[PG86] eラーニング環境下で学ぶ高校生の自己調整学習態度と動機づけ,パーソナリティとの関係
Keywords:自己調整学習, eラーニング, 高校生
問題と目的
時間や場所にとらわれない非同期型eラーニングにおいて,掲示板への書き込みなどにより自己及び他者の思考を可視化し,学習者同士が評価し合う活動(以下,相互評価活動)が,その環境下における自己調整学習(OSRLI: The Online Self-Regulated Inventory; Cho & Jonassen, 2009)を向上させるということが報告されている(荒木ら,2016)。ただし,一般に,相互評価活動は,高校生にとっては,時間の制約や困難性を伴う活動であることから,その活動には学習への高い動機づけや積極性が影響することが予測される。
今後,学校教育のなかで,従来の教授法とeラーニングを併用したブレンディッド・ラーニングの導入が飛躍的に増えることを前提とするならば,より学習の個別化が進む。そのために,情動性や動機づけなどの個人差とeラーニングにおける学びとの関係性を解明することが,その適切な指導の実施や,環境の整備に必要となる。
本研究では,ブレンディッド・ラーニング環境下で2年以上学んできた経験者に加えて,これから当該環境下で学ぶ初心者を対象として,上記の自己調整学習(OSRLI)と,TIPI-J(Ten Item Personality Inventory: 小塩ら,2012), NFC(The Need for Cognition; Cacioppoら1996)の質問紙により,それらの関係性を調べた。
方 法
対象者
LMS(Learning Management System)を運用する大都市圏にあるA高校及びB高校の1年生から3年生までの134名のうち,欠損値がない132名が分析対象であった(初心者群[n=56]と経験者群[n=76])。LMSは授業担当教員と生徒が実名で登録し,クラス内で閉じられていた。
材料
OSRLIは27項目(二因子:情動/動機,交流方略,5件法),TIPI-Jは10項目(7件法),NFCは15項目(7件法)であった。
手続き
教員がブレンディッド・ラーニングについて説明をした後に,アンケートへの回答を得た。なお,調査は2016年2月に実施された。
結果と考察
OSRLI(情動/動機,交流方略)の因子得点とTIPI-J(外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性)の因子得点,NFCの全体得点とを算出したうえで,各群の相関関係を調べた。その結果,初心者群では、情動/動機尺度得点と外向性(γ=.27)及び開放性(γ=.32)に有意な正の相関が確認された。また経験者群ではOSRLI全体得点とNFC(γ=.27),情動/動機尺度得点とNFC(γ=.27)に有意な正の相関が確認された(ps<.05)。
これらの結果から,eラーニング環境下の自己調整学習を支援するうえで,導入の初期段階においては,学習者個人のパーソナリティ特性を考慮した対応が,教員にとって必要であることが示唆された。また,導入が進んだ段階においては,いかに動機づけを高める,あるいは維持させるための仕掛けが必要であるかということも示唆された。
これらの結果と考察を受けて,今後の研究では,どのように初心者と経験者に対して,教員側の対応を変えていくかという具体的な手立てを検討していくことが必要である。
引用文献
荒木貴之・森田 哲・乾 武司・堀田龍也(2016).eラーニングにおける高校生の自己調整学習の 実態に関する分析.第60回システム制御情報学会研究発表講演会
Cho, M. H., & Jonassen, D. (2009). Development of the human interaction dimension of the self-regulated learning questionnaire in asynchronous online learning environments. Educational Psychology, 29, 117-138
小塩真司・阿部晋吾・カトローニピノ(2012).日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み. パーソナリティ研究, 21, 40-52
Cacioppo, J. T., Petty, R. E., Feinstein, J. A., & Jarvis, W. B. G. (1996). Dispositional differences in cognitive motivation: The life and times of individuals varying in need for cognition. Psychological Bulletin, 119, 197-253
時間や場所にとらわれない非同期型eラーニングにおいて,掲示板への書き込みなどにより自己及び他者の思考を可視化し,学習者同士が評価し合う活動(以下,相互評価活動)が,その環境下における自己調整学習(OSRLI: The Online Self-Regulated Inventory; Cho & Jonassen, 2009)を向上させるということが報告されている(荒木ら,2016)。ただし,一般に,相互評価活動は,高校生にとっては,時間の制約や困難性を伴う活動であることから,その活動には学習への高い動機づけや積極性が影響することが予測される。
今後,学校教育のなかで,従来の教授法とeラーニングを併用したブレンディッド・ラーニングの導入が飛躍的に増えることを前提とするならば,より学習の個別化が進む。そのために,情動性や動機づけなどの個人差とeラーニングにおける学びとの関係性を解明することが,その適切な指導の実施や,環境の整備に必要となる。
本研究では,ブレンディッド・ラーニング環境下で2年以上学んできた経験者に加えて,これから当該環境下で学ぶ初心者を対象として,上記の自己調整学習(OSRLI)と,TIPI-J(Ten Item Personality Inventory: 小塩ら,2012), NFC(The Need for Cognition; Cacioppoら1996)の質問紙により,それらの関係性を調べた。
方 法
対象者
LMS(Learning Management System)を運用する大都市圏にあるA高校及びB高校の1年生から3年生までの134名のうち,欠損値がない132名が分析対象であった(初心者群[n=56]と経験者群[n=76])。LMSは授業担当教員と生徒が実名で登録し,クラス内で閉じられていた。
材料
OSRLIは27項目(二因子:情動/動機,交流方略,5件法),TIPI-Jは10項目(7件法),NFCは15項目(7件法)であった。
手続き
教員がブレンディッド・ラーニングについて説明をした後に,アンケートへの回答を得た。なお,調査は2016年2月に実施された。
結果と考察
OSRLI(情動/動機,交流方略)の因子得点とTIPI-J(外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性)の因子得点,NFCの全体得点とを算出したうえで,各群の相関関係を調べた。その結果,初心者群では、情動/動機尺度得点と外向性(γ=.27)及び開放性(γ=.32)に有意な正の相関が確認された。また経験者群ではOSRLI全体得点とNFC(γ=.27),情動/動機尺度得点とNFC(γ=.27)に有意な正の相関が確認された(ps<.05)。
これらの結果から,eラーニング環境下の自己調整学習を支援するうえで,導入の初期段階においては,学習者個人のパーソナリティ特性を考慮した対応が,教員にとって必要であることが示唆された。また,導入が進んだ段階においては,いかに動機づけを高める,あるいは維持させるための仕掛けが必要であるかということも示唆された。
これらの結果と考察を受けて,今後の研究では,どのように初心者と経験者に対して,教員側の対応を変えていくかという具体的な手立てを検討していくことが必要である。
引用文献
荒木貴之・森田 哲・乾 武司・堀田龍也(2016).eラーニングにおける高校生の自己調整学習の 実態に関する分析.第60回システム制御情報学会研究発表講演会
Cho, M. H., & Jonassen, D. (2009). Development of the human interaction dimension of the self-regulated learning questionnaire in asynchronous online learning environments. Educational Psychology, 29, 117-138
小塩真司・阿部晋吾・カトローニピノ(2012).日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み. パーソナリティ研究, 21, 40-52
Cacioppo, J. T., Petty, R. E., Feinstein, J. A., & Jarvis, W. B. G. (1996). Dispositional differences in cognitive motivation: The life and times of individuals varying in need for cognition. Psychological Bulletin, 119, 197-253