The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PH36] 装飾図がもたらすわかりやすさの第一印象が動機づけと文章理解におよぼす影響

大道継介 (東京大学大学院)

Keywords:わかりやすさ, 文章理解, 図

目   的
 本研究の第一の目的は,文章を装飾する目的で挿入されるイラストや写真(装飾図)が「この文章はわかりやすそう」というわかりやすさの第一印象をもたらすのか調査することである。また,第二の目的は,その第一印象が文章を読む動機づけや文章の理解におよぼす影響を調べることである。以上を,文章内容を詳細に説明した概念図と対比することで明らかにする(Figure 1。概念図は『知って納得!機械のしくみ』(森下,2014)P.63より改訂)。
方   法
 東京大学の学生60名(男性45名,女性15名)を,「アナログ白黒コピー機のしくみ」についての文章の図なし群・装飾図群・概念図群に,20名ずつ割り当てた。まず文章を10秒提示し,文章がどれほどわかりやすそうか,次にどれほど読んでみたいかをそれぞれ7件法(最低1,最高7)で回答させた。その後文章を実験参加者自身が十分と思うまで学習させ,最後にテスト(20点満点)で理解度を測定した。テスト問題は,Kintsch(1994)のいう状況モデルレベルの深い理解を測定するために,文章内容をもとに推論しなければ解けないものとした。
 学習中は,文章への書き込みをしてもよいこととした。書き込みは自己説明(Chi et al., 1994)の一種と考えられる。自己説明には理解やメタ理解を補正する効果がある。これを考慮すると,装飾図の役割をより明確にできるのである。
結   果
 わかりやすさの第一印象の平均(標準偏差)は,図なし群3.80(1.51),装飾図群5.05(1.15),概念図群4.20(1.40)となって有意差が認められた  (F (2,57)=4.41,p =.017,η2=.134)。Holm法による多重比較では,装飾図群と図なし群の間に有意差があった(t(38)=2.91, p =.005, d =0.92)。また,図なし群と装飾図群では,わかりやすさの第一印象で動機づけを予測する単回帰係数が有意であった(順にb =0.75(p =.0003), b =0.74(p =.006))。
 続いて図の条件(図なし・装飾図・概念図),文章への書き込みの有無(あり・なし),わかりやすさの第一印象の高低(平均値で折半し,高い・低い)の三要因(Table 1)で分散分析を行った。有意性が認められたのは「書き込み」×「わかりやすさの第一印象の高低」の交互作用効果のみであった(F (1,48)=8.76,p =.005,η2=.127)。これとp <.10であった「書き込み」×「図」の交互作用(F(2,48)=2.85,p =.068,η2=.082)について,単純主効果を調べた。するとまず「書き込みなし群」でわかりやすさの第一印象の高低による効果がみられた(F(1,48)=10.82,p =.002, η2=.156)。また「装飾図群」で書き込みの有無による効果がみられた(F(1,48)=7.84,p =.007, η2=.113)。
考   察
 装飾図はわかりやすさの第一印象を高め,それは動機づけを高めうる。反面,弊害もありうる。書き込みがない場合に注目すると,わかりやすさの第一印象は本来,理解を予測するメタ理解的機能をもつことがわかる。しかし,装飾図がもたらすわかりやすさの第一印象は,高くはあるが,メタ理解的機能をもつとは限らない。装飾図群でのみ書き込みの有無で理解度の差が生じたのは,メタ理解が補正されたからだと考えられるためである。
 本研究が示唆するのは,図の効果を過大視してはいけないということである。装飾図でわかりやすさの第一印象を高めても,自己説明を促すなどして補わなければ,実際の理解までは保証できない。また,概念図がわかりやすさの第一印象を高めるとは限らない。以上の知見は,教科書をはじめとする教材に,無批判に図を使うことへの警鐘となる。