[PH45] 特別支援学校との授業交流で高校教員に生じた変化
交流による高校教員の学び
Keywords:特別支援学校, 高校, 共生
研究の目的
共生社会に向けて,高等学校の敷地や校舎内に知的特別支援学校の高等部を分校として設置している学校がある。神奈川県,静岡県で多く設置されており,全国的にも広がってきた。(吉岡ほか2011)
こうした学校では,高校生と特別支援学校の分校生が学校行事や部活で交流をし,授業で共同学習に取り組んでいる。当たり前のように交流や共同学習が実施されているが,計画の段階では,高校と特別支援学校という2つの活動システムの間に多くの問題が存在したはずである。それを乗り越えて新しい交流や共同学習を作り出すとき,教員にどのような変化が起きているのかを明らかにする。
研究方法
本研究では,静岡県の学校に調査を依頼し,分校生を対象にした授業や,高校生と分校生が一緒に活動する共同学習を実践した高校教員から,授業の準備,授業後の感想や気付いたこと等の聴き取り調査を行う。そして,高校教員の発言を分析し,エンゲストロームの活動理論を用いて高校教員の意識の変化等を確認する。(エンゲストローム1999)
分校生との授業実践
(1) A教諭の液体窒素の実験出張授業
この実践は,分校を併設する普通科の高校の理
科の教員の実践である。液体窒素の中に身の回りのものを入れ,その変化を観察する実験を,分校生と行った。高校生と一緒ではなかったが,授業後の発言からは教員の「授業観」が変化していることが分かった。
【A教諭の発言の要旨】
・高校生には理科という学問的な観点,いわゆる体系化した知識をいかに教えようかと思って授業を作っていく。しかし,分校生向けの授業は,興味を持つにはどうしたらよいかという作り方をした。実施した実験の内容は,高校生に向けた授業と一緒だが,生徒が生き生きとするにはどうしたらよいか,と考えて作っている。こういった授業作りの手法を高校の教員が身に付けると普段の授業にも跳ね返ってくると思う。研修になると感じた。
(2) B教諭の探求的な学習での分校生との連携
これは,高校の商業の授業での実践である。フェアトレードに興味を持った高校生が,ペルー産コーヒー豆を取り扱っている業者を探すところから始まった。そして,パッケージのデザインや販路の拡大,喫茶店でコーヒーを提供するところまでを開拓していった授業である。その中で「喫茶店でコーヒーを提供しよう」とした時に,分校の「喫茶サービス」班で学ぶ分校生と協力し,静岡県庁の喫茶店で提供できるように教育長等に売り込みを行った。B教諭の発言からは,「分校生は高校生の学習に必要な存在」という「生徒観」が生まれていることが分かる。
【B教諭の発言の要旨】
・県庁の喫茶店でコーヒーを扱ってもらうため に,分校生と一緒に接客の練習を実施した。最初は自分たちもできると思っていた高校生だったが,分校生の接客技術の方が上だった。
・分校生は正直で素直な性格なので,話し合いをすると気持ちをストレートに表す。高校生は分校生が違った見方を持っていることに気付く。
・以前は,一緒に何かするには下準備が必要だったが,今は廊下で会ったときに高校と分校の教員間で企画を出し合う。何をやるにも分校と一緒にやるという感じだ。
考 察
聴き取り調査での高校教員の発言を分析すると,「指導観」や「生徒観」に変化が生じていることが分かった。そして,エンゲストロームの活動理論に当てはめて考察すると,「道具」が変化していったものと考えられる。
教員が生徒を「対象」にして授業を行う時,「道具」である「指導観」や「生徒観」が授業に与える影響は大きい。また,「道具」は,人事異動によって勤務校が変わっても生かされるものであり,教員生活を支えていくものである。そういう意味では,こうした交流や共同学習に取り組みやすい環境の学校では,教員の能力開発が進むものと思われる。
参考資料
吉岡 徹 冨永光昭(2011).高等学校における特別支援学校分校・分教室等設置に関する研究 大阪教育大学紀要第Ⅳ部門第60巻第1号 129~139頁
