[PG62] 会社員はうつ病症状についてどの専門家に相談したいと思うのか?
援助要請意図とその規定因の検討
Keywords:うつ病, 援助要請, 産業
問題と目的
日本の企業ではメンタルヘルス不調者が増加しており(川上, 2015),代表的な精神障害であるうつ病への早期対処が重要な課題となっている。早期対処の実現に向けては,会社員の援助要請意図やその規定因に関する検討を行い,援助要請意図を向上させる取り組みを進める上での課題を見出すことが有用となるだろう。
そこで,本研究では,会社員を対象としてうつ病に焦点化した調査を実施し,①各種の専門家に対してどの程度強い援助要請意図が抱かれているのか,②援助要請意図の強さに影響する要因はなにか,という2点を量的に検討する。企業での水際対策を重視する立場から,特に産業医への援助要請意図に着目して検討を行う。
方 法
調査概要・分析対象者 株式会社マクロミルが保有する会社員のサンプルを対象にインターネット調査を実施した。回答者451名のうち,現職正社員である435名(男性229名,女性206名)のデータを分析対象とした。平均年齢は39.07歳(SD = 11.00)であった。
質問項目 ①専門家への援助要請意図:自身がうつ病になった場合を回答者に想定させ,「精神科医」「臨床心理士」「産業医・健康管理部門」「近所のかかりつけ医」に相談することがどの程度ありそうか,それぞれ7件法(単項目)で評定させた。②うつ病に対する偏見:邦訳版Depression Stigma Scale(中根・吉岡・中根, 2006)9項目(5件法)を用いた。③うつ病の知識:うつ病の知識を問う正誤問題(山川他, 2012)9項目への回答を求めた。回答者が基礎的な知識をどの程度有しているかに着目するべく,以降の分析では,項目反応理論を適用した際に困難度が負の値となり,かつ識別力が正の値となった4項目についての正答数(α = .66)を,その回答者の知識量とみなした。④抑うつ傾向:邦訳版K10尺度(Furukawa et al., 2008)10項目(5件法,α = .95)を用いた。
結 果
まず,援助要請意図の評定値の平均について,専門家間での比較を行った。1要因分散分析(F(3, 1302) = 127.76, p < .001, η_p^2 = .12)とBonferroni補正を用いた下位検定の結果,「産業医・健康管理部門」への援助要請意図(M = 3.77)は,「精神科医」(M = 4.91)や「臨床心理士」の場合(M = 4.42)よりも有意に弱いこと(順に,t(434) = 13.36, p < .001, d = 0.45; t(434) = 13.36, p < .001, d = 0.30),「近所のかかりつけ医」の場合(M = 3.53)よりは有意に強いものの,差の効果量はごく小さいこと(t(434) = 3.34, p = .005, d = 0.11)が示された。
次に,各専門家への援助要請意図の強さを他の変数群によってどの程度予測できるか,重回帰分析を実施して検討した(Table 1)。その結果,「精神科医」の場合はうつ病の知識が,「臨床心理士」の場合はうつ病に対する偏見が,援助要請意図を有意に予測することが示された(順に,β = 0.13, p = .009; β = -0.11, p = .023)。一方で,「産業医・健康管理部門」の場合は,年齢が援助要請意図を有意に予測することが示された(β = 0.10, = .041)。
考 察
上記の結果から,会社員にとって身近な距離にいる産業医は,うつ病になった場合の援助要請がしづらい専門家であると認識されていることが示された。また,産業医への援助要請意図を向上させるには,偏見の低減や知識の向上といった取り組みでは不十分となる可能性が示唆された。今後は,うつ病への早期対処の実現に向けて,若年の会社員にとって産業医に援助要請しづらいのはなぜかを,探索的に検討することが求められる。
日本の企業ではメンタルヘルス不調者が増加しており(川上, 2015),代表的な精神障害であるうつ病への早期対処が重要な課題となっている。早期対処の実現に向けては,会社員の援助要請意図やその規定因に関する検討を行い,援助要請意図を向上させる取り組みを進める上での課題を見出すことが有用となるだろう。
そこで,本研究では,会社員を対象としてうつ病に焦点化した調査を実施し,①各種の専門家に対してどの程度強い援助要請意図が抱かれているのか,②援助要請意図の強さに影響する要因はなにか,という2点を量的に検討する。企業での水際対策を重視する立場から,特に産業医への援助要請意図に着目して検討を行う。
方 法
調査概要・分析対象者 株式会社マクロミルが保有する会社員のサンプルを対象にインターネット調査を実施した。回答者451名のうち,現職正社員である435名(男性229名,女性206名)のデータを分析対象とした。平均年齢は39.07歳(SD = 11.00)であった。
質問項目 ①専門家への援助要請意図:自身がうつ病になった場合を回答者に想定させ,「精神科医」「臨床心理士」「産業医・健康管理部門」「近所のかかりつけ医」に相談することがどの程度ありそうか,それぞれ7件法(単項目)で評定させた。②うつ病に対する偏見:邦訳版Depression Stigma Scale(中根・吉岡・中根, 2006)9項目(5件法)を用いた。③うつ病の知識:うつ病の知識を問う正誤問題(山川他, 2012)9項目への回答を求めた。回答者が基礎的な知識をどの程度有しているかに着目するべく,以降の分析では,項目反応理論を適用した際に困難度が負の値となり,かつ識別力が正の値となった4項目についての正答数(α = .66)を,その回答者の知識量とみなした。④抑うつ傾向:邦訳版K10尺度(Furukawa et al., 2008)10項目(5件法,α = .95)を用いた。
結 果
まず,援助要請意図の評定値の平均について,専門家間での比較を行った。1要因分散分析(F(3, 1302) = 127.76, p < .001, η_p^2 = .12)とBonferroni補正を用いた下位検定の結果,「産業医・健康管理部門」への援助要請意図(M = 3.77)は,「精神科医」(M = 4.91)や「臨床心理士」の場合(M = 4.42)よりも有意に弱いこと(順に,t(434) = 13.36, p < .001, d = 0.45; t(434) = 13.36, p < .001, d = 0.30),「近所のかかりつけ医」の場合(M = 3.53)よりは有意に強いものの,差の効果量はごく小さいこと(t(434) = 3.34, p = .005, d = 0.11)が示された。
次に,各専門家への援助要請意図の強さを他の変数群によってどの程度予測できるか,重回帰分析を実施して検討した(Table 1)。その結果,「精神科医」の場合はうつ病の知識が,「臨床心理士」の場合はうつ病に対する偏見が,援助要請意図を有意に予測することが示された(順に,β = 0.13, p = .009; β = -0.11, p = .023)。一方で,「産業医・健康管理部門」の場合は,年齢が援助要請意図を有意に予測することが示された(β = 0.10, = .041)。
考 察
上記の結果から,会社員にとって身近な距離にいる産業医は,うつ病になった場合の援助要請がしづらい専門家であると認識されていることが示された。また,産業医への援助要請意図を向上させるには,偏見の低減や知識の向上といった取り組みでは不十分となる可能性が示唆された。今後は,うつ病への早期対処の実現に向けて,若年の会社員にとって産業医に援助要請しづらいのはなぜかを,探索的に検討することが求められる。