The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(65-88)

ポスター発表 PH(65-88)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PH65] 書くことによる言語的説得が自己効力感に及ぼす効果

田中いずみ1, 鈴木由美2 (1.新潟県長岡市立東北中学校, 2.聖徳大学)

Keywords:言語的説得, メタ認知, 自己効力感

目   的
 言語的説得には,自分や他者からのアプローチによる励ましや呼びかけ,賞賛,教示がある。筆者は,書くという活動を通して文字表現による言語的説得に有効性があると考察する。自分の思考や感情をメタ認知するために,文字で表現して認知していくことに効果があると考え,生徒が自らを振り返るために自分にあてて手紙を書くという方法を活用する。活動を振り返って,自分にあてて手紙を書くことの利点は,手紙は読み手から評価されることが少なく,リラックスして書くことができたり自分自身と向き合って書いたりできる。そこで,自分にあてた文章がすぐさま自分を励ましたり賞賛したりすることにつながり,自分の思考や行動を客観的に認識するメタ認知能力につながる行為であることを検証する。次に,教師は生徒が書いた手紙に対して手紙(コメント)を書くという方法を活用する。教師という他者からのアプローチも効果を及ぼすと仮定し,教師からの手紙の生徒をほめたり励ましたりする記述は,生徒の自己効力感に有効に働きかける行為であることを検証するために本研究を行う。
方   法
調査対象 A県の公立中学校3年生2クラス50名
尺度 ①中学生自己効力感尺度 筆者が作成したもので,3因子を想定し,24項目,5件法で回答を求めた。
内容 調査期間は4月から10月までで,Aクラスは言語的説得を行わない群,Bクラスは言語的説得を行う群とした。言語的説得を行う前の4月と行った後の10月にA,Bクラスとも質問紙調査を実施した。4月から10月に毎月1回A,Bクラスともグループ活動を実施し,Bクラスのみ振り返り時に書くことによる言語的説得を行った。具体的にはグループ活動を振り返って「自分への手紙」を書き,それに対して学級担任が「教師からの手紙」という形式でコメントを書くという方法である。さらに,10月に「未来の自分への手紙」を書くという方法である。
結   果
 書くことによる言語的説得の実施前後において「中学生自己効力感」の得点に上昇があることを検証するために,「中学生自己効力感尺度」による言語的説得の実施群の結果をみた。4月と10月を比較すると,10月の「中学生自己効力感」に有意な差は見られなかったが,10月の「積極的行動」因子では5%水準で有意な差があった。
 生徒が書いた「自分への手紙」の内容を複数の大学院生の協力を得て,KJ法を用いてカテゴリー分類した。その結果,①活動満足感,②肯定的思考,③向上思考,④積極的行動,⑤協力的行動,⑥消極的行動,⑦他者賞賛思考の7種類に分類できた。中でも,①「活動満足感」②「肯定的思考」④「積極的行動」の記述文の数や割合が増えた。
 学級担任が書いた「教師からの手紙」の内容を「自律性支援的な教授行動と統制的な教授行動表」(岡田, 2012)によって分類すると,「励ます」,「ヒントを与える」,「応答的になる」,「生徒の視点で発言する」「情報的なフィードバックとしてほめる」と合致する内容が多く見られた。
考   察
 「自分への手紙」の内容を分析した結果,自己効力感の下位尺度の「積極的行動」に当たる記述が分類されたことで,自己効力感に効果があったと言える。しかも,生徒は取組への充実感や班員と協力できたことの満足感が増えていったのも大きな成果である。さらに,10月に「未来の自分への手紙」の内容を分析すると,将来頑張っている姿を予見する内容の手紙が多く見られたことから,将来において困難なことがあっても乗り越えられるだろうという期待や自信が持てるようになったと考察する。このような変容は,生徒が自分にあてて手紙を書くことで,自分自身を励まし,賞賛し,メタ認知することができたからである。さらに,生徒の思考や感情に寄り添うように学級担任が賞賛したり,教示したり,肯定的で効果的なフィードバックを伝えるようなメッセージを送り続けたことが,その記述を読む生徒の心に自信を与えたと考察する。