The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PH43] 文章読解における演繹推論的思考について

車田梓 (東京大学大学院)

Keywords:演繹推論, 文章読解, 大学生

問題と目的
 文章を論理的に読むことは,様々な学習の基盤として重要である。文章中の論理構造の妥当性を判断するためには,演繹的な推論が必要となる。しかし,批判的思考全体に注目した研究はあっても,その一部を成す演繹推論的思考に焦点を当てた文章読解に関する研究は少ない。
 そこで,本研究では,演繹推論的思考に着目して文章読解との関係を検討する。その際,先行研究(道田,2001)にしたがい,学年差・専攻差についても考慮する。
方   法
対象者 大学生57名(平均年齢19.37歳)。(内訳は次の通りである。学年別:1年生21名,1年生以外36名。専攻別:「人文科学」21名,「経済・行政」14名,「自然科学」22名。)
課題文 演繹推論的思考を測定するものとしての三段論法課題と,文章課題の二つを作成した。三段論法課題では,第1格から第4格の格式を用 い,演繹的に妥当な問題と非妥当な問題を4つずつ作成した。文章課題は,論理構造が接続表現に関わることから,1~2段落の文章中にある接続詞を異なる接続詞に変更し,前後の文の関係が成り立たない文章を作成した(例:「AすなわちB」⇒ 「AけれどもB」など)。実験参加者には,「誤っている接続詞はどれか」,「代わりの接続詞を入れるとすれば何か」,「なぜそのように言えるか」(自由記述問題)について解答を求めた。
結果と考察
相関と回帰 三段論法課題と文章課題の得点の相関係数はr =.343(p <.01)であった。次に,三段論法課題の得点を独立変数(x),文章読解の課題得点を従属変数(y)として単回帰分析を行った。その結果,y=1.4646+0.752x(R 2=.1176(p <.01),S.E.=2.73)となった。
 以上から,三段論法課題の得点が高い者は,文章課題においても得点が高く,演繹推論的思考は文章の論理的問題点の指摘に関与していることが示された。
学年差 1年生とそれ以外の平均点をt検定で比較した。三段論法課題においては有意な差がなかった(t(57)=.433,p>.10)。しかし,文章課題においては,1年生はそれ以外よりも有意に高い得点を示していた(t(61)=3.041,p <.01)。先行研究(道田,2001)では,問題によって学年差が一貫しておらず,批判的思考の種類によっては大学在学中に向上するわけではないことを示した。本研究結果もこれを傍証したと言えるだろう。
専攻差 実験参加者を「人文科学」,「経済・行政」,「自然科学」の3群に分け,三段論法課題と文章課題の平均値差について分散分析を行った。その結果,三段論法課題では有意でなかった(F(2,56)=.685,p>.10)。しかし,文章課題においては有意な差がみられた(F(2,60)=3.61,p <.05)。ライアン法による多重比較の結果,「人文科学」の成績は「経済・行政」(p<.05),「自然科学」(p <.05)よりも有意に高いことが明らかになった。本研究においては専攻の影響が確認され,先行研究(道田,2001)とは異なる結果となった。
自由記述問題 三段論法課題の得点によって高群と低群に分け,自由記述問題を分析した(高群37名,低群20名)。その結果,全体では高群と低群の得点に有意な傾向を示したものの(t(193)=1.343,p <.10),問題別に見た場合,有意な差はなかった(問題1から問題4まで順に,t(51)=0.651,p>.10,t(43)=0.855,p>.10, t(45)=1.108,p>.10,t(48)=0.164,p>.10)。しかし,KH Coderによる分析の結果,記述で用いられる語の数や共起の度合いに違いが確認された。具体的には,三段論法課題低群では語の数が少なく,共起の度合いも低い傾向にあった。以上より,演繹推論的思考は,自由記述問題の得点には反映されないながらも,語の想起と関係する可能性が示唆された。
総   括
 本研究において,演繹推論的思考と文章読解の関係が示された。また,大学生の学年差・専攻差について,演繹推論的思考は,批判的思考とは異なる傾向を示した。さらに,演繹推論的思考は,得点以外にも語の想起と関係する可能性が示唆された。今後の課題として,演繹推論的思考が発揮できる要因について検討していく必要がある。
引用文献
道田泰司(2001).日常的題材に対する大学生の批判的思考:態度と能力の学年差と専攻差 教育心理学研究 49(1),日本教育心理学会,41-49