[PH04] 自己愛的脆弱性が自己開示の適切性と抑うつ感にもたらす影響の検討
Keywords:自己愛的脆弱性, 自己開示, 抑うつ感
問題と目的
自己愛は対人関係を築いたり,自分の心の持ち様を決めたりする際に,重要な要素の一つである。自己愛の病理は,誇大型と過敏型に分類され,過敏型の一つの特徴として,自己愛的欲求の表出に伴う不安や他者の反応による傷つきなどを処理し,心理的安定を保つ力が脆弱である,自己愛的脆弱性がある。この自己愛的脆弱性は,対人恐怖との関連(上地・宮下,2009)や,自己不全感・空虚感との関連(稲永,2010)があることが明らかとなっている。そこで本研究では,対人関係の構築や維持に重要となる自己開示に注目し,自己愛的脆弱性が自己開示と抑うつ感に与える影響を検討することで,自己愛の問題による対人関係上のつらさを明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象者:大学生354名(男性140名,女性214名)。
調査方法:無記名による一斉式の質問紙調査。
調査内容:①自己愛的脆弱性尺度短縮版(上地・宮下,2009)。②適切な自己開示尺度及び不適切な自己開示尺度(森脇・坂本・丹野,2002)。③日本語版抑うつ状態チェックリスト改訂版(長谷川・伊藤・矢澤・根建,2010)。ただし,教示文を一部変更し,現時点での精神状態を尋ねた。
結果と考察
自己愛的脆弱性尺度短縮版における「潜在的特権意識」「自己顕示抑制」「承認・賞賛過敏性」「自己緩和不全」の4つの下位尺度得点を用いて,Ward法によるクラスター分析を行い,4つのクラスターを得た。「潜在的特権意識」以外の下位尺度が平均よりやや高い「過敏群」,「潜在的特権意識」のみ平均よりやや高い「誇大群」,4下位尺度得点すべてが高い「脆弱群」,4下位尺度得点すべてが低い「非脆弱群」である。
これらの4タイプによって,自己開示の方法及び抑うつ感に差があるかを検討するために,クラスターを独立変数,適切な自己開示尺度・不適切な自己開示尺度・日本語版抑うつ状態チェックリスト改訂版のそれぞれの下位尺度得点を従属変数とした一要因分散分析を行った(Figure 1)。自己開示については,「聞き手への配慮」で過敏群・誇大群・脆弱群が非脆弱群よりも得点が高く,「場所選択」で過敏群・脆弱群が非脆弱群よりも得点が高かった。また,「しつこさ」で過敏群・脆弱群が非脆弱群よりも得点が高く,「ネガティビティ」で過敏群・脆弱群が誇大群・非脆弱群よりも得点が高かった。つまり,自己の不安を緩和することがやや難しく,周囲の反応に過敏的であったり,自己表現を抑えたりする傾向のある人や,自己愛的脆弱性のすべての特性を持つ人は,相手に配慮をしたり,場所や周囲の様子に考慮した自己開示を行うだけでなく,何度も同じ話を繰り返したり,自己開示内容がネガティブなものに偏るということであった。
また,抑うつ感については,「情動形容詞群」で脆弱群が過敏群よりも,過敏群が非脆弱群よりも得点が高く,「ネガティブな自己視点形容詞群」で過敏群・脆弱群が非脆弱群よりも,脆弱群が誇大群・非脆弱群よりも得点が高かった。つまり,自己愛的脆弱性のすべての特性を持つ人は,抑うつ気分,全般的な自己否定傾向が共に高く,どの特性も持たない人は共に低いということであった。
これらのことから,自己愛的脆弱性のすべての特性を持つ人と,他者からの特別な配慮を求めないがその他の自己愛の特徴についてはやや持つ人は,他者からの否定的な評価を恐れるため,適切な自己開示に努めようとする一方で,他者に話すことで心理的安定を保とうとするために,自己開示にしつこさが生じたり内容がネガティブに偏ったりもしてしまい,自己開示が不適切にもなる傾向を併せ持つことが言えよう。また,これらの人は抑うつ気分が高いだけでなく,全般的な自己否定の傾向も高いことから,自己への否定的な意識が抑うつ感をさらに高める要因となっているのではないかと考えられる。
