[PG70] いじめ撲滅劇参加による中学生の変容
劇参加から7・8カ月後における生徒の変容の検討
Keywords:いじめ撲滅, 演劇, 自己変容
問題と目的
いじめ撲滅劇は,寝屋川市内の12中学校の生徒会メンバーが劇参加の中で,他校の生徒や教師といった他者と関わりながら,いじめという深刻な問題に向き合いそこで共有した思いを,劇という作品に仕上げていくという過程を経験する取組である。この経験が,いじめに対する意識はもちろん,その他の側面においてもさまざまな変容をもたらす学びの機会となっている。毎年の参加生徒の様相からは,劇の参加が劇参加直後だけでなく,一定の時間経過後も,意識・行動面での変容が見られるなど,その後の学校生活にもポジティブな影響を与えているものと考えられる。
そこで,本研究では,いじめ撲滅劇参加7・8ヶ月後という時間経過の中で,劇参加による学びの経験が,その後の生活にどのような影響を与え,そこで生じた意識・行動面での変容の側面を抽出し,その内容について記述することを目的とする。
方 法
平成26年度いじめ撲滅劇参加生徒22名を対象に,劇参加より7・8ヶ月後にインタビュー(半構造化面接)を実施した。
劇の参加者には劇参加前,参加直後にも自由記述による質問紙の調査を実施しており,その分析から抽出した概念を参考に,インタビュー項目を検討した。実施時期は平成27年3~4月で,以下の⑴~⑶の質問項目でインタビューを行った。
⑴ 劇のことを今も思い出すか?:1「しょっちゅう思い出す」2「ときどき思い出す」3「まあまあ思い出す」4「あまり思い出さない」5「全く思い出さない」の5段階での回答
⑵ 劇参加から自分のいじめ観は変わったか?
⑶ 劇に参加して変わった点,特に人との関わり方・接し方で,変わった点はあるのか?
結果と考察
質問⑴の「劇のことをどれくらい思い出すか」では,52.4%の参加生徒が「しょっちゅう思いだす」あるいは「よく思い出す」と答えており,劇での経験が強烈なものとして,劇上演より7・8ヶ月を経ても記憶に残っている者が多いことが明らかとなった。
質問⑵・⑶については,M-GTA(木下,2003)の研究法にのっとり概念を抽出した(Table 1)。
質問⑵からは,【いじめ観】というカテゴリーに属する5個の概念を抽出した。演劇独特の他者になるという活動を通して,『いじめの認識の深まり』が見られ,今の中学生が抱きがちないじめの原因をいじめられる本人に帰属させるいじめ観との決別など,いじめをなくしたいという,より強い意識面での変容が見られる者も多く存在した。
また,そうした意識面での変容だけでなく,劇参加後,11名が見聞きしたという『日常でのリアルないじめ事象』に対して,いじめを止める何らかの行動に踏み出した者が31.8%いた。反面,いじめを止める行動には至らず,もしあったとしても自分は出来ないと考える者も27.2%おり,それらは,過去のトラウマや現在の友人関係を壊したくないという思いが原因として考えられる。
質問⑶では,「他者との関わり」というカテゴリーに属する概念を8個抽出した。劇の練習を通して,参加メンバーの間では実際のクラスを思わせるような『参加者の親密性』が生まれ,劇終了後も『継続中の交流』という様態が見られた。『円満な人間関係の構築』を生み出せた自信は,その後の学校生活にもいかされ,クラスメート等への『積極的な他者への関わり』につながったと考えられる。更に『活動で得た自信・役立ち』は,次年度の新生活に踏み出す際のポジティブな抱負と共に【未来への影響】をもたらすことが推察される。
このように劇参加から,一定の時間経過後も,劇参加からの学びが記憶として,内面世界に位置づけられ,それによってもたらされた参加者の意識・行動面の変容が,学校生活にポジティブな影響を与えていることが明らかとなった。
参考文献
