[PH33] ジグソー法を用いた高校数学の授業効果
動機づけ,学習観及び内容理解への影響
キーワード:ジグソー法, 動機づけ, 学習観
目 的
高等学校の現場で「アクティブ・ラーニング」という言葉をよく耳にするようになり,学習者中心の授業スタイルが取り入れられるようになってきた。その1つにジグソー法がある。この技法では生徒一人ひとりが課題を担当し,他の生徒に課題内容をわかりやすく説明しなければならない。そして持ち寄った知識を理解し,統合した後に,グループ全員で与えられた別の課題に取り組まなければならない。そのため,生徒が傍観者で何もしなくても済まされるという状況が生まれにくく,全ての生徒が積極的に理解し,解決に向けて努力することが必要となる。実際に,大学発教育支援コンソーシアム推進機構では「知識構成型ジグソー法」を開発し,教育委員会と連携して学習者中心型の授業作りを行っている(三宅・齊藤・飯窪・利根川,2012)。しかし,ジグソー法を用いた高校での授業実践における先行研究において,心理学的分析を行った研究は決して多くない。そこで本研究では,ジグソー法を用いた高校での授業実践によって,学習者の動機づけ,学習観及び内容理解の変化にどのような効果をもたらすのかを探索的に検討することを目的とする。
方 法
被調査者:三重県内の高校生39名(男子23名,女子16名,平均年齢16.36歳)
手続き:平常授業(50分)ではなく学習合宿における授業(60分)で,高校教員でもある第1筆者が行った。①事前テスト(約7分,Table1),②本時の目的と流れの説明(約3分),③エキスパート活動(問題4種類,約12分),④ジグソー活動(問題1種類(Table1),約20分),⑤班による発表,答え合わせ(約5分),⑥事後テスト(約7分,Table 1)
質問紙:(1)動機づけ尺度:中西・伊田(2006)の総合的動機づけ診断の下位尺度項目のうち,効力予期,結果予期,興味価値,利用価値にあたる全16項目を使用。5件法で行った。(2)学習観尺度:瀬尾(2007)の尺度のうち丸暗記・結果重視志向(5項目),市原・新井(2005)の尺度のうち意味理解方略(教示文を変更し,意味理解重視志向と名付けた)(5項目)を使用。5件法で行った。
結果と考察
(1)動機づけ尺度:授業前後での変化を検討するためにt検定を行った(利用価値においては欠損値があったため,1名を除く38名で行った,Table 2)。その結果,すべての下位尺度項目において有意な上昇が見られた。ジグソー法のアドバイスとしてBarkley,Cross,& Major(2009)は高度に構造化されているので,学期中に1,2度用いる程度が生徒にとって技法の斬新さや新鮮さを保てると述べているが,その効果が明らかとなった。
(2)学習観尺度:丸暗記・結果重視志向を高群・低群に分けて,意味理解重視志向の変化を検討するためt検定を行った(Table 3)。その結果,丸暗記や結果を特に重視していた学生が,意味を理解することの大切さを認識する傾向にあることが明らかとなった。
(3)学習観の動機づけ相関:授業前後でのPearsonの積率相関係数の結果,授業前では有意ではなかったが,授業後には結果予期と利用価値(r=.486,p <.01),結果予期と丸暗記・結果重視志向(r=-.420,p<.01)および利用価値と意味理解重視志向(r=.495,p <.01)が,有意になった。これより,暗記や結果重視が結果には結びつかず,意味を重視し,理解することが将来の役に立つのだと考える傾向に変化したことが明らかとなった。
(4)内容理解:今回の授業のポイントは不等式による条件式を導き出せることであった。CochranのQ検定の結果,事前,事後,追跡(40日後)テストの正答に有意な差が見られた(Q=52.27,p <.01)。McNemarの検定を用いたRyan法での多重比較の結果,事前から事後にかけて有意な上昇があった (z=5.50,p <.01)。事後から追跡では有意な低下があった(z=4.67,p <.01)ものの,事前と比べて追跡では有意な上昇が確認された(z=2.27,p <.05)。
