The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PH07] 留学価値が留学生活適応感・充実感に及ぼす影響

在日中国人私費留学生を対象に

肖雨知1, 本田恵子2 (1.筑波大学大学院, 2.早稲田大学)

Keywords:留学価値, 異文化適応, 目標内容理論

問題と目的
 従来の留学生を対象とした異文化適応研究では,不適応に着目し,不適応を精神衛生的文脈に捉えたものが多い(例:井上・谷,1997など)。しかし,近年,ポジティブ心理学の風潮を受け,異文化適応の研究視点の転換が求められている。
 留学という行動は,常に留学を通じて何かを得よう,達成しようという願望が先立っている。こうした留学における価値は留学全体的な方向性を示し,留学の適応感・充実感に影響を及ぼすと考えられる。そこで,本研究では,自己決定理論の1つの下位理論―目標内容理論に基づき,留学前の留学に対する価値付けが留学生活適応感及び充実感に及ぼす影響を検討する。
方   法
 参加者及び手続き 2015年の9月上旬から11月末にかけて,日本全国各地の大学の中国人留学生会に依頼し,無記名式の質問紙調査を行なった。有効回答数は118名であった(男子53名,女子65名。専門学校生・大学学部生60名,大学院生58,専門学校・短期大学・大学学部・大学院に正式に在籍している私費留学生の回答のみ)。
 質問紙の構成 ①フェイスシート:年齢・性別・学校類型・学年・経済状況・来日前の日本語能力について尋ねた。②留学価値尺度:Kasser & Ryan(1993,1996)の人生目標尺度(Aspiration Index)のうち留学と関連している12項目を選び,「留学価値尺度」を作成した。回答は7件法(1点当てはまらない~7点非常に当てはまる)であった。③留学生活適応感尺度:植松(2004)の異文化適応感尺度を参照し,「対人領域」,「学習領域」及び「心理的適応」の20項目を選び,4件法(当てはまらない1点~とても当てはまる4点)で評定してもらった。④充実感気分尺度:大野(1984)が作成した充実感尺度のうち一般充実感気分という下位尺度(5項目)を5件法(1当てはまらない~5非常に当てはまる)で評定してもらった。なお,より正確に回想してもらい,日本語理解の誤差を減少するため,全ての調査は中国語で実施した。
 分析モデル 本研究の分析モデルは田中・松尾(1994)の異文化適応感階層モデルに参考して作成した。対人領域における適応感が適応の基盤となり,その上に学業領域における適応感,更にその上に充実感という階層があると予め仮定した。また,心身的健康を適応の結果として仮定した。
結果と考察
 因子分析 留学価値尺度及び留学生活適応感尺度に対して主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。留学の価値が金銭的成功と社会的名声をもたらすと位置づける「外発的留学価値」と,留学の価値が自己成長・自己理解,または社会貢献につながる「内発的留学価値」という2因子構造がみられた(α=.81,.81)。これは先行研究と一致している。また,留学生活適応感尺度に関して,「対人領域」,「心身的健康」,「学習領域」という3因子の構造が見られた(α=.89,.83,.83)。
 共構造分散分析(SEM) 留学価値が留学生活適応感及び充実感に及ぼす影響の因果モデルを検証するため,Amos19を使用し,共構造分散分析を実施した。モデル全体の適合度χ2=3.33 GFI=.99 AGFI=.94 CFI=1.00 RMSEA=.00 AIC=38.29であり,良好な値が示された。分析結果をFigure 1に示す。
 「外発的留学価値」から3つの適応領域に負の影響を与え,「内発的留学価値」は「対人領域」及び「充実感気分」に正の影響を与えた。また,「対人領域」から「学習領域」,「学習領域」から「充実感気分」,「対人・学習領域」から「心身的健康」へのパス係数は有意であった。
 今回の研究では,留学価値と留学生活適応感・充実感間の因果関係が認められた。結果からみると,外発的留学価値を持つ人は留学生活における適応感が低く,内発的留学価値を持つ人は留学生活における適応感が高いということであった。本研究の結果より,介入方法の1つとして全体的に適応感を高めるために内発的留学価値を促すこと,外発的留学価値を低める働きかけをすることが有効であることが示唆された。