自己愛は対人関係を築いたり,自分の心の持ち様を決めたりする際に,重要な要素の一つである。自己愛の病理は,誇大型と過敏型に分類され,過敏型の一つの特徴として,自己愛的欲求の表出に伴う不安や他者の反応による傷つきなどを処理し,心理的安定を保つ力が脆弱である,自己愛的脆弱性がある。この自己愛的脆弱性は,対人恐怖との関連(上地・宮下,2009)や,自己不全感・空虚感との関連(稲永,2010)があることが明らかとなっている。そこで本研究では,対人関係の構築や維持に重要となる自己開示に注目し,自己愛的脆弱性が自己開示と抑うつ感に与える影響を検討することで,自己愛の問題による対人関係上のつらさを明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象者:大学生354名(男性140名,女性214名)。
調査方法:無記名による一斉式の質問紙調査。
調査内容:①自己愛的脆弱性尺度短縮版(上地・宮下,2009)。②適切な自己開示尺度及び不適切な自己開示尺度(森脇・坂本・丹野,2002)。③日本語版抑うつ状態チェックリスト改訂版(長谷川・伊藤・矢澤・根建,2010)。ただし,教示文を一部変更し,現時点での精神状態を尋ねた。
結果と考察
自己愛的脆弱性尺度短縮版における「潜在的特権意識」「自己顕示抑制」「承認・賞賛過敏性」「自己緩和不全」の4つの下位尺度得点を用いて,Ward法によるクラスター分析を行い,4つのクラスターを得た。「潜在的特権意識」以外の下位尺度が平均よりやや高い「過敏群」,「潜在的特権意識」のみ平均よりやや高い「誇大群」,4下位尺度得点すべてが高い「脆弱群」,4下位尺度得点すべてが低い「非脆弱群」である。
これらの4タイプによって,自己開示の方法及び抑うつ感に差があるかを検討するために,クラスターを独立変数,適切な自己開示尺度・不適切な自己開示尺度・日本語版抑うつ状態チェックリスト改訂版のそれぞれの下位尺度得点を従属変数とした一要因分散分析を行った(Figure 1)。自己開示については,「聞き手への配慮」で過敏群・誇大群・脆弱群が非脆弱群よりも得点が高く,「場所選択」で過敏群・脆弱群が非脆弱群よりも得点が高かった。また,「しつこさ」で過敏群・脆弱群が非脆弱群よりも得点が高く,「ネガティビティ」で過敏群・脆弱群が誇大群・非脆弱群よりも得点が高かった。つまり,自己の不安を緩和することがやや難しく,周囲の反応に過敏的であったり,自己表現を抑えたりする傾向のある人や,自己愛的脆弱性のすべての特性を持つ人は,相手に配慮をしたり,場所や周囲の様子に考慮した自己開示を行うだけでなく,何度も同じ話を繰り返したり,自己開示内容がネガティブなものに偏るということであった。
また,抑うつ感については,「情動形容詞群」で脆弱群が過敏群よりも,過敏群が非脆弱群よりも得点が高く,「ネガティブな自己視点形容詞群」で過敏群・脆弱群が非脆弱群よりも,脆弱群が誇大群・非脆弱群よりも得点が高かった。つまり,自己愛的脆弱性のすべての特性を持つ人は,抑うつ気分,全般的な自己否定傾向が共に高く,どの特性も持たない人は共に低いということであった。
これらのことから,自己愛的脆弱性のすべての特性を持つ人と,他者からの特別な配慮を求めないがその他の自己愛の特徴についてはやや持つ人は,他者からの否定的な評価を恐れるため,適切な自己開示に努めようとする一方で,他者に話すことで心理的安定を保とうとするために,自己開示にしつこさが生じたり内容がネガティブに偏ったりもしてしまい,自己開示が不適切にもなる傾向を併せ持つことが言えよう。また,これらの人は抑うつ気分が高いだけでなく,全般的な自己否定の傾向も高いことから,自己への否定的な意識が抑うつ感をさらに高める要因となっているのではないかと考えられる。