高等学校の現場で「アクティブ・ラーニング」という言葉をよく耳にするようになり,学習者中心の授業スタイルが取り入れられるようになってきた。その1つにジグソー法がある。この技法では生徒一人ひとりが課題を担当し,他の生徒に課題内容をわかりやすく説明しなければならない。そして持ち寄った知識を理解し,統合した後に,グループ全員で与えられた別の課題に取り組まなければならない。そのため,生徒が傍観者で何もしなくても済まされるという状況が生まれにくく,全ての生徒が積極的に理解し,解決に向けて努力することが必要となる。実際に,大学発教育支援コンソーシアム推進機構では「知識構成型ジグソー法」を開発し,教育委員会と連携して学習者中心型の授業作りを行っている(三宅・齊藤・飯窪・利根川,2012)。しかし,ジグソー法を用いた高校での授業実践における先行研究において,心理学的分析を行った研究は決して多くない。そこで本研究では,ジグソー法を用いた高校での授業実践によって,学習者の動機づけ,学習観及び内容理解の変化にどのような効果をもたらすのかを探索的に検討することを目的とする。
方 法
被調査者:三重県内の高校生39名(男子23名,女子16名,平均年齢16.36歳)
手続き:平常授業(50分)ではなく学習合宿における授業(60分)で,高校教員でもある第1筆者が行った。①事前テスト(約7分,Table1),②本時の目的と流れの説明(約3分),③エキスパート活動(問題4種類,約12分),④ジグソー活動(問題1種類(Table1),約20分),⑤班による発表,答え合わせ(約5分),⑥事後テスト(約7分,Table 1)
質問紙:(1)動機づけ尺度:中西・伊田(2006)の総合的動機づけ診断の下位尺度項目のうち,効力予期,結果予期,興味価値,利用価値にあたる全16項目を使用。5件法で行った。(2)学習観尺度:瀬尾(2007)の尺度のうち丸暗記・結果重視志向(5項目),市原・新井(2005)の尺度のうち意味理解方略(教示文を変更し,意味理解重視志向と名付けた)(5項目)を使用。5件法で行った。
結果と考察
(1)動機づけ尺度:授業前後での変化を検討するためにt検定を行った(利用価値においては欠損値があったため,1名を除く38名で行った,Table 2)。その結果,すべての下位尺度項目において有意な上昇が見られた。ジグソー法のアドバイスとしてBarkley,Cross,& Major(2009)は高度に構造化されているので,学期中に1,2度用いる程度が生徒にとって技法の斬新さや新鮮さを保てると述べているが,その効果が明らかとなった。
(2)学習観尺度:丸暗記・結果重視志向を高群・低群に分けて,意味理解重視志向の変化を検討するためt検定を行った(Table 3)。その結果,丸暗記や結果を特に重視していた学生が,意味を理解することの大切さを認識する傾向にあることが明らかとなった。
(3)学習観の動機づけ相関:授業前後でのPearsonの積率相関係数の結果,授業前では有意ではなかったが,授業後には結果予期と利用価値(r=.486,p <.01),結果予期と丸暗記・結果重視志向(r=-.420,p<.01)および利用価値と意味理解重視志向(r=.495,p <.01)が,有意になった。これより,暗記や結果重視が結果には結びつかず,意味を重視し,理解することが将来の役に立つのだと考える傾向に変化したことが明らかとなった。
(4)内容理解:今回の授業のポイントは不等式による条件式を導き出せることであった。CochranのQ検定の結果,事前,事後,追跡(40日後)テストの正答に有意な差が見られた(Q=52.27,p <.01)。McNemarの検定を用いたRyan法での多重比較の結果,事前から事後にかけて有意な上昇があった (z=5.50,p <.01)。事後から追跡では有意な低下があった(z=4.67,p <.01)ものの,事前と比べて追跡では有意な上昇が確認された(z=2.27,p <.05)。