[PG56] アジアの紛争経験国における平和構築・紛争予防教育のプログラム評価方法の検討
授業内容,方法に関わるプロセス評価の視点の探索
キーワード:平和教育, プログラム評価, 教育方法
問 題
本発表では,アジア5カ国の大学をインターネット回線で結んで行われている紛争予防教育プログラムを対象に,プログラム評価を行う。このプログラムは,将来の紛争解決,予防に寄与する人材育成を目的に,紛争経験国の大学生を結び,紛争解決・予防に有効な実践的知識,スキルの獲得とともに,民族や宗教,イデオロギーの異なる学生が協働で学ぶ経験を通して,文化的多様性へのコンピテンスの向上や対立他者との関係に対する態度変容を目指している。一方向的な講義形式ではなく,学生間でのディスカッションや共同研究を通した協働的学びを重視している。
これまでに教育プログラムのアウトカムとして,紛争の原因と解決に対する主体的関与の意識や文化的知能の向上などの態度レベルでの変容が,この見出されている(池田・福田・宮城,2015など)。一方で,教育内容や方法が教育効果を高める適切なものとなっているのか,教育プログラムのプロセスのふりかえりは充分に行われていない。
プログラム評価理論では,プログラムのアウトカム(プログラムが目指す目標を達成することができたか)とともに,プロセス(プログラムの内容や実施方法が最適なものであったか)を振り返ることがプログラムの継続的な改善,発展に必要とされている。本発表で取り上げる紛争予防教育においても,プログラムの効果をさらに高めるとともに,効率性,他の場所や状況への汎用性などを検討する上で,プロセスの評価が欠かせない。しかし本プログラムは,多国間をインターネット回線で結んでいること,戦争や紛争に対する具体的な解決,予防の手法を教育内容としていること,対立関係にある学生が対面して授業を受けること全てが外国語である英語で行われることなど,内容,方法面で他に例がなく,プロセス評価の視点について明らかにすべきことが多い。
そこで本研究では,本プログラムのプロセス評価の視点を探索的に検討し,教育プログラムの改善,発展への示唆を得ることを目的とする。
方 法
2015年に5週間に渡って実施された本教育プログラムの受講生に対して,各授業後に「ふりかえり調査」を実施した。調査では,授業の質,自己の学びの程度,実用性の認知について5件法で回答を求めるとともに,授業の改善要望について自由記述で回答を求めた。75名の受講生のうち,全項目に回答をした人数は21名であった。
結果と考察
はじめに,改善要望に関する自由回答を,内容に基づき5つのカテゴリ(内容,技術的問題,進め方,教員学生)に分類した。次に,授業の質,自己の学びの程度,実用性の認知との関連をコレスポンデンス分析によって検討した(Figure 1)。
内容面での課題は好評価を持つ学生が記述することが多く,プログラムの発展に寄与する情報といえる。学びの質に最も影響を与えたのは授業の進め方と,教員や学生のプレゼンテーションの質に関わるものであった。進め方に関する要望の中心は,質疑や討議の時間がほしいというものであり,授業を構成する上で参照できる情報と言えよう。一方,プレゼンテーションの質については,実際には学生,教員の英語運用能力に関わるものであり,多言語の対象者に対して共通言語を用いた教育を行うことの困難さを示すものと考えられる。
引用文献
池田 満・福田 彩・宮城 徹(2015).紛争と自国の学生が抱く紛争認識―原因,結果における主体的関与の意識 応用心理学研究,41,98-99.
本研究はJSPS科研費16K03514および2015年度南山大学パッヘ研究奨励金I-A-2の助成を受けたものです。
本発表では,アジア5カ国の大学をインターネット回線で結んで行われている紛争予防教育プログラムを対象に,プログラム評価を行う。このプログラムは,将来の紛争解決,予防に寄与する人材育成を目的に,紛争経験国の大学生を結び,紛争解決・予防に有効な実践的知識,スキルの獲得とともに,民族や宗教,イデオロギーの異なる学生が協働で学ぶ経験を通して,文化的多様性へのコンピテンスの向上や対立他者との関係に対する態度変容を目指している。一方向的な講義形式ではなく,学生間でのディスカッションや共同研究を通した協働的学びを重視している。
これまでに教育プログラムのアウトカムとして,紛争の原因と解決に対する主体的関与の意識や文化的知能の向上などの態度レベルでの変容が,この見出されている(池田・福田・宮城,2015など)。一方で,教育内容や方法が教育効果を高める適切なものとなっているのか,教育プログラムのプロセスのふりかえりは充分に行われていない。
プログラム評価理論では,プログラムのアウトカム(プログラムが目指す目標を達成することができたか)とともに,プロセス(プログラムの内容や実施方法が最適なものであったか)を振り返ることがプログラムの継続的な改善,発展に必要とされている。本発表で取り上げる紛争予防教育においても,プログラムの効果をさらに高めるとともに,効率性,他の場所や状況への汎用性などを検討する上で,プロセスの評価が欠かせない。しかし本プログラムは,多国間をインターネット回線で結んでいること,戦争や紛争に対する具体的な解決,予防の手法を教育内容としていること,対立関係にある学生が対面して授業を受けること全てが外国語である英語で行われることなど,内容,方法面で他に例がなく,プロセス評価の視点について明らかにすべきことが多い。
そこで本研究では,本プログラムのプロセス評価の視点を探索的に検討し,教育プログラムの改善,発展への示唆を得ることを目的とする。
方 法
2015年に5週間に渡って実施された本教育プログラムの受講生に対して,各授業後に「ふりかえり調査」を実施した。調査では,授業の質,自己の学びの程度,実用性の認知について5件法で回答を求めるとともに,授業の改善要望について自由記述で回答を求めた。75名の受講生のうち,全項目に回答をした人数は21名であった。
結果と考察
はじめに,改善要望に関する自由回答を,内容に基づき5つのカテゴリ(内容,技術的問題,進め方,教員学生)に分類した。次に,授業の質,自己の学びの程度,実用性の認知との関連をコレスポンデンス分析によって検討した(Figure 1)。
内容面での課題は好評価を持つ学生が記述することが多く,プログラムの発展に寄与する情報といえる。学びの質に最も影響を与えたのは授業の進め方と,教員や学生のプレゼンテーションの質に関わるものであった。進め方に関する要望の中心は,質疑や討議の時間がほしいというものであり,授業を構成する上で参照できる情報と言えよう。一方,プレゼンテーションの質については,実際には学生,教員の英語運用能力に関わるものであり,多言語の対象者に対して共通言語を用いた教育を行うことの困難さを示すものと考えられる。
引用文献
池田 満・福田 彩・宮城 徹(2015).紛争と自国の学生が抱く紛争認識―原因,結果における主体的関与の意識 応用心理学研究,41,98-99.
本研究はJSPS科研費16K03514および2015年度南山大学パッヘ研究奨励金I-A-2の助成を受けたものです。