エンゲストローム(1999).拡張による学習 新曜社
共生社会に向けて,高等学校の敷地や校舎内に知的特別支援学校の高等部を分校として設置している学校がある。神奈川県,静岡県で多く設置されており,全国的にも広がってきた。(吉岡ほか2011)
こうした学校では,高校生と特別支援学校の分校生が学校行事や部活で交流をし,授業で共同学習に取り組んでいる。当たり前のように交流や共同学習が実施されているが,計画の段階では,高校と特別支援学校という2つの活動システムの間に多くの問題が存在したはずである。それを乗り越えて新しい交流や共同学習を作り出すとき,教員にどのような変化が起きているのかを明らかにする。
研究方法
本研究では,静岡県の学校に調査を依頼し,分校生を対象にした授業や,高校生と分校生が一緒に活動する共同学習を実践した高校教員から,授業の準備,授業後の感想や気付いたこと等の聴き取り調査を行う。そして,高校教員の発言を分析し,エンゲストロームの活動理論を用いて高校教員の意識の変化等を確認する。(エンゲストローム1999)
分校生との授業実践
(1) A教諭の液体窒素の実験出張授業
この実践は,分校を併設する普通科の高校の理
科の教員の実践である。液体窒素の中に身の回りのものを入れ,その変化を観察する実験を,分校生と行った。高校生と一緒ではなかったが,授業後の発言からは教員の「授業観」が変化していることが分かった。
【A教諭の発言の要旨】
・高校生には理科という学問的な観点,いわゆる体系化した知識をいかに教えようかと思って授業を作っていく。しかし,分校生向けの授業は,興味を持つにはどうしたらよいかという作り方をした。実施した実験の内容は,高校生に向けた授業と一緒だが,生徒が生き生きとするにはどうしたらよいか,と考えて作っている。こういった授業作りの手法を高校の教員が身に付けると普段の授業にも跳ね返ってくると思う。研修になると感じた。
(2) B教諭の探求的な学習での分校生との連携
これは,高校の商業の授業での実践である。フェアトレードに興味を持った高校生が,ペルー産コーヒー豆を取り扱っている業者を探すところから始まった。そして,パッケージのデザインや販路の拡大,喫茶店でコーヒーを提供するところまでを開拓していった授業である。その中で「喫茶店でコーヒーを提供しよう」とした時に,分校の「喫茶サービス」班で学ぶ分校生と協力し,静岡県庁の喫茶店で提供できるように教育長等に売り込みを行った。B教諭の発言からは,「分校生は高校生の学習に必要な存在」という「生徒観」が生まれていることが分かる。
【B教諭の発言の要旨】
・県庁の喫茶店でコーヒーを扱ってもらうため に,分校生と一緒に接客の練習を実施した。最初は自分たちもできると思っていた高校生だったが,分校生の接客技術の方が上だった。
・分校生は正直で素直な性格なので,話し合いをすると気持ちをストレートに表す。高校生は分校生が違った見方を持っていることに気付く。
・以前は,一緒に何かするには下準備が必要だったが,今は廊下で会ったときに高校と分校の教員間で企画を出し合う。何をやるにも分校と一緒にやるという感じだ。
考 察
聴き取り調査での高校教員の発言を分析すると,「指導観」や「生徒観」に変化が生じていることが分かった。そして,エンゲストロームの活動理論に当てはめて考察すると,「道具」が変化していったものと考えられる。
教員が生徒を「対象」にして授業を行う時,「道具」である「指導観」や「生徒観」が授業に与える影響は大きい。また,「道具」は,人事異動によって勤務校が変わっても生かされるものであり,教員生活を支えていくものである。そういう意味では,こうした交流や共同学習に取り組みやすい環境の学校では,教員の能力開発が進むものと思われる。
参考資料
吉岡 徹 冨永光昭(2011).高等学校における特別支援学校分校・分教室等設置に関する研究 大阪教育大学紀要第Ⅳ部門第60巻第1号 129~139頁
エンゲストローム(1999).拡張による学習 新曜社