[PH31] 生徒の個別学習支援に携わる学生に対する実態調査
キーワード:個別学習, 学習過程, 支援員
問題と目的
近年,学校現場では学校と地域が連携して個別支援を行っており,大学生も地域の一員として保健室登校生徒の支援や授業の補習を行っている(以下,学生支援員)。学生支援員による支援を含め,現在行われている個別支援の多くは心理臨床面を重視し,学習面を重視していない(岡,2007)。
学習面を重視する個別支援の1つに,市川(1993)の「認知カウンセリング」がある。認知カウンセリングでは,支援員が学習者のニーズを発見し,メタ認知や動機づけといった認知的側面から対処を行う。最近では,学生支援員の活動に認知カウンセリングを導入する事例も多く見られる。しかし,認知カウンセリングは学習面の問題が顕在化した生徒には有効な支援であるが,学習を開始する態勢が整っていない生徒には適さない。そこで,生徒が学習する態勢を整え,学習を開始し,学習を継続するという過程を段階毎に示し,各段階に適した支援方法を開発する必要があると考える。
本研究では,生徒の学習過程の各段階に適する個別支援方法を見出すため,学生支援員の困難と対応を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象者 中学校で個別学習支援を行う国立A大学の学生支援員6名(男子4名,女子2名)。
調査時期 2015年月6月-2015年12月
データ収集方法 個別に半構造化面接を実施した。
面接の実施 学生支援員に40分程度で面接を行い,ICレコーダーで録音した。面接は1人2回ずつ行い,1回目の1か月後に2回目を実施した。
面接の項目 A大学で実施された個別支援活動の報告書(支援員6名分)の記述内容を参考にし,活動中の内容について(「活動中はどういったことをしているのか」「支援中にうまくいったことはどんなことがあるか」等)6項目を設定した。
結果と考察
本研究では,学生支援員への面接調査から得られたデータについて,学生支援員の抱える困難を「ニーズ」,対応を「アプローチ」としてマクロ・フェーズの枠組みを用いて分類した。
マクロ・フェーズ 支援員と生徒の関係づくりや学習への動機づけが低い生徒の学習活動への移行を段階的に示すために考案された理論的枠組み。
フェーズ1「ラポール形成」 支援者-学習者間のニーズは「コミュニケーションの取り方が分からない」「不登校理解への不安」の2項目,アプローチは「学習者理解のための情報収集」「関係づくりのための具体的な対応」の2項目にまとめられた。学生支援員は生徒に安心感を与えるように留意して関係づくりを試みていた。しかし,生徒との具体的な接し方が分からず,生徒との関わりの難しさや支援することの不安を感じていた。
フェーズ2「移行的活動」 支援者-学習者間のニーズは「学習活動に移行できない」「学習者理解の情報不足」「支援方法が分からない」「学習方略の改善ができない」「学習活動への移行ができない」の5項目,アプローチは「活動内容の具体例」「学習者理解のための情報収集」「次フェーズでの学習の改善点を探索する」「学習者の自己効力感を高める」の4項目にまとめられた。学生支援員は生徒の意思を尊重し,生徒の長所や専門が生かせるように留意しながら,生徒と共同的に活動を行っていた。しかし,学生支援員は生徒の情報が少ないことや活動への誘い方が分からないことから,生徒に適した学習を提供する難しさを感じていた。
フェーズ3「学習の改善」 支援者-学習者間のニーズは「指導力不足」「学習者からの拒否」の2項目,アプローチは「学習に関する予見」「生活に関する予見」「学習の足場かけ」「学習方略の具体例」「協働省察」「自効力感を高める」)の6項目にまとめられた。学生支援員から生徒に声をかけ,協同的に学習の調整を行っていたことが分かった。しかし,学生支援員の課題として指導する学習方略が少ないことや学習内容の理解不足が見出された。さらに,生徒の課題として学習の他律性が見られたことから,生徒の自己調整力を高める学習支援の必要性が示唆された。
おわりに
本研究では,学生支援員の個別支援上の困難と対応をマクロ・フェーズの各フェーズに分類し,フェーズごとの支援方法と課題を見出した。個別学習支援の各段階で支援方法を開発することは,生徒のニーズにより適した支援を可能にする上,支援の経験が少ない学生や保護者,地域ボランティアによる個別支援をサポートするだろう。
引用文献
市川伸一(1993).学習を支える認知カウンセリング:心理学と教育の新たな接点 ブレーン出版
岡 直樹(2007).学習援助に関する研究の動向と課題 教育心理学研究年報,46,130-137.
