[PH56] 注意喚起メッセージに対する関与性がリスク認知に及ぼす影響
内集団‐外集団事例に着目した検討
Keywords:リスク認知, 関与性, メッセージ
問題と目的
私たちは脅威への遭遇を他人事だと捉える傾向「正常性バイアス」をもつ。Osherson et al.(1990)の類似性-網羅範囲モデルによると,前提の主語と結論の主語との類似性が高いときに,結論のもっともらしさが高まるとされる。このことから,類似性に依拠すると考えられる関与性が低い外集団成員の脅威遭遇事例よりも,関与性が高い内集団成員の脅威遭遇事例に基づく注意喚起メッセージのほうが正常性バイアスを低減させ,リスク認知が高まることが予測される。本研究では「Twitterの炎上」を題材に上記の予測を検討することで,注意喚起メッセージへの関与性がリスク認知に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
実 験 1
方法
実験参加者 名古屋大学の学部生118名。
注意喚起メッセージ 内集団成員(名古屋大学の学生),外集団成員(千葉大学の学生)が「Twitterの炎上」に遭った事例をそれぞれ作成した。さらに,「Twitterの炎上」への注意喚起文を作成した。
手続き (1) 参加者を3群に分け,それぞれ内集団事例と注意喚起,外集団事例と注意喚起,注意喚起のみを呈示した。(2)(1) に対する関与性と「Twitterの炎上」に対するリスク認知をそれぞれ測定した。
関与性の指標にはZaichkowsky(1985)の関与性尺度(20項目のうち17項目)を使用し,各表現対のどちらにどの程度当てはまるかを回答するよう求めた。リスク認知の測定には,正常性バイアス(8項目),脅威遭遇可能性(1項目),元吉他(2008)を参考に作成したリスクへの関心(4項目)の計3種類の尺度を用いた。評定値が高いほど,関与性,正常性バイアス,脅威遭遇可能性,リスクへの関心がそれぞれ高いことを意味する。
結果
条件ごとに各尺度平均得点の記述統計量を算出した(Table 1)。複数項目から成る尺度のα係数を算出した結果,いずれも高い数値が確認された(関与性,正常性バイアス,リスクへの関心から順に.94, .71,
.85)。呈示情報を独立変数,関与性評定,正常性バイアス,脅威遭遇可能性,リスクへの関心を従属変数とする分散分析を行った結果,いずれも有意な主効果はみられなかった(Fs<2.36,ps>.09)。群分けをせずに関与性評定とリスク認知との相関分析を行った結果,正常性バイアスとの間に有意な負の相関,リスクへの関心との間に有意な正の相関がみられた(Table 2)。
実 験 2
方法
大部分が実験1に従った。ただし,実験参加者は千葉大学の学部生86名で,内集団とは千葉大学,外集団とは名古屋大学であった。
結果
実験1と同様に,条件ごとに各変数の尺度平均得点の記述統計量を算出した(Table 1)。呈示情報を独立変数,関与性評定,正常性バイアス,脅威遭遇可能性,リスクへの関心を従属変数とする分散分析を行ったが,実験1と同様にいずれも有意な主効果はみられなかった(Fs<2.00,ps>.14)。関与性では中程度の効果η2がみられたが,平均値のパタンは仮説と対応していなかった。相関分析もまた実験1と同様の結果が得られた(Table 2)。
総合考察
実験1,2ともに,関与性評定値やリスク認知における呈示情報の主効果は有意ではなく結果は予測と異なっていた。よって,本研究で行った操作や扱ったリスク題材の範囲では,事例の主体や事例の有無による関与性評定やリスク認知への影響はみられないことが示唆された。
一方で,相関分析の結果からはメッセージへの関与性の認知が強まるほどメッセージを自分に当てはめ,正常性バイアスが低減され,リスクへの関心が高められる可能性が示された。これはOsherson et al.(1990)の類似性‐網羅範囲モデルに基づく予測と整合する結果である。本研究では内集団-外集団事例を用いて関与性を高めようと試みたが高まらず,かつ条件内の関与性評定値のばらつきは大きかった。これらを考慮すると,リスク認知を高めるために,今後は読み手の関与性を高めることのできる注意喚起メッセージの質をさらに検討する必要があるといえる。
