The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(65-89)

ポスター発表 PG(65-89)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PG89] 成人における交通場面の移動に関する注意不全の構造

小菅英恵1, 熊谷恵子2 (1.筑波大学大学院, 2.筑波大学)

Keywords:注意機能, 交通場面, 探索的因子分析

目   的
 本研究では,成人ADHD者および健常高齢者の交通場面の安全支援研究の端緒として,一般成人の交通参加者と比較し,成人ADHD者や健常高齢者の移動時に求められる注意特性を評価する尺度の作成を目的とする。
 本報告では,一般成人の移動時の注意不全に関する因子構造の検討について報告する。
方   法
調査対象者:Web調査会社(マクロミル社)にパネル登録された全国の30代~50代の男女208名(男性103名・女性105名)。なお年代毎約70名となるよう均等割り付けを行なった。
移動時注意不全チェックシート(仮称):質問項目は,注意理論(Wickens & McCarley, 2008)および既存の質問紙(山田,1999;篠原他,2007;Reason et al ,1990)などを参考に,1注意の転導,2変化の気づき,3注意の切り替え,4覚醒水準低下,5空間・時間認識の不注意など,移動時に要する注意機能を仮定し項目を整理した。最終的に5つの機能毎に独自に作成した45項目からなる質問項目を作成した。
 回答は,普段の移動中,過去1年の間に生じた頻度について,6件法(「全く無かった」~「非常によくあった」)で求めた。また通勤・買い物など,普段自分自身が移動しているところをイメージしながら回答するよう教示した。
手続き:回答者は,調査データの匿名性が確保される点など,研究倫理に関わる説明を確認し,同意後にWeb画面上で,フェイスシート,ADHDチェックリスト,移動時注意不全チェックシートへの回答を求められた。
結果と考察
 各質問の回答は「全く無かった」から1点刻みで得点化し,逆転項目は逆の得点化を行なった。208名45項目毎基本統計量を算出し,最小値-最大値の幅が狭く,かつ中央値が1の5項目を除いた。
 40項目について平行分析の結果から,4因子解とした。最尤法・プロマックス回転で探索的因子分析(累積寄与率60%,RMSEA=.077,BIC=-2062.19)を行ない,いずれの項目に.40以下の因子負荷量を示す項目と,複数の項目に同程度の負荷を示す項目を削除し,最終的に30項目を採用した(Table 1)。
 第Ⅰ因子は,気が付いた時にはすでに逸脱,衝突などの事象が発生していた質問項目を多く含み,「注意の制御不全」と解釈した。第Ⅱ因子は,状況に応じて注意を適切に働かせ(shifting)たり,課題遂行中に,別の課題の処理を遂行できる能力と考えられ,「注意の変更機能」と解釈した。第Ⅲ因子は,ビジランスの維持に関わると考えられ,「覚醒水準の低下」と解釈した。第Ⅳ因子は,外部環境からの刺激の割り込みの抑制や切替機能の不全による注意の逸れやすさを反映すると考えられ,「注意の転導性」と解釈した。
 また,因子毎尺度得点を算出し,因子間の相関係数を求めた結果,第Ⅰ因子と第Ⅲ因子(r=.81)および第Ⅳ因子(r=.78),第Ⅲ因子と第Ⅳ因子 (r=.74)間に有意な正の相関関係がみられた。
 交通場面の移動時には,本分析で確認された覚醒水準の低下とも関わる注意機能の不全が,不注意現象の背景要因となっていることが示唆された。
 今後は移動時の注意不全と,成人ADHD傾向および認知的加齢との関係について検討する必要がある。