n=38,18.2%),[他校の看護学生](n=24,11.5%),[教員](n=20,9.6%),[就職している同級生](n=19,9.1%),[アルバイト先の同僚](n=17,8.1%),[学内の他科学生](n=10,4.8%),[学内の先輩](n=9,4.3%)であり,12月と比べて大きな差はなかった。次に,J-ESCQにおいて有意差があった低群の5月と12月のかかわり先を比較した。傾向として,12月調査時に[教員]を選択した者は5月調査時よりも多く,12月調査時に[学内の先輩]を選択した者はいなかった(図1)。
考 察
本研究の結果から,入学時に情緒的コンピテンスが低かった学生のJ-ESCQは,学習の進行によって向上することが明らかとなった。その理由として,対象者と[教員]とのかかわりが増えていること,入学後初めての臨地実習を経験したことがあげられる。今後は,対象者が専門科目を学び始めることや実習や演習などグループによる学習方法への変化,後輩や新たな教員とのかかわりが情緒的コンピテンスにどのような影響を与えるのか,縦断調査によりさらなる分析を行う。