木下康仁(2003).グラウンデッド・セオリー・アプローチ-質的実証研究への誘い― 弘文堂
いじめ撲滅劇は,寝屋川市内の12中学校の生徒会メンバーが劇参加の中で,他校の生徒や教師といった他者と関わりながら,いじめという深刻な問題に向き合いそこで共有した思いを,劇という作品に仕上げていくという過程を経験する取組である。この経験が,いじめに対する意識はもちろん,その他の側面においてもさまざまな変容をもたらす学びの機会となっている。毎年の参加生徒の様相からは,劇の参加が劇参加直後だけでなく,一定の時間経過後も,意識・行動面での変容が見られるなど,その後の学校生活にもポジティブな影響を与えているものと考えられる。
そこで,本研究では,いじめ撲滅劇参加7・8ヶ月後という時間経過の中で,劇参加による学びの経験が,その後の生活にどのような影響を与え,そこで生じた意識・行動面での変容の側面を抽出し,その内容について記述することを目的とする。
方 法
平成26年度いじめ撲滅劇参加生徒22名を対象に,劇参加より7・8ヶ月後にインタビュー(半構造化面接)を実施した。
劇の参加者には劇参加前,参加直後にも自由記述による質問紙の調査を実施しており,その分析から抽出した概念を参考に,インタビュー項目を検討した。実施時期は平成27年3~4月で,以下の⑴~⑶の質問項目でインタビューを行った。
⑴ 劇のことを今も思い出すか?:1「しょっちゅう思い出す」2「ときどき思い出す」3「まあまあ思い出す」4「あまり思い出さない」5「全く思い出さない」の5段階での回答
⑵ 劇参加から自分のいじめ観は変わったか?
⑶ 劇に参加して変わった点,特に人との関わり方・接し方で,変わった点はあるのか?
結果と考察
質問⑴の「劇のことをどれくらい思い出すか」では,52.4%の参加生徒が「しょっちゅう思いだす」あるいは「よく思い出す」と答えており,劇での経験が強烈なものとして,劇上演より7・8ヶ月を経ても記憶に残っている者が多いことが明らかとなった。
質問⑵・⑶については,M-GTA(木下,2003)の研究法にのっとり概念を抽出した(Table 1)。
質問⑵からは,【いじめ観】というカテゴリーに属する5個の概念を抽出した。演劇独特の他者になるという活動を通して,『いじめの認識の深まり』が見られ,今の中学生が抱きがちないじめの原因をいじめられる本人に帰属させるいじめ観との決別など,いじめをなくしたいという,より強い意識面での変容が見られる者も多く存在した。
また,そうした意識面での変容だけでなく,劇参加後,11名が見聞きしたという『日常でのリアルないじめ事象』に対して,いじめを止める何らかの行動に踏み出した者が31.8%いた。反面,いじめを止める行動には至らず,もしあったとしても自分は出来ないと考える者も27.2%おり,それらは,過去のトラウマや現在の友人関係を壊したくないという思いが原因として考えられる。
質問⑶では,「他者との関わり」というカテゴリーに属する概念を8個抽出した。劇の練習を通して,参加メンバーの間では実際のクラスを思わせるような『参加者の親密性』が生まれ,劇終了後も『継続中の交流』という様態が見られた。『円満な人間関係の構築』を生み出せた自信は,その後の学校生活にもいかされ,クラスメート等への『積極的な他者への関わり』につながったと考えられる。更に『活動で得た自信・役立ち』は,次年度の新生活に踏み出す際のポジティブな抱負と共に【未来への影響】をもたらすことが推察される。
このように劇参加から,一定の時間経過後も,劇参加からの学びが記憶として,内面世界に位置づけられ,それによってもたらされた参加者の意識・行動面の変容が,学校生活にポジティブな影響を与えていることが明らかとなった。
参考文献
木下康仁(2003).グラウンデッド・セオリー・アプローチ-質的実証研究への誘い― 弘文堂