[PH51] 死の疑似体験を用いた教員への自殺予防研修
キーワード:自殺予防教育, 教員研修, 死の疑似体験
問題と目的
日本の若い世代(15才~34才)の死因の第1位は自殺であり,日本の若者の自殺は深刻な状況である。しかし,現在日本の教育現場では自殺や死に対するタブー視は根強く,自殺予防教育は浸透し難い。A. デーケン(2001)は,自殺予防教育は「死への準備教育:Death Education(以下DE)」の一部であり,DEには「専門知識の伝達のレベル」「価値の解明のレベル」「感情的・情動的な死との対決のレベル」「技術の習得のレベル」の4つのレベルが必要であると示している。本研究は,この4つのレベルを備えるため「死の疑似体験」(体験型研修)を取り入れた研修を実施し,教員自身の死や自殺に対する否定的態度を軽減させるために有効性をもつか,検討することを目的とする。
方 法
1.調査時期 2015年8月
2.調査対象 公私立学校教員39名(男性21名,女性18名)
3.調査材料 ①SD法(4カテゴリー:死について,生きる事について,自分をとりまく人や物について,自殺予防について,各10項目)②自殺に関する知識テスト(20項目 ○×式)③場面想定法(7項目,5件法。生徒からの相談場面を想定し,その場での対処行動を選択。質問項目は臨床心理学を専攻する5名の大学院生によって検討し作成。)④K6(不安・抑うつ尺度。6項目 5件法 0~24点 カットオフ5点。)
4.手続き 研修は,「講義型研修」(60分)「体験型研修」(90分)の2種類。対象者をA(講義のみ受講),AB(講義→体験の順に受講),BA(体験→講義の順に受講)の3群に分けた。調査は,受講の直前(プレ)直後(ポスト)に実施。倫理的配慮として,調査協力は任意であり,中断できること等について書面及び口頭によって説明し,同意を得た。調査後のケアとして,スクールカウンセラー2名にフォーローアップを依頼し,調査協力者が万が一不利益を生じた際の相談体制を整えた。尚,兵庫教育大学の倫理委員会にて承認を受けている。
結 果
①SD法:各カテゴリーのSDプロフィールを比較すると,体験型研修を受講したAB・BA群は,A群に比べポストにおける評定が肯定的へと変化し,体験型研修による影響が認められた(Figure 1)。
②知識テスト:知識テストの結果は,研修タイプに関わらずポストにおいて有意に上昇した。
③場面想定法:研修タイプに関わらず,回避的・否定的行動は有意に低下。肯定的行動については,有意差はなく,天井効果を認めた。
④K6得点分布:全体平均は6.0±5.57。9点以下は28名(平均3.0±2.40),10点以上は10名(平均14.7±2.79)であり,研修タイプによる偏りは認めなかった。
考 察
体験型研修は死や自殺に対する否定的感情を軽減させたが,行動への影響は本研究では確認できず,感情の変容によって生起した実際の行動変容を明らかにする必要がある。また,K6高得点の者は,自殺予防のような他者へのケアに携わる状態にはない事が示された。学校においては,自殺予防教育への真剣な取り組みを,教員の心のケアにも繋げていく方向性が必要であると考える。この研究は,兵庫教育大学大学院修士論文の一部である。
日本の若い世代(15才~34才)の死因の第1位は自殺であり,日本の若者の自殺は深刻な状況である。しかし,現在日本の教育現場では自殺や死に対するタブー視は根強く,自殺予防教育は浸透し難い。A. デーケン(2001)は,自殺予防教育は「死への準備教育:Death Education(以下DE)」の一部であり,DEには「専門知識の伝達のレベル」「価値の解明のレベル」「感情的・情動的な死との対決のレベル」「技術の習得のレベル」の4つのレベルが必要であると示している。本研究は,この4つのレベルを備えるため「死の疑似体験」(体験型研修)を取り入れた研修を実施し,教員自身の死や自殺に対する否定的態度を軽減させるために有効性をもつか,検討することを目的とする。
方 法
1.調査時期 2015年8月
2.調査対象 公私立学校教員39名(男性21名,女性18名)
3.調査材料 ①SD法(4カテゴリー:死について,生きる事について,自分をとりまく人や物について,自殺予防について,各10項目)②自殺に関する知識テスト(20項目 ○×式)③場面想定法(7項目,5件法。生徒からの相談場面を想定し,その場での対処行動を選択。質問項目は臨床心理学を専攻する5名の大学院生によって検討し作成。)④K6(不安・抑うつ尺度。6項目 5件法 0~24点 カットオフ5点。)
4.手続き 研修は,「講義型研修」(60分)「体験型研修」(90分)の2種類。対象者をA(講義のみ受講),AB(講義→体験の順に受講),BA(体験→講義の順に受講)の3群に分けた。調査は,受講の直前(プレ)直後(ポスト)に実施。倫理的配慮として,調査協力は任意であり,中断できること等について書面及び口頭によって説明し,同意を得た。調査後のケアとして,スクールカウンセラー2名にフォーローアップを依頼し,調査協力者が万が一不利益を生じた際の相談体制を整えた。尚,兵庫教育大学の倫理委員会にて承認を受けている。
結 果
①SD法:各カテゴリーのSDプロフィールを比較すると,体験型研修を受講したAB・BA群は,A群に比べポストにおける評定が肯定的へと変化し,体験型研修による影響が認められた(Figure 1)。
②知識テスト:知識テストの結果は,研修タイプに関わらずポストにおいて有意に上昇した。
③場面想定法:研修タイプに関わらず,回避的・否定的行動は有意に低下。肯定的行動については,有意差はなく,天井効果を認めた。
④K6得点分布:全体平均は6.0±5.57。9点以下は28名(平均3.0±2.40),10点以上は10名(平均14.7±2.79)であり,研修タイプによる偏りは認めなかった。
考 察
体験型研修は死や自殺に対する否定的感情を軽減させたが,行動への影響は本研究では確認できず,感情の変容によって生起した実際の行動変容を明らかにする必要がある。また,K6高得点の者は,自殺予防のような他者へのケアに携わる状態にはない事が示された。学校においては,自殺予防教育への真剣な取り組みを,教員の心のケアにも繋げていく方向性が必要であると考える。この研究は,兵庫教育大学大学院修士論文の一部である。