私たちは脅威への遭遇を他人事だと捉える傾向「正常性バイアス」をもつ。Osherson et al.(1990)の類似性-網羅範囲モデルによると,前提の主語と結論の主語との類似性が高いときに,結論のもっともらしさが高まるとされる。このことから,類似性に依拠すると考えられる関与性が低い外集団成員の脅威遭遇事例よりも,関与性が高い内集団成員の脅威遭遇事例に基づく注意喚起メッセージのほうが正常性バイアスを低減させ,リスク認知が高まることが予測される。本研究では「Twitterの炎上」を題材に上記の予測を検討することで,注意喚起メッセージへの関与性がリスク認知に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
実 験 1
方法
実験参加者 名古屋大学の学部生118名。
注意喚起メッセージ 内集団成員(名古屋大学の学生),外集団成員(千葉大学の学生)が「Twitterの炎上」に遭った事例をそれぞれ作成した。さらに,「Twitterの炎上」への注意喚起文を作成した。
手続き (1) 参加者を3群に分け,それぞれ内集団事例と注意喚起,外集団事例と注意喚起,注意喚起のみを呈示した。(2)(1) に対する関与性と「Twitterの炎上」に対するリスク認知をそれぞれ測定した。
関与性の指標にはZaichkowsky(1985)の関与性尺度(20項目のうち17項目)を使用し,各表現対のどちらにどの程度当てはまるかを回答するよう求めた。リスク認知の測定には,正常性バイアス(8項目),脅威遭遇可能性(1項目),元吉他(2008)を参考に作成したリスクへの関心(4項目)の計3種類の尺度を用いた。評定値が高いほど,関与性,正常性バイアス,脅威遭遇可能性,リスクへの関心がそれぞれ高いことを意味する。
結果
条件ごとに各尺度平均得点の記述統計量を算出した(Table 1)。複数項目から成る尺度のα係数を算出した結果,いずれも高い数値が確認された(関与性,正常性バイアス,リスクへの関心から順に.94, .71,
.85)。呈示情報を独立変数,関与性評定,正常性バイアス,脅威遭遇可能性,リスクへの関心を従属変数とする分散分析を行った結果,いずれも有意な主効果はみられなかった(Fs<2.36,ps>.09)。群分けをせずに関与性評定とリスク認知との相関分析を行った結果,正常性バイアスとの間に有意な負の相関,リスクへの関心との間に有意な正の相関がみられた(Table 2)。
実 験 2
方法
大部分が実験1に従った。ただし,実験参加者は千葉大学の学部生86名で,内集団とは千葉大学,外集団とは名古屋大学であった。
結果
実験1と同様に,条件ごとに各変数の尺度平均得点の記述統計量を算出した(Table 1)。呈示情報を独立変数,関与性評定,正常性バイアス,脅威遭遇可能性,リスクへの関心を従属変数とする分散分析を行ったが,実験1と同様にいずれも有意な主効果はみられなかった(Fs<2.00,ps>.14)。関与性では中程度の効果η2がみられたが,平均値のパタンは仮説と対応していなかった。相関分析もまた実験1と同様の結果が得られた(Table 2)。
総合考察
実験1,2ともに,関与性評定値やリスク認知における呈示情報の主効果は有意ではなく結果は予測と異なっていた。よって,本研究で行った操作や扱ったリスク題材の範囲では,事例の主体や事例の有無による関与性評定やリスク認知への影響はみられないことが示唆された。
一方で,相関分析の結果からはメッセージへの関与性の認知が強まるほどメッセージを自分に当てはめ,正常性バイアスが低減され,リスクへの関心が高められる可能性が示された。これはOsherson et al.(1990)の類似性‐網羅範囲モデルに基づく予測と整合する結果である。本研究では内集団-外集団事例を用いて関与性を高めようと試みたが高まらず,かつ条件内の関与性評定値のばらつきは大きかった。これらを考慮すると,リスク認知を高めるために,今後は読み手の関与性を高めることのできる注意喚起メッセージの質をさらに検討する必要があるといえる。