[PG58] 時間的展望と自己肯定感の相関
未来志向性が自己肯定感の6因子に与える影響の検討
Keywords:自己肯定感, 時間的展望, 未来志向性
問題と目的
時間的展望は,「ある一定の時点における個人の心理学的過去と未来についての見解の総体(Lewin,1951)」と定義され,個人が過去・現在・未来を捉える傾向を示すものである。Zimbard Time Perspective Inventory(ZTPI)は,時間的展望を,過去否定,現在快楽,未来,過去肯定,現在宿命の5因子で測定する尺度として,複数の言語で研究・臨床に使用されている(Apostolidisら, 2004; Díaz-Morales, 2006; D ’Alessooら, 2003)。未来志向性は,ZTPIで測定される因子の中でも,収入,健康状態,リスク行動等に影響することが示されているが,それらは英語圏を中心とした国外の研究報告であり,日本人を対象としたものは未だ数が少ない(Zimbardoら, 1997; Ortuño & Echeverría, 2013: Ioriら, 2014)。
本研究では,未来志向性が自己肯定感を向上させる一要因であると仮定し,時間的展望と自己肯定感の関係について検討することを目的とする。
方 法
参加者
回答者候補となる20〜50代の一般男女9,526名へ調査会社を通じて,2013年11月にアンケートを送信した。日本の人口分布に即し,性別,年齢,居住地域によって回答人数を制限し,制限人数に達した回答者層から回答を締め切った。職業が偏らないよう配慮し,学生は回答者から除いた。
尺度
時間的展望の測定には,Zimbard & Boyd(1997)の時間感覚尺度の日本語版を,許可を得て使用した。自己肯定感の測定には,平石(1990)の自己肯定意識尺度(6因子: 自己受容,自己実現,充実感,人間不信,積極性,対人緊張)を用いた。
結果
1,339名(男性680名,女性659名)が調査に参加した。研究に同意しなかった者と無効な回答者を省いた1,284名のデータを使用した。
記述統計
時間的展望尺度(ZTPI)および平石の自己肯定意識尺度の,因子毎の平均値・標準偏差を示した(Table 1)。ZTPIの平均値・標準偏差は,同尺度を用いた下島ら(2012)による日本人の大学生を対象とした数値を逸脱しないものであった。
時間的展望と自己肯定感の因子間相関
時間的展望の5因子と,自己肯定感の6因子の相関係数と有意確率を示した(Table 2)。
着目した未来志向性は,自己肯定感因子のうち,「自己受容」に中程度の正の相関を示したが,「自己実現」,「充実感」,「積極性」には弱い正の相関を示すに止まった。一方,現在快楽志向において,「自己受容」,「自己実現」,「充実感」,「積極性」の4因子に,未来志向性より強い正の相関が見られた。過去肯定志向は,「対人緊張」以外の各自己肯定感因子に弱い相関を示した。
自己肯定感の逆転因子である「人間不信」と「対人緊張」には,過去否定志向および現在宿命志向がやや強い正の相関を示した。
考 察
未来志向性は,自己肯定感因子のうち幾つかに相関を示したが,必ずしも自己肯定感の向上に影響するといえる結果ではなかった。日本人の大学生を対象としたIoriら(2014)の調査でも,同様の結果が見られている。自己肯定感は,未来志向性との相関が明らかにされている収入等とは異なり,主観的指標である。そのため,「未来のために自制する」という意味合いの強い未来志向性とは直結しなかったと考えられる。今後は,年代毎の相関の変化等,別な観点からの分析も検討したい。
(引用文献は,当日の発表資料をご参照ください。)
時間的展望は,「ある一定の時点における個人の心理学的過去と未来についての見解の総体(Lewin,1951)」と定義され,個人が過去・現在・未来を捉える傾向を示すものである。Zimbard Time Perspective Inventory(ZTPI)は,時間的展望を,過去否定,現在快楽,未来,過去肯定,現在宿命の5因子で測定する尺度として,複数の言語で研究・臨床に使用されている(Apostolidisら, 2004; Díaz-Morales, 2006; D ’Alessooら, 2003)。未来志向性は,ZTPIで測定される因子の中でも,収入,健康状態,リスク行動等に影響することが示されているが,それらは英語圏を中心とした国外の研究報告であり,日本人を対象としたものは未だ数が少ない(Zimbardoら, 1997; Ortuño & Echeverría, 2013: Ioriら, 2014)。
本研究では,未来志向性が自己肯定感を向上させる一要因であると仮定し,時間的展望と自己肯定感の関係について検討することを目的とする。
方 法
参加者
回答者候補となる20〜50代の一般男女9,526名へ調査会社を通じて,2013年11月にアンケートを送信した。日本の人口分布に即し,性別,年齢,居住地域によって回答人数を制限し,制限人数に達した回答者層から回答を締め切った。職業が偏らないよう配慮し,学生は回答者から除いた。
尺度
時間的展望の測定には,Zimbard & Boyd(1997)の時間感覚尺度の日本語版を,許可を得て使用した。自己肯定感の測定には,平石(1990)の自己肯定意識尺度(6因子: 自己受容,自己実現,充実感,人間不信,積極性,対人緊張)を用いた。
結果
1,339名(男性680名,女性659名)が調査に参加した。研究に同意しなかった者と無効な回答者を省いた1,284名のデータを使用した。
記述統計
時間的展望尺度(ZTPI)および平石の自己肯定意識尺度の,因子毎の平均値・標準偏差を示した(Table 1)。ZTPIの平均値・標準偏差は,同尺度を用いた下島ら(2012)による日本人の大学生を対象とした数値を逸脱しないものであった。
時間的展望と自己肯定感の因子間相関
時間的展望の5因子と,自己肯定感の6因子の相関係数と有意確率を示した(Table 2)。
着目した未来志向性は,自己肯定感因子のうち,「自己受容」に中程度の正の相関を示したが,「自己実現」,「充実感」,「積極性」には弱い正の相関を示すに止まった。一方,現在快楽志向において,「自己受容」,「自己実現」,「充実感」,「積極性」の4因子に,未来志向性より強い正の相関が見られた。過去肯定志向は,「対人緊張」以外の各自己肯定感因子に弱い相関を示した。
自己肯定感の逆転因子である「人間不信」と「対人緊張」には,過去否定志向および現在宿命志向がやや強い正の相関を示した。
考 察
未来志向性は,自己肯定感因子のうち幾つかに相関を示したが,必ずしも自己肯定感の向上に影響するといえる結果ではなかった。日本人の大学生を対象としたIoriら(2014)の調査でも,同様の結果が見られている。自己肯定感は,未来志向性との相関が明らかにされている収入等とは異なり,主観的指標である。そのため,「未来のために自制する」という意味合いの強い未来志向性とは直結しなかったと考えられる。今後は,年代毎の相関の変化等,別な観点からの分析も検討したい。
(引用文献は,当日の発表資料をご参照ください。)