The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PH53] 精神障害者に対する偏見の研究

喚起された感情と社会的距離に着目して

山中まりあ, 森永康子, 古川義也#

Keywords:精神障害者, 偏見

問題・目的
 精神障害者に対する偏見は未だ根強く残っている。これまでの精神障害者に対する態度研究から,多くの人が「精神障害者=危険な人」といったネガティブなステレオタイプを持っていることが明らかとなった。坂本(1998)は,精神障害者に対する偏見は,精神科既往歴を有する人の社会復帰を困難にさせるばかりではなく,発病後の精神科受診を遅らせ症状を悪化させる原因であると述べている。精神障害者にとって生きやすい環境を作るためにも,精神障害者に対する理解を世間一般に深める必要があると考えられる。
 精神障害者の偏見に関する日本での研究は,主に精神障害者への社会的距離の変容を検討した研究が主であった。しかし,精神障害者に対する偏見低減の実践をより有用にするためにも,偏見がどのような要因によって生じているのか,また,変容のプロセスに着目すべきであると考える。
 そこで本研究では,Corrigan(2010)の精神障害者に対する認知・感情・行動のモデルを基に,偏見のメカニズムを解明し,どのような要因が偏見や差別行動へとつながるのかを検討することを目的とする。その際,Corrigan(2013)で使用された,精神障害者に対する2つの新聞記事を使用した。
方   法
参加者 広島大学の学生125名(男性87名,女性38名,平均年齢19.1歳,SD=1.13)を分析対象とした。2015年7月に実施。
実験計画 新聞記事の内容(3:回復記事/制度記事/歯科衛生記事)を実験条件として操作した,1要因3水準参加者間計画の質問紙実験であった。
手続き 参加者を回復記事条件,制度記事条件,歯科衛生記事(統制)条件にランダムに振り分け,記事を読んだ後の精神障害者に対する認知,現在の感情,精神障害者に対する行動について,尺度を用いて回答を求めた。
測度 認知:精神障害者に対するイメージ9項目7件法(堀越,2000;Table 1)。感情:一般感情尺度16項目7件法(小川ら,2000)。行動:精神障害者に対する受容度尺度(浅井,1997)より社会的距離に関する項目を使用した。4項目7件法。
結   果
因子分析 認知:最尤法とプロマックス回転による探索的因子分析を行った。その結果,「ネガティブさ」因子(α=.830)及び「嫌悪」因子(α=.787)に分かれた(Table 1)。
認知・感情・行動のパスについての検討 Corrigan(2010)に基づいたモデルを検討するため,共分散構造分析を行った。しかし十分な適合度が得られなかったため(CFI=.775,RMSEA=.195,SRMR=.162),有意でないパスを除外し,モデルを再検討した。最終的なモデルをFigure 1に示した。
 分析の結果,回復記事の提示→嫌悪→社会的距離というパスがあることが明らかとなった。しかし,Corrigan(2010)のモデルのように認知から感情を経由して,行動が変容するという結果は得られなかった。
考   察
 精神障害者への偏見(社会的距離)には認知がかかわっていることが示唆された。また,この認知は,精神障害者についての情報内容に応じて変わることが示唆された。今後は,潜在的な面から偏見を測定するため、潜在的連合テスト(Implicit Association Test: IAT)を測定手法として取り入れることも視野に入れ検討する。