[PH40] 知能観とJOLが学習時間に及ぼす影響
Keywords:暗黙の知能観, メタ認知的モニタリング, メタ認知的コントロール
問題と目的
効率的な学習には,学習状況のモニタリング(e.g., 既学習判断:JOL)とそれに基づくコントロールが関係する。すなわち,現在の状態と目標との間のズレを検出し,適切なコントロールを行うことが重要である。
JOLには様々な認知要因が影響することが示されているが(e.g., Koriat et al., 2006; Rhodes & Castel, 2008),学習者の有する信念が影響することも報告されている(e.g., Ikeda et al., 2013;Mueller et al., 2014)。例えば,Miele et al.(2011)において,知能観の違いによって学習時に投入した努力に対する捉え方が異なり,その結果,JOLにも影響することが示唆されている。増大理論を持つ者は,知能は柔軟で,自身の努力によって成長させることが可能であるという信念を有する。そのため,努力をより投入した項目ほど成績は向上すると解釈し,学習時間を費やした項目ほどJOLは高くなることが示されている。一方で,固定理論を有する者は,知能は固定的で,自身での制御は困難とするであるという信念を持つ。そのため,努力をより投入した項目ほど難しい項目であると判断し,成績は低下すると解釈する。その結果,より学習時間を費やした項目ほどJOLは低くなることが示されている。
このように,知能観により学習経験の解釈が異なるのであれば,JOLだけでなく,コントロール過程にも知能観の違いにより何らかの相違がある可能性がある。そこで,本研究では知能観とJOLが学習のコントロール過程に与える影響について,学習時間の配分に焦点を当て検討した。
方 法
実験参加者 大学生80名が実験に参加した。ただし,手続きに不備があった3名と,留学生1名を分析から除外した。
材料 学習課題として単語対を30個用いた。また,知能観の測定には,Dweck(1999)の知能観尺度を用いた。
手続き まず,学習段階では,単語対を4秒ずつで学習させ,その直後に手がかり語を6秒提示し,JOLを行わせた。続く再学習段階では,単語対をセルフペースで再学習させ,その直後にJOLを実施した。3分間のディストラクター課題後,テスト段階では,手がかり語が10秒ずつ提示され,それと対になっている単語を解答させた。最後に知能観に関する質問紙を回答させた。
結果と考察
知能観尺度は固定理論に関する項目の評定値を逆転させ,全ての項目の評定値の平均を算出した。尺度得点が大きいほど増大理論を有することを示す(range = 1-6, M = 3.35, SD = 0.98)。また,学習時間に関して,平均値から3SD以上離れていたものは分析から除外した(全体の約2%)。
まず,知能観とJOLが学習時間に及ぼす影響を検討するために,再学習時の学習時間を目的変数,知能観尺度得点と学習段階時のJOL,これらの交互作用項を説明変数とした重回帰分析を実施した。その結果,交互作用項が有意であった(R 2 = .14, p < .05;β = .30, p < .01)。単純傾斜分析の結果(Figure 1),知能観尺度得点が低いほどJOLが低い項目に学習時間を費やしていた(t(72)= -2.73, p = .02)。次に個人内での学習時間の配分を検討するために,各参加者内で学習段階でのJOLと再学習段階での学習時間との間の相関係数を算出した(M = -.24, SD = 0.21)。相関係数が負の値であるため,JOLの低い項目により多く学習時間を費やしていたといえる。ただし,知能観の違いによってこのような傾向に違いが見られなかった(r = .001, p = .99)。
本研究から特に,固定理論を有するほどJOLが低い項目に学習時間をより費やすことが示唆された。固定理論が遂行目標(他者より高い成績を獲得)と関連があることを踏まえると(Dweck, 1986),これは学習が不十分な項目に時間を費やし,テスト時の得点を向上させようとしたからと考えられる。この解釈は固定理論と矛盾しそうが,本研究で用いた学習課題が容易であったため(正答率は約90%),JOL評定値が低くとも学習可能と判断された可能性がある。これに関して,学習課題が困難な場合を含め,更なる検討が必要であろう。
