[PG59] 主張性と攻撃性の関係に対する検討
共分散構造分析を用いた一考察
Keywords:主張性, 攻撃性, ソーシャルスキル
目 的
青少年にとって仲間である子供たちから受ける攻撃行動やいじめは,安全や健康に大きな影響を与える事柄である。また攻撃を行う側である子供たちにとっても,学業との相関など,攻撃性が多くの不適応指標と相関することは,多くの実証研究によって確認されている。一方,よく似た向社会的行動として主張性があり,青少年の発達において大きな役割を果たす(柴橋,1998)ことが指摘されている。しかしながらこの2要素の違いは明確になっているとはいいがたく,幾つかの研究では,攻撃性と主張性の間には高い相関があることが指摘されている。よって,岡田(2013,未発表)では,身体的攻撃,言語的攻撃,短気(情動的攻撃),敵意(認知的攻撃)を含む攻撃性との関係を検討するため,主張性の4要因理論に基づいた主張性質問紙を用い,結果に対して因子分析を行った。その結果,小学生,中学生,高校生の三群に対して検討を行ったが,その全てで因子は2因子に分かれ,かつそのうち1因子はもともとの主張性質問紙では逆転項目として扱われていた項目が,逆転しないまま他の項目と一因子を構成していた。そのため,この因子を除き,残りの1因子に対して検討を行った。結果,言語的攻撃に対して促進的な影響があると考えられるのに対し,攻撃を抑制することはなかったことから,攻撃性と主張性の違いは見出すことができなかった。しかし除いた因子は渡邊(2006)によれば,検討することによって攻撃性との混同を避けることができるとされていた。そのため,本研究ではのぞいた1因子も加えて,両因子を含んだ形で包括的に攻撃性と主張性の関係を検討することとした。
方 法
調査対象者はA県内の小学校2校,中学校1校,高校1校に質問紙による調査を依頼し,それぞれ170名(男子89名,女子81名),103名(男子46名,女子56名),302名(男子178名,女子122名,不明2名)から回答を得た。
質問紙は中高生では日本版Buss-Perry質問紙(攻撃性),主張性の4要件尺度(短縮版),小学校ではHAQ-C20(日本版Buss-Perry質問紙の表現を児童用に一部変更)(攻撃性)と主張性の4要件尺度(児童用に一部表現を変更)(主張性)を用いた。
結果と考察
主張性の4要件尺度の結果に対し,因子構造を明らかにするために探索的因子分析を行い,2因子が抽出され,その因子構成から「状況判断と他者配慮(以下“因子1”)」「情動制御と自己決定(以下“因子2”)とした。“因子1”は 岡田(2013)で除いた因子だ。結果(Table 1),「状況判断と他者配慮」は,すべての群で「言語的攻撃」に対して有意な負の影響を示し,表出攻撃を抑制していた。対して非表出攻撃である「敵意(情動的攻撃性)」に対しては,高校生男女,小学生男女で有意な正の影響を示していた。よって非表出攻撃の情動的攻撃に対しては,表出攻撃性と反対に正の影響を示し,攻撃性を促進していた。一方“因子2”は,高校生男女,中学生男子,小学生男女で,表出攻撃である「言語的攻撃」に対し正の影響を示していた。よって“因子2”は言語的攻撃性に正の影響を示しているのに対して,“因子1”は反対に言語的攻撃を抑制していることがわかった。また今回の結果で興味深い点として,“因子1”が高校生,小学生男女で「敵意」に対して高い影響を示していることがあげられる。よって“因子1”が高い場合,表出攻撃である「言語的攻撃性」が低い一方で,非表出攻撃である「敵意(認知的攻撃)」が高くなる可能性がある。質問項目より“因子1”は主張行動を取る際,その場や相手との関係がどうなるかを検討し,緊張や不安を覚える因子であるが,この検討する過程や,対人関係に対する緊張や不安が,相手に対する認知的攻撃性を高めている可能性が明らかになった。
参考文献
柴田祐子 (1998). 思春期の友人関係 におけるアサーション能力育成の意義と主張性尺度研究の課題について,カウンセリング研究, 31, 19-26
