[PH67] 教員志望学生における,発達障害児の保護者支援に対する負担感を規定する要因の検討
発達障害児の母親イメージに焦点をあてて
Keywords:発達障害児, 保護者支援, 大学生
問題と目的
発達障害児の保護者が抱える不安や負担の低減のためには,教師と保護者との協働が必要不可欠と考えられる。そのため,教員養成段階において,学生が発達障害児の保護者支援の重要性を事前に理解し,彼らが抱える保護者支援への負担感を低減する教育が必要である。しかし,教員養成段階において保護者理解や保護者との協働に関する授業は少なく,これらを題材とした研究も見受けられない。そこで本研究では,教員志望学生に焦点を当て,特別な支援を必要とする子どもを持つ保護者の支援に対する負担感を規定する要因を検討する。要因として,「発達障害児の母親イメージ」と,保護者との協働を含めた教員の一般業務を担う前提として必要となる「教職に対する自信の大きさ」とを取り上げる。
方 法
対象者 教員志望の大学生112名 (男性56名,女性56名,平均年齢21.2歳,SD=1.21)。
質問紙調査
①教職に対する自信尺度:秋光 (2011) の,教師に必要な資質能力に関する自信尺度を用いた。
②発達障害児の母親イメージ尺度:発達障害児の母親に対するイメージを測定するため,予備調査を基に独自に作成した22項目を用いた。
③特別な支援を必要とする子どもの保護者支援負担感尺度:高田 (2009) の特別支援教育負担感尺度を保護者対応版に改変して用いた。以上の各尺度は全て5件法であった。
結 果
各尺度の因子分析 最尤法・プロマックス回転で行った。①教職に対する自信尺度:「自発的行動力 (α=.81)」,「対人関係能力 (α=.74)」,「実践的指導力 (α=.73)」の3因子構造であった。
②発達障害児の母親イメージ尺度:発達障害児の母親が抱える不安や負担感について言及する項目から成る「不安及び負担イメージ (α=.79)」,発達障害児の母親が積極的かつ前向きに努力している面に言及する項目を逆転したものから成る「消極的努力イメージ (α=.70)」の2因子構造であった。
③保護者支援負担感尺度:「不安及び負担 (α=.80)」,「やりがいのなさ (α=.72)」の2因子構造であった。
保護者支援負担感を規定する要因の検討 教職に対する自信,発達障害児の母親イメージ,保護者支援負担感の因子得点を使用し,共分散構造分析を行った (x2(13)=10.26; p<.67; CFI=1.00; NFI=.93; RMSEA=.00)。その結果,母親イメージの「不安及び負担イメージ」から保護者支援負担感の「不安及び負担」に正の影響が見られた。また,教職に対する自信の「対人関係能力」から保護者支援負担感の「やりがいのなさ」への直接のパスと,母親イメージの「消極的努力イメージ」を介したパスが両方認められたため,媒介分析を行い (Figure 1),ブートストラップ法 (サンプリング回数:2000回,信頼区間:95%) により間接効果を検討したところ,有意であった (β=-.19,CI[-.44,-.04])。対人関係能力に対する自信は,母親に対する消極的努力イメージに負の影響を与え,消極的努力イメージが低いことで特別な支援を必要とする子どもの保護者支援に対するやりがいのなさが弱まることがわかった。また,発達障害児の母親に対する不安及び負担イメージは,学生自身の保護者支援に対する不安及び負担感につながることが示された。
考 察
教職に対する自信の中で,実践的な積極性や指導力よりも,「他者に対して思いやりをもちながら上手く接することができる」という対人関係能力の方が,他者理解を促進し,保護者の努力を積極的に受容することが示唆された。このような理解が,保護者との協働や支援に対するやりがいの形成につながることも示された。今後は,実際に保護者支援を促進するための更なる研究が必要である。
発達障害児の保護者が抱える不安や負担の低減のためには,教師と保護者との協働が必要不可欠と考えられる。そのため,教員養成段階において,学生が発達障害児の保護者支援の重要性を事前に理解し,彼らが抱える保護者支援への負担感を低減する教育が必要である。しかし,教員養成段階において保護者理解や保護者との協働に関する授業は少なく,これらを題材とした研究も見受けられない。そこで本研究では,教員志望学生に焦点を当て,特別な支援を必要とする子どもを持つ保護者の支援に対する負担感を規定する要因を検討する。要因として,「発達障害児の母親イメージ」と,保護者との協働を含めた教員の一般業務を担う前提として必要となる「教職に対する自信の大きさ」とを取り上げる。
方 法
対象者 教員志望の大学生112名 (男性56名,女性56名,平均年齢21.2歳,SD=1.21)。
質問紙調査
①教職に対する自信尺度:秋光 (2011) の,教師に必要な資質能力に関する自信尺度を用いた。
②発達障害児の母親イメージ尺度:発達障害児の母親に対するイメージを測定するため,予備調査を基に独自に作成した22項目を用いた。
③特別な支援を必要とする子どもの保護者支援負担感尺度:高田 (2009) の特別支援教育負担感尺度を保護者対応版に改変して用いた。以上の各尺度は全て5件法であった。
結 果
各尺度の因子分析 最尤法・プロマックス回転で行った。①教職に対する自信尺度:「自発的行動力 (α=.81)」,「対人関係能力 (α=.74)」,「実践的指導力 (α=.73)」の3因子構造であった。
②発達障害児の母親イメージ尺度:発達障害児の母親が抱える不安や負担感について言及する項目から成る「不安及び負担イメージ (α=.79)」,発達障害児の母親が積極的かつ前向きに努力している面に言及する項目を逆転したものから成る「消極的努力イメージ (α=.70)」の2因子構造であった。
③保護者支援負担感尺度:「不安及び負担 (α=.80)」,「やりがいのなさ (α=.72)」の2因子構造であった。
保護者支援負担感を規定する要因の検討 教職に対する自信,発達障害児の母親イメージ,保護者支援負担感の因子得点を使用し,共分散構造分析を行った (x2(13)=10.26; p<.67; CFI=1.00; NFI=.93; RMSEA=.00)。その結果,母親イメージの「不安及び負担イメージ」から保護者支援負担感の「不安及び負担」に正の影響が見られた。また,教職に対する自信の「対人関係能力」から保護者支援負担感の「やりがいのなさ」への直接のパスと,母親イメージの「消極的努力イメージ」を介したパスが両方認められたため,媒介分析を行い (Figure 1),ブートストラップ法 (サンプリング回数:2000回,信頼区間:95%) により間接効果を検討したところ,有意であった (β=-.19,CI[-.44,-.04])。対人関係能力に対する自信は,母親に対する消極的努力イメージに負の影響を与え,消極的努力イメージが低いことで特別な支援を必要とする子どもの保護者支援に対するやりがいのなさが弱まることがわかった。また,発達障害児の母親に対する不安及び負担イメージは,学生自身の保護者支援に対する不安及び負担感につながることが示された。
考 察
教職に対する自信の中で,実践的な積極性や指導力よりも,「他者に対して思いやりをもちながら上手く接することができる」という対人関係能力の方が,他者理解を促進し,保護者の努力を積極的に受容することが示唆された。このような理解が,保護者との協働や支援に対するやりがいの形成につながることも示された。今後は,実際に保護者支援を促進するための更なる研究が必要である。