近年,学校現場では学校と地域が連携して個別支援を行っており,大学生も地域の一員として保健室登校生徒の支援や授業の補習を行っている(以下,学生支援員)。学生支援員による支援を含め,現在行われている個別支援の多くは心理臨床面を重視し,学習面を重視していない(岡,2007)。
学習面を重視する個別支援の1つに,市川(1993)の「認知カウンセリング」がある。認知カウンセリングでは,支援員が学習者のニーズを発見し,メタ認知や動機づけといった認知的側面から対処を行う。最近では,学生支援員の活動に認知カウンセリングを導入する事例も多く見られる。しかし,認知カウンセリングは学習面の問題が顕在化した生徒には有効な支援であるが,学習を開始する態勢が整っていない生徒には適さない。そこで,生徒が学習する態勢を整え,学習を開始し,学習を継続するという過程を段階毎に示し,各段階に適した支援方法を開発する必要があると考える。
本研究では,生徒の学習過程の各段階に適する個別支援方法を見出すため,学生支援員の困難と対応を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象者 中学校で個別学習支援を行う国立A大学の学生支援員6名(男子4名,女子2名)。
調査時期 2015年月6月-2015年12月
データ収集方法 個別に半構造化面接を実施した。
面接の実施 学生支援員に40分程度で面接を行い,ICレコーダーで録音した。面接は1人2回ずつ行い,1回目の1か月後に2回目を実施した。
面接の項目 A大学で実施された個別支援活動の報告書(支援員6名分)の記述内容を参考にし,活動中の内容について(「活動中はどういったことをしているのか」「支援中にうまくいったことはどんなことがあるか」等)6項目を設定した。
結果と考察
本研究では,学生支援員への面接調査から得られたデータについて,学生支援員の抱える困難を「ニーズ」,対応を「アプローチ」としてマクロ・フェーズの枠組みを用いて分類した。
マクロ・フェーズ 支援員と生徒の関係づくりや学習への動機づけが低い生徒の学習活動への移行を段階的に示すために考案された理論的枠組み。
フェーズ1「ラポール形成」 支援者-学習者間のニーズは「コミュニケーションの取り方が分からない」「不登校理解への不安」の2項目,アプローチは「学習者理解のための情報収集」「関係づくりのための具体的な対応」の2項目にまとめられた。学生支援員は生徒に安心感を与えるように留意して関係づくりを試みていた。しかし,生徒との具体的な接し方が分からず,生徒との関わりの難しさや支援することの不安を感じていた。
フェーズ2「移行的活動」 支援者-学習者間のニーズは「学習活動に移行できない」「学習者理解の情報不足」「支援方法が分からない」「学習方略の改善ができない」「学習活動への移行ができない」の5項目,アプローチは「活動内容の具体例」「学習者理解のための情報収集」「次フェーズでの学習の改善点を探索する」「学習者の自己効力感を高める」の4項目にまとめられた。学生支援員は生徒の意思を尊重し,生徒の長所や専門が生かせるように留意しながら,生徒と共同的に活動を行っていた。しかし,学生支援員は生徒の情報が少ないことや活動への誘い方が分からないことから,生徒に適した学習を提供する難しさを感じていた。
フェーズ3「学習の改善」 支援者-学習者間のニーズは「指導力不足」「学習者からの拒否」の2項目,アプローチは「学習に関する予見」「生活に関する予見」「学習の足場かけ」「学習方略の具体例」「協働省察」「自効力感を高める」)の6項目にまとめられた。学生支援員から生徒に声をかけ,協同的に学習の調整を行っていたことが分かった。しかし,学生支援員の課題として指導する学習方略が少ないことや学習内容の理解不足が見出された。さらに,生徒の課題として学習の他律性が見られたことから,生徒の自己調整力を高める学習支援の必要性が示唆された。
おわりに
本研究では,学生支援員の個別支援上の困難と対応をマクロ・フェーズの各フェーズに分類し,フェーズごとの支援方法と課題を見出した。個別学習支援の各段階で支援方法を開発することは,生徒のニーズにより適した支援を可能にする上,支援の経験が少ない学生や保護者,地域ボランティアによる個別支援をサポートするだろう。
引用文献
市川伸一(1993).学習を支える認知カウンセリング:心理学と教育の新たな接点 ブレーン出版
岡 直樹(2007).学習援助に関する研究の動向と課題 教育心理学研究年報,46,130-137.