渡部麻美, 松井 豊 高校生と大学生時における主張性の4要件と友人関係満足感との関連2011 対人社会心理研究 11, 35-42
青少年にとって仲間である子供たちから受ける攻撃行動やいじめは,安全や健康に大きな影響を与える事柄である。また攻撃を行う側である子供たちにとっても,学業との相関など,攻撃性が多くの不適応指標と相関することは,多くの実証研究によって確認されている。一方,よく似た向社会的行動として主張性があり,青少年の発達において大きな役割を果たす(柴橋,1998)ことが指摘されている。しかしながらこの2要素の違いは明確になっているとはいいがたく,幾つかの研究では,攻撃性と主張性の間には高い相関があることが指摘されている。よって,岡田(2013,未発表)では,身体的攻撃,言語的攻撃,短気(情動的攻撃),敵意(認知的攻撃)を含む攻撃性との関係を検討するため,主張性の4要因理論に基づいた主張性質問紙を用い,結果に対して因子分析を行った。その結果,小学生,中学生,高校生の三群に対して検討を行ったが,その全てで因子は2因子に分かれ,かつそのうち1因子はもともとの主張性質問紙では逆転項目として扱われていた項目が,逆転しないまま他の項目と一因子を構成していた。そのため,この因子を除き,残りの1因子に対して検討を行った。結果,言語的攻撃に対して促進的な影響があると考えられるのに対し,攻撃を抑制することはなかったことから,攻撃性と主張性の違いは見出すことができなかった。しかし除いた因子は渡邊(2006)によれば,検討することによって攻撃性との混同を避けることができるとされていた。そのため,本研究ではのぞいた1因子も加えて,両因子を含んだ形で包括的に攻撃性と主張性の関係を検討することとした。
方 法
調査対象者はA県内の小学校2校,中学校1校,高校1校に質問紙による調査を依頼し,それぞれ170名(男子89名,女子81名),103名(男子46名,女子56名),302名(男子178名,女子122名,不明2名)から回答を得た。
質問紙は中高生では日本版Buss-Perry質問紙(攻撃性),主張性の4要件尺度(短縮版),小学校ではHAQ-C20(日本版Buss-Perry質問紙の表現を児童用に一部変更)(攻撃性)と主張性の4要件尺度(児童用に一部表現を変更)(主張性)を用いた。
結果と考察
主張性の4要件尺度の結果に対し,因子構造を明らかにするために探索的因子分析を行い,2因子が抽出され,その因子構成から「状況判断と他者配慮(以下“因子1”)」「情動制御と自己決定(以下“因子2”)とした。“因子1”は 岡田(2013)で除いた因子だ。結果(Table 1),「状況判断と他者配慮」は,すべての群で「言語的攻撃」に対して有意な負の影響を示し,表出攻撃を抑制していた。対して非表出攻撃である「敵意(情動的攻撃性)」に対しては,高校生男女,小学生男女で有意な正の影響を示していた。よって非表出攻撃の情動的攻撃に対しては,表出攻撃性と反対に正の影響を示し,攻撃性を促進していた。一方“因子2”は,高校生男女,中学生男子,小学生男女で,表出攻撃である「言語的攻撃」に対し正の影響を示していた。よって“因子2”は言語的攻撃性に正の影響を示しているのに対して,“因子1”は反対に言語的攻撃を抑制していることがわかった。また今回の結果で興味深い点として,“因子1”が高校生,小学生男女で「敵意」に対して高い影響を示していることがあげられる。よって“因子1”が高い場合,表出攻撃である「言語的攻撃性」が低い一方で,非表出攻撃である「敵意(認知的攻撃)」が高くなる可能性がある。質問項目より“因子1”は主張行動を取る際,その場や相手との関係がどうなるかを検討し,緊張や不安を覚える因子であるが,この検討する過程や,対人関係に対する緊張や不安が,相手に対する認知的攻撃性を高めている可能性が明らかになった。
参考文献
柴田祐子 (1998). 思春期の友人関係 におけるアサーション能力育成の意義と主張性尺度研究の課題について,カウンセリング研究, 31, 19-26
渡部麻美, 松井 豊 高校生と大学生時における主張性の4要件と友人関係満足感との関連2011 対人社会心理研究 11, 35-42