The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(65-89)

ポスター発表 PG(65-89)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PG67] 「絵本あそび」を通した社会性とコミュニケーションの支援

オノマトペ絵本による「情動表出」「情動調整」「情動共有」の促進

仲野みこ1, 石川由美子2, 岩野泰代#3, 内倉広大#4, 小笠原志乃#5, 田盛信寿#6, 當眞正太#7, 根岸由香#8, 森下俊一9 (1.筑波大学附属大塚特別支援学校, 2.宇都宮大学, 3.筑波大学附属大塚特別支援学校, 4.鹿児島大学附属特別支援学校, 5.筑波大学附属大塚特別支援学校, 6.沖縄県立美咲特別支援学校, 7.筑波大学附属大塚特別支援学校, 8.筑波大学附属大塚特別支援学校, 9.聖学院大学大学院)

Keywords:絵本, 情動調整, 社会コミュニケーション

目   的
 知的障害児は,社会性やコミュニケーションに課題が指摘されることが多い。本来,子どもにとっての社会性やコミュニケーションの学びの場は子ども同士のあそびにある。しかし,知的障害児は,このあそびという「発達の舞台」に上がることに困難がある。そこで,本研究では,子どもの言語発達を促し,初期社会性の基盤となる共同注意が生起しやすいと言われる絵本を媒介に,絵本の読み合いとその内容に沿った枠組みであそびを展開する「絵本あそび」を通して,知的障害児への社会性やコミュニケーション支援の方法を検討することとした。特に,オノマトペには,情動・知覚・行為が不可分的に含まれており,言葉を獲得する過程にある幼児にも「何が,どんなふうに,どうした」などの意味を理解したり,模倣したりしやすいことからこれを選定した。
方   法
1)対象児:特別支援学校幼稚部に在籍する知的障害(広汎性発達障害,自閉症,ダウン症,精神運動発達遅滞,脳性まひを含む)を伴う3,4,5歳の幼児14名。K式発達検査において発達年齢は9ヶ月~4歳7ヶ月と幅広い。
2) 指導目標:絵本あそびを通して,動きや発話を模倣したり,気持ちや考えを言葉やジェスチャーで伝えたりして,あそびの楽しさを共有する。
3) 指導期間と場所:2014年6月~2016年5月までの2年間。週1回程度,1年間をⅠ期~Ⅳ期に分け,合計40回 (年間20回),A特別支援学校幼稚部の設定保育場面で行った。
4) 活動の概要:①絵本の読み合い:教師と子どもが絵本を一緒に読みながら,動き,言葉,発声,ジェスチャーなどでやりとりする活動を行った。②絵本あそび:①の後,絵本の内容に沿った枠組みで,オノマトペの歌を交えながら,具体物を使ったあそびを行った。
5) 援助方法:
【物的環境】①くりかえしのある絵本,系列のある絵本,物語性のある絵本の三種類を段階的に読んだ。②絵本の内容に関連させて,具体物や見立て教材を使ったあそびを設定した。③読み手と子どもの間に,自由に動き回れる十分なスペースを空けた。無地の生地で覆った背景の舞台を設置した。
【対人的環境】オノマトペに合わせた自然なジェスチャーで,子どもの反応に合わせて模倣したり応答したりした。③具体物を使ったあそびでは,自発的な行動を尊重して見守り,必要に応じて段階的援助を行った。
結   果
1年目:2014年6月~2015年5月
Ⅰ期:教師の動きを模倣しながらも,独自のイメージを動作や発声・発話で表現したり,絵本の登場人物になったりというふりあそびがみられるようになった。一方,情動が高まり教師に思いきりぶつかるという行動も増加した。
Ⅱ期:教師が野菜をトントントンとリズム良く切るジェスチャーをすると,多くの子どもが模倣した。絵本の系列に沿って,自発的に野菜や鍋を運ぶなど協力しながらカレーライスを作る見立てあそびがみられた。
Ⅲ期:物語性のあるオリジナル絵本を題材に,ねずみとワニの役になって舞台で劇あそびができるようになった。前半,くりかえしのある話から一転,突然,怖いワニの登場で,物語に転調が起こると「僕たちを食べないで!」等,登場人物の視点に立ったオリジナルの台詞がみられるようになった。
Ⅳ期:Ⅲ期と同じ題材で絵本あそびを行ったところ,個々にやりたい役を選んだり,役割交替したりして,子ども主導で物語を進行するなどごっこあそびに発展していった。この頃には,周囲とぶつかることなく,調整された動きを共有し,同じタイミングで着席するようになった。
指導期後:年長の自閉症の男児が,自発的に自作の絵本を制作し,友だちの前で発表した。友だちからの質問に答えたり,「どこに行ってみたい?」と尋ねたりする様子も見られた。
2年目:2015年6月~2016年5月
Ⅰ期:大きな発話や発声,粗大運動が引き出された。
Ⅱ期~Ⅲ期:カレーライスやジュースの具材になって,大鍋やミキサーに見立てた入れ物に入って,歌に合わせてぐるぐるとまわったり,食べたり飲んだりするふりあそびができた。
Ⅳ期:登場人物のさるになって,「る」のつく動詞を探しに行く冒険に出かけるという物語の世界を体験し,「なげる」「ひっぱる」「いれる」などの動作と言葉の意味を理解し行動する様子が見られた。
指導期後:自由あそび場面で,ダウン症の年長の女児が絵本の読み手になって,自然と集まってきた新入生に絵本の読みきかせを行い一緒に楽しむ様子が見られた。
考   察
 絵本の読み合いを通して,身体的な動きが引き出され,身体的な動きに興奮や期待,楽しさなどの情動が同期していった。こうして絵本を媒介に情動が表出されることで,他者との間での情動調整や情動共有が生起し,イメージの共有,ふりや見立ての活動が促進されたと考えられる。さらに絵本の内容に沿った枠組みの中で,物語の登場人物になってあそび,自らが,その視点に立って意図や情動を表出することで物語の理解も支えられ,ごっこあそびに発展し,その後のオリジナル絵本の作成や下級生への読み聞かせにもつながったと考えられる。以上のことから,絵本あそびは知的障害児にとって,社会性とコミュニケーションの支援方法として有効だといえる。
附記:本研究は,居林弘和氏,福谷憲司氏(筑波大学附属大塚特別支援学校),大蔵みどり氏(文京区立お茶ノ水大学こども園),末吉彩香氏(筑波大学大学院)河原恭代氏との共同研究である。