日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH09] 思春期の失敗や挫折体験からの立ち直り過程とレジリエンス

①立ち直り群間の比較

和田桂子 (社会福祉法人 青少年福祉センター 児童養護施設 暁星学園)

キーワード:思春期, レジリエンス, 挫折体験

問題と目的
 小塩他(2002)は,ネガティブなライフイベントを経験してもそれを糧とし,乗り越えていくプロセスを理解する際に,レジリエンス(resilience)という概念を指摘している。レジリエンスとは,困難な環境にもかかわらずうまく適応する過程・能力・結果と定義される(Masten, Best & Garmezy, 1990)。本研究では,思春期(中学生・高校生)における挫折体験に焦点を当て,この体験からの立ち直りをレジリエンス獲得の過程と捉える。そして,この体験からの立ち直りが大学生の現在のレジリエンスや自尊感情に与える影響を明らかにすることを目的とする。
方   法
【時期】2015年11月。
【対象者】関東近辺の大学生。
【質問紙の構成】①挫折体験の有無や時期,内容(神谷・伊藤,1999参考にして作成),②現在立ち直っているか,③レジリエンス(小塩他(2002)の精神的回復力尺度と齊藤・岡安(2010)の大学生用レジリエンス尺度のコンピテンスを使用),④自尊感情(山本・松井・山成,1982),⑤年齢・性別。
結果と考察
(1)回答者の属性と挫折体験の実態
 有効回答者は489名(男性213名,女性271名),平均年齢は,20.7歳。思春期の頃に挫折体験が「有った」者が全体の87%おり,「なかった」者は13%であった。挫折体験が有った者のうち,現在も「立ち直っていない」者は7%であった。挫折体験の内容は,「人間関係」が47%と最も多く,「学業」が23%,「継続してきたこと(スポーツ,部活動など)」が22%,「その他」が8%であった。
(3)性別と挫折体験による現在への影響
 挫折体験が有った者を,現在その体験から立ち直っているかどうかで,立ち直り群と,未解決群に分類し,更に,挫折体験がなかった者を加え,3群に分類した(以下,挫折3群)。
 レジリエンスと自尊感情の得点で,挫折3群と性別を要因とした二要因分散分析を実施した。その結果,「新規性追求」と「コンピテンス」では交互作用が有意であった。多重比較の結果,女性において立ち直り群が未解決群,挫折なし群よりも得点が高かった。「感情調整」,「肯定的未来志向」,自尊感情得点に関しては,挫折3群の主効果が1%水準で有意であり,多重比較の結果,いずれも立ち直り群と挫折なし群よりも未解決群の得点が低かった。
 以上より,思春期の挫折体験から現在立ち直っていると感じている者は,未解決の者に比べて,感情を調整する力や,肯定的に未来を捉える力が高まることが示された。また,挫折体験からの立ち直りには性差があり,女性で当時挫折を体験し,現在立ち直っている者は,挫折を体験しなかった者や未解決の者に比べて,レジリエンスの新奇性追求とコンピテンスが高まることが明らかになった。
1)本研究は,平成27年度筑波大学大学院人間総合科学研究科の修士論文であり,松井豊教授の指導のもと執筆された
2)本研究は,筑波大学人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を受けて実施している(課題番号東27-56)