[PH41] 問題解決経験から帰納する「教訓」の質に関する検討
指導方法と学習者特性に着目して
Keywords:失敗活用方略, 教訓帰納
問題と目的
近年21世紀型スキルの1つとして失敗活用能力の重要性が認識され,学習の中でどう身につけるかが課題となっている。本研究では,「教訓帰納」(市川,1989)という失敗活用方略に注目した。
教訓帰納とは,問題解決後にこの問題をやってみたことによって「自分は何が分かったのか」という教訓を学習者自身が引き出すというメタ認知を必要とする方略である。先行研究はその効果や学力との関連を示してきた(寺尾ら,1998)が,どのような学習者が教訓帰納を利用しているかについての詳細な検討はされていない。
また学習者がその学習方法を取るかどうかは教師の指導も大きな影響を与えると考えられる。さらに教訓帰納を利用する上で一番重要な点は,その教訓の内容がいかに「その後の学習に有効であるか」という質にあると考えられるが,直接検討した研究は寺尾ら(1998)のみである。
以上の問題点を踏まえて,本研究の目的は, 教訓の質を検討すること(目的1),さらに,教訓帰納を利用した振り返り行動と教訓内容の質を規定する要因について,学習者の特性と教師の指導という2側面から検討すること(目的2)とする。
予備調査と仮説生成
学習者の振り返り行動と指導の実態を明らかにするために,都内の中学生6人を対象に半構造化面接を行った。予備調査の結果と先行研究での議論をもとに以下の2つの仮説を立てた。
①学習者の適切な特性(認知主義的学習観を持つ・有効性認知が高い・コスト感認知が低い・説明力が高い学習者)と教師の指導があれば,学習者は振り返り行動を日常的に行う(仮説1)。②教師の指導によって学習者の教訓帰納スキル獲得には近づくが,質の良い教訓を産出できるかどうかは学習者の特性に左右される(仮説2)。
方 法
対象者 中学1,2年生205名(男子96名,女子109名)。
質問紙 ①学習観尺度(市川ら,2009),②振り返り行動尺度(植阪ら,2012),③教師の指導法尺度,④説明活動頻度尺度, ⑤振り返りに対するコスト感認知尺度,を用いた。③④⑤の尺度は予備調査の結果からボトムアップ的に作成した。
課題 寺尾ら(1998)を参考に,方程式を用いた「速さ」代数文章題を用意し、学習者が解答を見た後に教訓を産出する課題を作成した。
手続き 質問紙,課題の順番で取り組み,調査の所要時間は全部で30分程度であった。
結果と考察
教訓記述の評定 課題で得られた学習者の記述を「間違い分析(例:求める道のりを文字で置いていなかった)」,「対策(例:未知数が2つの時は連立方程式を立てれば良い)」,「一般的な解決方略(例:図表活用方略)」に分類し,各観点でどれくらい有効な記述かを数学教師と筆者の2人で評定し「自己教訓得点」とした。
行動と質の要因検討 まず質問紙での振り返り行動変数を目的変数として階層的重回帰分析を行った。その結果,説明活動,教師の指導法,コスト感認知,認知主義的学習観の主効果が1%水準で有意な結果となった(R 2 =.38)。
さらに,教訓得点を目的変数として階層的重回帰分析を行った。分析の結果,認知主義的学習観の主効果と,「教師の指導×説明活動」の交互作用に5%水準で有意な結果が得られた(R 2 = .09)。
これらの結果より,仮説1と仮説2の一部が支持された。教訓の質には適切な学習観を持っていることと,普段の説明活動を通したメタ認知的活動の頻度が関わってくることが示唆される。
近年21世紀型スキルの1つとして失敗活用能力の重要性が認識され,学習の中でどう身につけるかが課題となっている。本研究では,「教訓帰納」(市川,1989)という失敗活用方略に注目した。
教訓帰納とは,問題解決後にこの問題をやってみたことによって「自分は何が分かったのか」という教訓を学習者自身が引き出すというメタ認知を必要とする方略である。先行研究はその効果や学力との関連を示してきた(寺尾ら,1998)が,どのような学習者が教訓帰納を利用しているかについての詳細な検討はされていない。
また学習者がその学習方法を取るかどうかは教師の指導も大きな影響を与えると考えられる。さらに教訓帰納を利用する上で一番重要な点は,その教訓の内容がいかに「その後の学習に有効であるか」という質にあると考えられるが,直接検討した研究は寺尾ら(1998)のみである。
以上の問題点を踏まえて,本研究の目的は, 教訓の質を検討すること(目的1),さらに,教訓帰納を利用した振り返り行動と教訓内容の質を規定する要因について,学習者の特性と教師の指導という2側面から検討すること(目的2)とする。
予備調査と仮説生成
学習者の振り返り行動と指導の実態を明らかにするために,都内の中学生6人を対象に半構造化面接を行った。予備調査の結果と先行研究での議論をもとに以下の2つの仮説を立てた。
①学習者の適切な特性(認知主義的学習観を持つ・有効性認知が高い・コスト感認知が低い・説明力が高い学習者)と教師の指導があれば,学習者は振り返り行動を日常的に行う(仮説1)。②教師の指導によって学習者の教訓帰納スキル獲得には近づくが,質の良い教訓を産出できるかどうかは学習者の特性に左右される(仮説2)。
方 法
対象者 中学1,2年生205名(男子96名,女子109名)。
質問紙 ①学習観尺度(市川ら,2009),②振り返り行動尺度(植阪ら,2012),③教師の指導法尺度,④説明活動頻度尺度, ⑤振り返りに対するコスト感認知尺度,を用いた。③④⑤の尺度は予備調査の結果からボトムアップ的に作成した。
課題 寺尾ら(1998)を参考に,方程式を用いた「速さ」代数文章題を用意し、学習者が解答を見た後に教訓を産出する課題を作成した。
手続き 質問紙,課題の順番で取り組み,調査の所要時間は全部で30分程度であった。
結果と考察
教訓記述の評定 課題で得られた学習者の記述を「間違い分析(例:求める道のりを文字で置いていなかった)」,「対策(例:未知数が2つの時は連立方程式を立てれば良い)」,「一般的な解決方略(例:図表活用方略)」に分類し,各観点でどれくらい有効な記述かを数学教師と筆者の2人で評定し「自己教訓得点」とした。
行動と質の要因検討 まず質問紙での振り返り行動変数を目的変数として階層的重回帰分析を行った。その結果,説明活動,教師の指導法,コスト感認知,認知主義的学習観の主効果が1%水準で有意な結果となった(R 2 =.38)。
さらに,教訓得点を目的変数として階層的重回帰分析を行った。分析の結果,認知主義的学習観の主効果と,「教師の指導×説明活動」の交互作用に5%水準で有意な結果が得られた(R 2 = .09)。
これらの結果より,仮説1と仮説2の一部が支持された。教訓の質には適切な学習観を持っていることと,普段の説明活動を通したメタ認知的活動の頻度が関わってくることが示唆される。