The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PH47] 短期大学生の調理実習履修生の自己効力に関する研究

西岡陽子 (大手前短期大学)

Keywords:調理実習, 自己効力

問題と目的
 近年,我が国において,国民の食生活をめぐる環境が大きく変化している。例えば,自分で食事を作らなくても手軽に食事ができる社会環境である。それらの影響が,栄養の偏りや不規則な食事,肥満や生活習慣病の増加,食の海外への依存,伝統的な食文化の危機,子どもたちの朝食欠食など食の問題が課題となっている。
 学校教育の中で,小学校から高等学校までの授業の感想で「楽しい」と答える代表教科は、調理実習の授業である。教育指導面では、文部科学省(2013)高等学校家庭科指導資料集において調理実習は,五感を育てることができ,楽しくなるような雰囲気をつくる工夫や精神的な満足も得られるとしている。学校教育における調理実習については,進級進学に直接的に影響ないことから短縮される傾向にあるが,「食」ということについては、食文化を理解していく上で調理を学ぶ価値は高まっている。調理実習は,文化的な心を育てることのできる重要な教育であると考える江原(2012)。先行研究では,中学生の調理実習に対する自己効力と課題の重要度の認知と関連(中井2002),調理実習と生徒の調理に対する自己効力感の相互関連性(大森2004)があるが,短期大学生の調理実習履修生の自己効力感関連の研究はない。
 本研究では, 女子短大生を対象として,調理専攻コース外の総合学科短期大学生が,調理実習の履修体験が,履修後に,自己効力の差異が生じているのかを研究することを目的とした。自己効力を高める調理実習の授業の検討を行った。
方   法
研究1調査対象者:A短期大学女子学生総合学科65名(有効回答45名)1年17名 2年 28 名  
調査期間:1回目 2015年 10月上旬,2回目 2015年 12月中旬
材料:調査には2つの尺度と振り返りシートを使用した。①調理実習役立ち感の意識調査,調理実習の役立ち感尺度は,長沢(2003)の役立ち感を参考に(25項目)を作成して調査をした。回答は,3件法,各得点が高いほど役立ち感が高いことを意味する。②「特性的自己効力感尺度」(23項目)の測定には,成田ら(1995)の尺度を使用した。③振り返りシートを作成し,毎回実習終了後に学生が記入後提出。記入のキーワードを取り上げ自己効力の意識調査を実施。学生自身自己評価点記入方式とした。手続き:本調査は、一斉調査法で自由回答とした。統計学的に処理をして研究以外の目的に使用するものではないことを説明し倫理的配慮を行った。
結   果
研究1:各尺度の因子構造
調理実習の役立ち感尺度は,主成分分析プロマックス回転による因子分析を行った。2因子が抽出された。(全25項目)。第Ⅰ因子「調理実習の役立ち感」と命名しα=0.95を示した。第Ⅱ因子は,「調理実習の自己効力感」α=0.77を示した。特性的自己効力感,役立ち感尺度の2つの尺度について全て最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。2因子が抽出された。(全23項目)この結果、第Ⅰ因子「ポジティブ感」と命名しα=0.89であった。第Ⅱ因子は,「前向き自己効力感」と命名し信頼係数は,α=0.70であった。研究2:各尺度の変数を統計的に調理実習初回と調理実習10回目の平均値の差を算出した。対応のあるt検定を行った結果,調理実習の役立ち感尺度第Ⅰ因子「調理実習の役立ち感」第Ⅱ因子「調理実習自己効力感」に有意の差が認められた。(p<0.05)。特特性的自己効力感尺度は第Ⅰ因子「ポジティブ感」第Ⅱ因子「前向き自己効力感」調理実習後に有意な差が認められた。(p<0.05)。
考   察
 本研究の分析結果により女子短期大学生の調理実習を履修し、回を重ねることで、調理実習の役立ち感が高ることが示唆された。学生たちの振り返りシートの介入では、自由記述が実施開始時期より増加し、工夫したこと、考えたこと段取りなど詳細な記述が見られた。調理実習では、食に関する知識、料理ができるという自信が自己効力を高める要因であることが示唆された。また調理実習が役に立つと感じている学生は、調理実習の自己効力が高いことが示唆された。授業の中で、Bandura(1997)の自己効力の4つの情報源も考察ができた。「デモンストレーションを見て学ぶ代理学習」「五感情報喚起」「できたという達成感」「他者からの言語的説得」である。学生は調理ができるという自信と今後社会人として食の問題と食の安全の取り組み等,将来保護者になる可能性もあることから,社会とのつながりに関連した広範な学びができる調理実習を履修する体験は大変重要であると考えられる。