[PG66] 学び合う学習環境の調査(3)
算数授業改善による児童の適応度の変化
Keywords:インクルーシブ教育, 学び合い, 指導法工夫改善
背景・目的
本市は,平成26年より文部科学省委託「発達障害の可能性のある児童生徒に対する早期支援研究事業」を受け,市内A小学校においてインクルージョンの理念を生かす授業改善プロジェクトを実行した。その目的は,支援を要する児童に適切な支援を提供することによって,二次障害を予防することである。特に児童の困り感が比較的顕著に現れる算数授業において,児童の特性を把握し,ニーズに沿いながら,共感的な学習環境の中で協同的な学習指導を企図した。結果,協同的学びを意識した教師の関わりや指導法改善および教材開発を行うことにより,発達障害やその可能性のある児童の適応状況に改善が見られ,二次障害の予防につながることが示唆された(岸本・村瀬,2015)。
この成果をふまえ,事業2年目となる平成27年度は,指定校AにB・C校を加え,計3校を研究対象校として本実践の普及可能性を追求した。本研究は,この事業が早期支援体制の構築にどの程度効果的であったかを検証し,報告することが目的である。
方 法
調査時期・参加者 本研究の調査時期は2015年7月~2016年2月である。本研究の参加者は市立小学校3校の5年生,293名である。
検査および尺度 児童の満足度や学習意欲を測定するため,Q-Uテストおよび4つの尺度;a)西田・橋本・徳永(2003),b)桜井(1986),c)小泉(1995),d)高坂(2014)を用いた。ただし,4つの尺度の項目は,因子構造を損なわない程度に抜粋し,質問紙としてまとめられた。なお,この質問紙の妥当性については,岸本・村瀬(2014)において検証されている。また,学力調査(県学力到達度調査:12月と市標準学力調査:2月)の結果を昨年と比較する。
手続き 第1回調査(2016年7月実施):3小学校5年生293名全児童を対象に,Q-Uテストと質問紙調査について,校長の許諾を得て,各担任に質問紙を配布し,各学級にて担任の判断によって適切な時間に実施した。
第2回調査(2017年2月):児童の変化を評価する事後の調査として,Q-Uテストと質問紙調査を第1回と同様に実施した。
結果と考察
Q-Uテストの結果は,とくに発達障害の可能性があると考えられた児童のうち,7月時点で「学校生活不満足群」・「侵害行為認知群」・「非承認群」にあった児童(154名)の分布について分析した。Figure 1に示すように,分析対象154名のうち41名が「学校生活満足群」に移行している(26.6%)。
さらに,質問紙調査の結果では,「ストレス項目」得点が有意に減少していた(Fig. 2)。このように発達障害の可能性のある児童にとって,ストレスが軽減されるということは,まさに二次障害の予防につながる本事業の成果である。先のQ-U調査の結果とあわせて,本事業の目的である二次障害の予防に効果をあげていることが推測される。さらに,成果が3校に見られることから,他校においても本実践が可能であることが認められたと考えられる。
また,県学力到達度調査の結果を対象児童が4年生当時(12月)と今年度5年次(12月)を比較したところ,3校平均して5.5Pの向上が見られた。その他,市標準学力調査(2月)においても,昨年度との比較から3校平均で4.4Pの得点の向上が認められた。
以上の結果から,本事業の実践は,インクルーシブ教育の推進が,協同的な学びを軸とした授業の中でより効果的に実現できる可能性を示唆していると同時に,効果的な早期支援体制の構築にも寄与するものと思われる。
本市は,平成26年より文部科学省委託「発達障害の可能性のある児童生徒に対する早期支援研究事業」を受け,市内A小学校においてインクルージョンの理念を生かす授業改善プロジェクトを実行した。その目的は,支援を要する児童に適切な支援を提供することによって,二次障害を予防することである。特に児童の困り感が比較的顕著に現れる算数授業において,児童の特性を把握し,ニーズに沿いながら,共感的な学習環境の中で協同的な学習指導を企図した。結果,協同的学びを意識した教師の関わりや指導法改善および教材開発を行うことにより,発達障害やその可能性のある児童の適応状況に改善が見られ,二次障害の予防につながることが示唆された(岸本・村瀬,2015)。
この成果をふまえ,事業2年目となる平成27年度は,指定校AにB・C校を加え,計3校を研究対象校として本実践の普及可能性を追求した。本研究は,この事業が早期支援体制の構築にどの程度効果的であったかを検証し,報告することが目的である。
方 法
調査時期・参加者 本研究の調査時期は2015年7月~2016年2月である。本研究の参加者は市立小学校3校の5年生,293名である。
検査および尺度 児童の満足度や学習意欲を測定するため,Q-Uテストおよび4つの尺度;a)西田・橋本・徳永(2003),b)桜井(1986),c)小泉(1995),d)高坂(2014)を用いた。ただし,4つの尺度の項目は,因子構造を損なわない程度に抜粋し,質問紙としてまとめられた。なお,この質問紙の妥当性については,岸本・村瀬(2014)において検証されている。また,学力調査(県学力到達度調査:12月と市標準学力調査:2月)の結果を昨年と比較する。
手続き 第1回調査(2016年7月実施):3小学校5年生293名全児童を対象に,Q-Uテストと質問紙調査について,校長の許諾を得て,各担任に質問紙を配布し,各学級にて担任の判断によって適切な時間に実施した。
第2回調査(2017年2月):児童の変化を評価する事後の調査として,Q-Uテストと質問紙調査を第1回と同様に実施した。
結果と考察
Q-Uテストの結果は,とくに発達障害の可能性があると考えられた児童のうち,7月時点で「学校生活不満足群」・「侵害行為認知群」・「非承認群」にあった児童(154名)の分布について分析した。Figure 1に示すように,分析対象154名のうち41名が「学校生活満足群」に移行している(26.6%)。
さらに,質問紙調査の結果では,「ストレス項目」得点が有意に減少していた(Fig. 2)。このように発達障害の可能性のある児童にとって,ストレスが軽減されるということは,まさに二次障害の予防につながる本事業の成果である。先のQ-U調査の結果とあわせて,本事業の目的である二次障害の予防に効果をあげていることが推測される。さらに,成果が3校に見られることから,他校においても本実践が可能であることが認められたと考えられる。
また,県学力到達度調査の結果を対象児童が4年生当時(12月)と今年度5年次(12月)を比較したところ,3校平均して5.5Pの向上が見られた。その他,市標準学力調査(2月)においても,昨年度との比較から3校平均で4.4Pの得点の向上が認められた。
以上の結果から,本事業の実践は,インクルーシブ教育の推進が,協同的な学びを軸とした授業の中でより効果的に実現できる可能性を示唆していると同時に,効果的な早期支援体制の構築にも寄与するものと思われる。