日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH58] 教師・保護者・友人のはたらきかけが本来感と自尊感情に及ぼす影響

心理的Well-beingの向上を目指した検討

山田恭子1, 吉澤寛之2 (1.岐阜大学大学院, 2.岐阜大学大学院)

キーワード:自尊感情, 本来感, 心理的Well-being

 自尊感情には,適応的なものと不適応的なものがあることが理論的にも実証的にも報告され,自尊感情の概念的な見直しが試みられていると伊藤・小玉(2005)は指摘している。例えば,Deci & Ryan(1995)は,自己価値の感覚が社会的な成功や失敗に依存しておらず,自分が自分自身でいられることから自然に得られる本当の自尊感情を適応的な自尊感情として論じている。伊藤・小玉(2005)は,自分らしくある感覚としての本来感を本当の自尊感情と極めて近い概念として位置づけ,本来感と自尊感情が人生全般にわたるポジティブな心理的機能である心理的Well-being(以下Wbと略する)(Ryff,1989)に対し,それぞれ同程度の促進的な影響を与えていることを示している。
 一方,遠藤(1999)は,自尊感情をこれまでのような個人内過程の産物としてではなく,関係性の観点からとらえ直すことが重要であるとしている。以上の知見を踏まえ,本研究では,子どもたちの環境にとって重要な他者である教師・保護者・友人のはたらきかけの尺度をそれぞれの立場において等質な内容となるよう作成する。そのうえで,各はたらきかけが,子どものたちの自尊感情や本来感に及ぼす影響,Wbの適応状態に及ぼす影響について検討する。
方   法
調査・分析対象者
 岐阜市内の中学校2校(第1著者の勤務校およびA校)の698名(1年男127名,女107名,2年男114名,女115名,3年男119名,女116名)を分析対象にした。
調査内容
 (1) 教師・保護者・友人のはたらきかけ尺度(94項目5件法):受容・配慮,肯定的フィードバック・賞賛・目標設定(以下肯定fbと略する),統制指導,不公正,帰属,他者向上の6下位尺度を用いた。(2) Rosenbergの自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982; 10項目5件法)。(3) 本来感尺度(伊藤・小玉,2005; 7項目5件法)。(4) Wb尺度(西田,2000; 36項目6件法):人格的成長,人生における目的,自律性,積極的な他者関係,環境制御力の5下位尺度を用いた。
調査時期および手続き
 2015年12月中旬に質問紙を学校に配布し,学級ごとに実施した。
結果と考察
 まず,因子構造と信頼性を確認した後,学校別,学年別を独立変数,各はたらきかけ・自尊感情・本来感・Wbの各下位尺度を従属変数とする2要因分散分析を実施した。教師の受容・配慮は,勤務校で,1年より2・3年,2年より3年の方が有意に高かった。教師の肯定fbは,勤務校で,1年より2・3年の方が有意に高かった。友人の帰属内的(失敗の原因の内的帰属)では,勤務校で,2年より3年の方が有意に高かった。Wb自律性では,勤務校で,3年より2年の方が有意に高かった。勤務校では,学年が上がるにつれて教師のはたらきかけが高く認知されていた。
 次に,各はたらきかけが,自尊感情や本来感に及ぼす影響,さらにWbに及ぼす影響を検討するため,重回帰分析(強制投入法)を実施した(Figure 1)。教師は受容・配慮,統制指導,保護者は受容・配慮,肯定fb,統制指導,友人は受容・配慮,肯定fbが有効であること示された。
 以上のことから,受容・配慮や肯定fbが有効なはたらきかけであるという結果は,褒められる頻度と自尊感情との正の相関を報告したFelson & Zielinski(1989)の知見に整合する。また,教師より友人の影響が大きいことは,自己概念の形成における親友の重要性を見出した高石(1992)の知見と一致する。今後,本知見を参考に,勤務校の課題に焦点を当てた心理教育的介入を実践する。