日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH54] 葛藤場面における自己主張について

価値観相違場面での主張方略選択に対する影響の検討

吉川奈々子 (慶応義塾大学大学院)

キーワード:自己主張, 葛藤対処, 居場所感

 最近,学校でのアサーショントレーニング,ビジネスマンの「NO」と言える力など,自己の意見を表明することの重要性が高まっている。吉田・中津川(2013)は,葛藤場面において,相手との仲をより深めようという意識を持つ人は主張・協調的な方略を,関係を悪化させないよう意識する人は回避服従方略を選択すると述べている。そこで本研究では,主張方略に影響を与える要因として,対人関係における意識と後悔のしやすさを,対人関係における意識の背景として適応感,とりわけ居場所感に着目し,特定の場面においてどのような背景から主張方略の選択をしたのかについて考察することを目的とした。
方   法
○参加者
首都圏の高校生・大学生 249名
(男性70名,女性177名 うち不備により5名削除)
○尺度
・適応感尺度:大久保・青柳(2002)
「居心地の良さ」「課題・目的の存在」「被信頼・受容感」・「劣等感のなさ」の4因子
(居場所感に着目した尺度)
・対人関係目標尺度:吉田・中津川(2013)に基づく。
「関係深化目標」と「関係悪化回避目標」の2因子を使用
・後悔尺度:都筑(2002)
Schwartz et al.(2002)の後悔尺度5項目を和訳したもの(1因子)
・葛藤場面対処
「話し合いの際,相手(友人)との考えや価値観の相違に気づいたとき,どのような返答をとるか」について,「アサーションティブな主張」「あいまいな主張」「攻撃的な主張」「非主張」の4種類の返答例を提示し,最も近い返答を選択してもらった。
結   果
 返答の種類により4群に分け,一元配置の分散分析を行ったところ,「後悔のしやすさ」因子(F(3,245)=2.643,p<.05)と「悪化回避目標」因子(3,245)=4.182,p<.05)で4群の間に有意差がみられた。多重比較(Bonferroni)の結果「後悔のしやすさ」因子において,アサーティブな主張群に比べ,あいまいな主張群のほうが有意に値が高かった。「悪化回避目標」については攻撃的な主張群があいまいな主張群・アサーティブな主張群に比べ,有意に値が低かった。次に,対人関係目標2因子をそれぞれ従属変数,適応感4因子を独立変数として群ごとにステップワイズの変数選択を行った。その結果,非主張群(R²=.720,p<.01),あいまいな主張群(R²=.110,p<.01),アサーティブな主張群(R²=.080,p<.01)で有意なモデルが得られた。また,悪化回避目標を従属変数としたところ,アサーティブな主張群(R²=.054,p<.01)で有意なモデルが得られた。そして,葛藤場面対処の4パターンをグループ化変数とし,「対人関係深化目標」「悪化回避目標」「居心地の良さ」「後悔のしやすさ」を説明変数として判別分析を行ったところ,第1判別関数が有意であった。正準判別関数係数によると「対人関係深化目標」が判別の際に負の影響を,「悪化回避目標」と「後悔のしやすさ」が正の影響を与えていた。グループ重心の関数によると,アサーティブな主張群と攻撃的な主張群が負の方向に,あいまいな主張と非主張が正の方向へ傾いていた。(Figure 1)
考   察
 今回の結果から,コミュニティに対して居心地が良いと感じ,劣等感を抱えていると,自身の意見をアサーティブに主張し,居心地の良さが低く劣等感を抱えていると,あいまいな主張になると解釈できる。
 このことから居心地の良さすなわち居場所感がその主張の明瞭さに影響を与えているといえる。居場所感は,安心感とも考えられ,自分の意見を伝えることへの不安を軽減する効果があるのではないだろうか。
 非主張については,考えの相違にそこまでこだわらない,つまり,主張の必要性を感じなかったために非主張を選択したということが考えられる。主張ができないというより,しなかったといえるのではないだろうか。
 また,攻撃的主張には関係を深めようとする意識があると解釈が可能である。ここでの攻撃性は自己開示の一種ともとれる。以上のことから,アサーショントレーニング等を考える際に,主張の“良し悪し”や“できる・できない”よりも,その背景に目を向けたうえで,方略の選択の根拠を検討していく必要があると考えられる。