日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH20] アクティブラーニングは大学生の集中度を高めるか

授業の形態が学生の認知と意欲に与える影響

佐藤賢輔1, 後藤さゆり#2, 大森昭生#3 (1.共愛学園前橋国際大学, 2.共愛学園前橋国際大学, 3.共愛学園前橋国際大学)

キーワード:大学生, アクティブラーニング, 集中度

問題と目的
 学習者の能動的な学びを活性化する実践活動として,アクティブラーニングは様々な教育の場で導入されている。しかし,アクティブラーニングを導入すること自体が目的化し,その効果的なあり方については各教員が手探りで模索しているというケースも多く,アクティブラーニングの効果,学生の学びに与える影響,講義型の授業との差異についてデータに基づく活動の点検と改善,知見の一般化が必要である。
 本研究は,アクティブラーニングの導入が大学生の認知や学習行動に及ぼす影響を,講義型授業との比較を通じて明らかにすることを目的とする。特に学生の授業中の集中度と授業外学習時間に注目し,アクティブラーニング型授業(以下AL)と講義型の授業(以下非AL)とで比較する。測定にはクリッカーを利用し,学生の集中度をリアルタイムで測定することで,授業中の集中度の時間的変遷について明らかにすることも目的とする。
方   法
 調査対象授業は共愛学園前橋国際大学2015年度開講科目9科目(AL6科目,非AL3科目)で,参加学生数は196名(AL120名,非AL76名)であった。授業外学習時間は質問紙で,それ以外の質問はすべてクリッカーによって回答させた。
 はじめに授業担当教員が1,2分程度で当日の授業の概要を説明し,直後に受講生に対し事前質問を実施した。事前質問では,理解期待(今日の授業を理解することはどの程度難しそうか),予備知識(今日の授業内容に関する予備知識をどの程度有しているか),自己関連性期待(今日の授業は自分の将来や進路にどの程度関連がありそうか)をいずれも5件法(5段階評価)で尋ねた。
 事前質問実施後,受講生に対して授業中にベルが数回,不規則なタイミングで鳴るので,ベルが鳴った瞬間の自分の集中度を5段階で評価し,クリッカーのボタンで速やかに回答するよう指示し,授業を開始した。教員にはベルが鳴っても授業を中断せず進行するよう指示しており,受講生にもその旨を説明した。ベルを鳴らすタイミングは事前質問終了後20~25分後,40~45分後,60~65分後の3回で,調査者が予め設定し授業の進行状況に関わらず決められた時間にベルを鳴らした。
 授業終了直後,受講生に対して事後質問を実施した。事後質問では,理解度(今日の授業内容をどの程度理解できたか)と自己関連性(今日の授業内容は自分の将来や進路にどの程度関連があったと感じたか)を5件法で尋ねた。また,調査実施から一週間後の当該授業冒頭に前回の授業終了時から現在までの当該科目の学習に費やした時間を8段階で尋ねた。
結果と考察
 すべての測定時点の集中度をもとに平均集中度を算出した結果,ALの平均集中度(3.92)は非AL(3.35)を有意に上回っていた(p < .05)。また,測定時点ごとの活動内容と集中度の関連を調べた結果,AL授業における非AL活動時の平均集中度は非AL授業の平均集中度より有意に高かった。また,AL授業では3つの測定時点いずれにおいても非AL授業の平均集中度を有意に上回っていた(Figure 1)。このことから,AL授業における集中度の高さは,AL活動時の集中度の高さのみでなく,AL活動を予期したことによる学生の授業に対する構えの変化にも由来することが示唆された。
 さらに,AL授業における平均授業外学習時間得点(2.89)は非AL授業(2.26)よりも有意に高く  (p < .05),AL活動を導入することが,学生の学習意欲にも結びついている可能性が示唆された。
 一方,集中度と学習時間および理解,自己関連性の認知との間に明確な関連性は見いだせなかったため,アクティブラーニングが学生の集中度や意欲を高めるメカニズムについてはさらなる検討が必要である。