[PH08] 養護教諭からみた東日本大震災後の児童における心身症状の変化
Keywords:東日本大震災, 心理的反応, 共起ネットワーク分析
目 的
本研究では,東日本大震災において津波の被害が顕著であった三県(岩手・宮城・福島)における子どもの心身症状の変化について,養護教諭を対象とした質問紙調査を行った。
方 法
岩手・宮城・福島県内の小中高等学校(特別支援学校含む)2,169校宛てに郵送で質問紙を配布した(2015年12月末配布~2016年1月末回収;回収率51.9%)。西野(2015)に基づき,2011年度および2015年度の子どもの心身症状について身体症状因子(頭痛,腹痛,発熱など13項目),心理的反応因子(不安,恐怖,集中力欠如など7項目),行動変化因子(登校しぶり,不登校の増加,けんかが多いなど9項目)の各項目についてどの程度見られたかを4件法で尋ねた(1:ほとんどみられない~4:大変多い)。また,質問項目には記されていない子どもの心身症状を調査するために,質問項目以外で気になった症状について自由記述を求めた。
結 果
因子分析の結果,身体症状因子,心理的反応因子,行動変化因子が抽出された(最尤法,プロマックス回転)。各因子の平均得点を算出し2(所在地:沿岸/内陸)×2(年度:2011年度/2015年度)の2要因分散分析を行った(図1~3)。その結果,身体症状因子は所在地の主効果のみ有意であった(F (2, 2034)=17.19,p<.001)。心理的反応因子においては年度,所在地の主効果および年度と所在地の交互作用が有意であった(F (2, 2059)=135.54,p<.001; F (2, 2059)=46.24,p<.001; F (2, 2059)=4.18,p<.05)。単純主効果の検定の結果,2011年度と2015年度の沿岸地域における心理的反応得点は内陸地域よりも低いことが示された(p<.001)。また,沿岸地域と内陸地域の2015年度における心理的反応得点は2011年度よりも低いことが示された(p<.001)。
行動変化因子においては年度と所在地の主効果が有意であった(F (2, 2075)=25.67,p<.001; F (2, 2075)=31.20,p<.001)。自由記述についてKHcoder ver. 2.0(樋口,2015)を用い,年度毎に重要単語間の共起関係を分析した(図4)。2011年度では「運動-制限-放射線」という共起関係が見られ,2015年度においても「今-原発-運動-低下」といった共起関係が示された。2015年度では,2011年度には見られなかった,「発達-障害-行動-増える」といった新たな共起関係が出現することも示された。
考 察
分散分析の結果から,沿岸地域では内陸地域よりも心理的反応に関する症状が多く見られたものの,2015年度では2011年度よりも心理的反応に関する症状が低減していることが示された。一方で自由記述の分析から,2015年度も身体面では運動不足が解消されていない地域があること,発達障害と思われる行動が増えていることが示された。
量的分析では沿岸部の子どもの心理的反応が5年間で落ち着いたように見えるものの,質的分析の結果は依然として心理的な問題を抱えた子どもが存在することを示唆している。特に発達障害と思われる行動が増加しているという養護教諭の実感は,発達障害に対する通常の支援だけではなく,震災による心への影響を考慮した支援の必要性を示唆する。
謝辞:本研究は東北福祉大学感性福祉研究所における文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成24年度~28年度)による私学助成を受けている.
本研究では,東日本大震災において津波の被害が顕著であった三県(岩手・宮城・福島)における子どもの心身症状の変化について,養護教諭を対象とした質問紙調査を行った。
方 法
岩手・宮城・福島県内の小中高等学校(特別支援学校含む)2,169校宛てに郵送で質問紙を配布した(2015年12月末配布~2016年1月末回収;回収率51.9%)。西野(2015)に基づき,2011年度および2015年度の子どもの心身症状について身体症状因子(頭痛,腹痛,発熱など13項目),心理的反応因子(不安,恐怖,集中力欠如など7項目),行動変化因子(登校しぶり,不登校の増加,けんかが多いなど9項目)の各項目についてどの程度見られたかを4件法で尋ねた(1:ほとんどみられない~4:大変多い)。また,質問項目には記されていない子どもの心身症状を調査するために,質問項目以外で気になった症状について自由記述を求めた。
結 果
因子分析の結果,身体症状因子,心理的反応因子,行動変化因子が抽出された(最尤法,プロマックス回転)。各因子の平均得点を算出し2(所在地:沿岸/内陸)×2(年度:2011年度/2015年度)の2要因分散分析を行った(図1~3)。その結果,身体症状因子は所在地の主効果のみ有意であった(F (2, 2034)=17.19,p<.001)。心理的反応因子においては年度,所在地の主効果および年度と所在地の交互作用が有意であった(F (2, 2059)=135.54,p<.001; F (2, 2059)=46.24,p<.001; F (2, 2059)=4.18,p<.05)。単純主効果の検定の結果,2011年度と2015年度の沿岸地域における心理的反応得点は内陸地域よりも低いことが示された(p<.001)。また,沿岸地域と内陸地域の2015年度における心理的反応得点は2011年度よりも低いことが示された(p<.001)。
行動変化因子においては年度と所在地の主効果が有意であった(F (2, 2075)=25.67,p<.001; F (2, 2075)=31.20,p<.001)。自由記述についてKHcoder ver. 2.0(樋口,2015)を用い,年度毎に重要単語間の共起関係を分析した(図4)。2011年度では「運動-制限-放射線」という共起関係が見られ,2015年度においても「今-原発-運動-低下」といった共起関係が示された。2015年度では,2011年度には見られなかった,「発達-障害-行動-増える」といった新たな共起関係が出現することも示された。
考 察
分散分析の結果から,沿岸地域では内陸地域よりも心理的反応に関する症状が多く見られたものの,2015年度では2011年度よりも心理的反応に関する症状が低減していることが示された。一方で自由記述の分析から,2015年度も身体面では運動不足が解消されていない地域があること,発達障害と思われる行動が増えていることが示された。
量的分析では沿岸部の子どもの心理的反応が5年間で落ち着いたように見えるものの,質的分析の結果は依然として心理的な問題を抱えた子どもが存在することを示唆している。特に発達障害と思われる行動が増加しているという養護教諭の実感は,発達障害に対する通常の支援だけではなく,震災による心への影響を考慮した支援の必要性を示唆する。
謝辞:本研究は東北福祉大学感性福祉研究所における文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成24年度~28年度)による私学助成を受けている.