効率的な学習には,学習状況のモニタリング(e.g., 既学習判断:JOL)とそれに基づくコントロールが関係する。すなわち,現在の状態と目標との間のズレを検出し,適切なコントロールを行うことが重要である。
JOLには様々な認知要因が影響することが示されているが(e.g., Koriat et al., 2006; Rhodes & Castel, 2008),学習者の有する信念が影響することも報告されている(e.g., Ikeda et al., 2013;Mueller et al., 2014)。例えば,Miele et al.(2011)において,知能観の違いによって学習時に投入した努力に対する捉え方が異なり,その結果,JOLにも影響することが示唆されている。増大理論を持つ者は,知能は柔軟で,自身の努力によって成長させることが可能であるという信念を有する。そのため,努力をより投入した項目ほど成績は向上すると解釈し,学習時間を費やした項目ほどJOLは高くなることが示されている。一方で,固定理論を有する者は,知能は固定的で,自身での制御は困難とするであるという信念を持つ。そのため,努力をより投入した項目ほど難しい項目であると判断し,成績は低下すると解釈する。その結果,より学習時間を費やした項目ほどJOLは低くなることが示されている。
このように,知能観により学習経験の解釈が異なるのであれば,JOLだけでなく,コントロール過程にも知能観の違いにより何らかの相違がある可能性がある。そこで,本研究では知能観とJOLが学習のコントロール過程に与える影響について,学習時間の配分に焦点を当て検討した。
方 法
実験参加者 大学生80名が実験に参加した。ただし,手続きに不備があった3名と,留学生1名を分析から除外した。
材料 学習課題として単語対を30個用いた。また,知能観の測定には,Dweck(1999)の知能観尺度を用いた。
手続き まず,学習段階では,単語対を4秒ずつで学習させ,その直後に手がかり語を6秒提示し,JOLを行わせた。続く再学習段階では,単語対をセルフペースで再学習させ,その直後にJOLを実施した。3分間のディストラクター課題後,テスト段階では,手がかり語が10秒ずつ提示され,それと対になっている単語を解答させた。最後に知能観に関する質問紙を回答させた。
結果と考察
知能観尺度は固定理論に関する項目の評定値を逆転させ,全ての項目の評定値の平均を算出した。尺度得点が大きいほど増大理論を有することを示す(range = 1-6, M = 3.35, SD = 0.98)。また,学習時間に関して,平均値から3SD以上離れていたものは分析から除外した(全体の約2%)。
まず,知能観とJOLが学習時間に及ぼす影響を検討するために,再学習時の学習時間を目的変数,知能観尺度得点と学習段階時のJOL,これらの交互作用項を説明変数とした重回帰分析を実施した。その結果,交互作用項が有意であった(R 2 = .14, p < .05;β = .30, p < .01)。単純傾斜分析の結果(Figure 1),知能観尺度得点が低いほどJOLが低い項目に学習時間を費やしていた(t(72)= -2.73, p = .02)。次に個人内での学習時間の配分を検討するために,各参加者内で学習段階でのJOLと再学習段階での学習時間との間の相関係数を算出した(M = -.24, SD = 0.21)。相関係数が負の値であるため,JOLの低い項目により多く学習時間を費やしていたといえる。ただし,知能観の違いによってこのような傾向に違いが見られなかった(r = .001, p = .99)。
本研究から特に,固定理論を有するほどJOLが低い項目に学習時間をより費やすことが示唆された。固定理論が遂行目標(他者より高い成績を獲得)と関連があることを踏まえると(Dweck, 1986),これは学習が不十分な項目に時間を費やし,テスト時の得点を向上させようとしたからと考えられる。この解釈は固定理論と矛盾しそうが,本研究で用いた学習課題が容易であったため(正答率は約90%),JOL評定値が低くとも学習可能と判断された可能性がある。これに関して,学習課題が困難な場合を含め,更なる検討が必要であろう。