The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PH29] 考える道徳を目指した授業デザインの開発

道徳的価値の理解を目指す価値基準発見型授業発問の検証

窪田建1, 假屋園昭彦2 (1.鹿児島大学大学院, 2.鹿児島大学)

Keywords:道徳教育, 対話, 協同学習

問題と目的
 現在,道徳教育は大きな岐路に立たされている。平成30年度に小学校,平成31年度に中学校において「特別の教科 道徳」が開始される。しかし,どのような授業が「考える道徳」や「議論する道徳」なのか。多面的・多角的な物事の見方や,よりよい自己の生き方を求める子供達を育てる道徳教育は何か。その具体化を行うことが課題となっている。
 本研究では,假屋園(2016)で開発された価値基準発見型授業のなかで,価値基準発見型発問が,児童の対話活動の中でどのような「考える道徳」を促しているか検証を行うことを目的とする。価値基準発見型発問は,道徳的価値の本質を浮き彫りにする発問を用い,実践のための基準に即した日常道徳を扱う発問である。
方   法
 鹿児島県K小学校6年生(児童数37名)を対象に,価値基準発見型授業デザインの授業を行う。
実施日時:平成28年2月10日5校時
主題名:誠実・正直(資料名「のりづけされた詩」学研)
授業分析:授業の様子を教師用と九つの班それぞれビデオ録画し,教師と児童のやりとり及び教師行動,班活動を記したホワイトボードを用いて分析を行う。録画のためのビデオは10台用意した。教師と児童のやり取りについては,逐語録を作成し,分析を行った。本稿では,第9班の活動の一部を例に挙げる。
結   果
価値基準発見型発問を問う
 教師は教師発話22「正直になれるかどうか。その基準は何か。」のように,「どのような道徳的価値判断を基に行動するか」をねらいとした発問を行う。
価値基準生成を目的にした対話活動
 道徳的価値の基準について対話活動を行う。
(1) 児童対話による価値基準の統合化
 児童Bは「少し時間が経てば正直になれる」という基準を持ち,児童DとEは「すぐに打ち明けることが正直である」という基準をもつ。相反する意見である。しかし,対話を通し,「後悔したくない」という理由が共通していることに児童が気づき,「先読み」という基準を生成する。
 児童D86時間が経って言ったら,みんなからなぜもっと早く言われなかったのって言われそう。
児童B87逆に,怒られるから,イメージダウンがあるから嫌だったと思うよ。後から,言ったら,後のことを考えたら正直になれる。後のことを考えたら正直になれる。
児童E90後悔したくないから。
児童B92そうそう。後悔したくないから。
児童C93:先読み。
(2) 教師介入後の価値基準の変容
 「先読み」という基準は,「後悔しない」という自分重視型意味を成す。教師が対話に指導的参加を行ったことで,「先読み」には「迷惑をかけない」という他人重視型意味が含まれ,複合型の基準へと変容を遂げている。
教師121これ(ボードに記された「先読み」)何?
児童E122なんかあとで後悔するのではなくて。
教師127先に言った方が後悔がね。うん。それは誰のため?
児童B128自分のためかな。
児童E130自分ではなく,他人のことも考えて。
児童B134確かに,自分の為でもあるし,他人の為でもある。
児童D136時間が早いと,相手の為にもなる。
考   察
 価値基準発見型発問を受けた対話活動において,9班は「先読み」という基準を,異なる意見の統合化によって生成し,誠実という道徳的価値の理解を深めていることが分かった。また,教師の指導的参加によって,「先読み」という基準は,「後悔したくない」という意味だけでなく,相手にも「迷惑をかけない」という意味を含むようになり,価値基準の変容が見られた。これより,児童が誠実について,多面的・多角的な理解を行ったことが明らかになった。さらに,本稿に取り上げた授業展開は,假屋園(2011)に示された指導的参加モデルに即していることが明らかになった。これは,価値基準発見型発問は,教師の対話への指導モデルを示めす可能性が示唆された。
 今後,このデザインが特別の教科道徳への授業パラダイムになることを目指し,発話や教師行動,児童行動の量的な分析。他の授業実践との比較を行い,改良を重ねていく。