The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(65-89)

ポスター発表 PG(65-89)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PG87] 学習状況のフィードバックと教師の指導が子どもの自己効力感に与える影響

益岡都萌1, 趙恵香#2, 寺澤孝文3 (1.岡山大学大学院, 2.岡山大学, 3.岡山大学)

Keywords:自己効力感, マイクロステップ法, 教育ビッグデータ

 教育現場において子どもが学習意欲を継続的に維持できることは重要な課題である。小柴・柴山(2007)は自己効力感と学習意欲には強い関連があることを示し,自己効力感を高めることで学習意欲も高まると述べている。しかし,実際に自己効力感を高める具体的な手法を検討した研究はほとんど無い。本研究では,子ども自身が自覚できないほどのわずかな成績の上昇を描き出すことが可能なマイクロステップ法(寺澤,2016)を用いて,長期間にわたり子どもに学習状況の視覚的なフィードバックを行う。またフィードバックに伴い教師が子どもに褒める指導を行うことが,子どもの自己効力感の変動にどのような影響を与えるか検討を行う。
方   法
対象者 公立小学校4校の5年生120名が参加した。
調査期間 2014年9月~2015年3月にわたりマイクロステップ計測法によるドリルが実施された。
刺激 学習教材として漢字の読みのドリルが作成された。学習する漢字の難易度について,レベル1~9までのうち,対象校の教員の選定により,調査期間の前半(2014年9月~11月)においては1校がレベル5の漢字を,他の3校がレベル6の漢字を用いることとした。ただし,調査開始期からすでに成績が最高点を示す子どもが多く見られ,成績の上昇の様子を視覚的にフィードバックすることができないと判断し,後半(2014年11月~2015年3月)では4校ともレベル9の漢字が用いられた。
尺度 自己効力感を測定する尺度として,成田ら(1995)の特性自己効力感尺度23項目のうち,「友人関係」に関する項目を除いた16項目が用いられた。
手続き ドリル学習は漢字に対する到達度の自己評定が4段階で求められた。また毎回のドリルの最後に尺度項目が入れられており,約3週間ごとに全項目に対する反応が収集された。フィードバックと教師の褒める指導のタイミングは各学校と各クラスにより若干のズレが生じたが,目安として前半は2014年10月上旬,10月下旬,11月上旬,12月下旬,後半は2015年1月下旬,2月下旬,3月上旬,3月下旬に実施された。
結果と考察
 前述のとおり調査開始期から成績が最高点を示した子どもに対しては成績の上昇を視覚的に示すことができないと判断し,これらの子どもをフィードバック無効群,その他の子どもをフィードバック有効群とした。分析には欠損値を除いたデータを用いた。フィードバック無効・有効と漢字の難易度及び意識調査の時点の3要因参加者間の分散分析を行ったところ,2次の交互作用は有意ではなく,漢字の難易度の要因と調査時期の要因の交互作用が有意であった(F(3, 614) =3.19, p<.05)。フィードバック無効・有効の要因と漢字の難易度の要因の交互作用に有意傾向が認められた(F  (1, 614) =3.12, p<.10)。フィードバック無効・有効の要因の主効果が有意であった(F(1, 614) =7.14, p<.01)。フィードバック無効・有効群ごとの自己効力感得点の変化を図1に示す。
 以上の結果より,漢字の難易度が上がった後半からフィードバック無効・有効の両群において,学習状況の視覚的なフィードバックと教師の指導が有効に機能し始め,自己効力感が上昇したと考えられる。本研究は継続的に子どもの自己効力感の変動を測定し,さらに自己効力感を上昇させる具体的な方法を明示したといえる。
引用文献
寺澤孝文(2016).教育ビッグデータから有意義な情報を見いだす方法―認知心理学の知見をベースにした行動予測― 教育システム情報学会誌,33(2),67-83.