[PH68] 指導困難学級と支援を必要とする児童への教育的対応の関係
キーワード:指導困難学級, 要支援児, 周辺児童
問題と目的
学級において,問題行動をする児童が他の児童と同じように行動ができた際に,問題行動をする児童だけを褒めるなど,指導のダブルスタンダードが存在することがある。加藤・大久保 (2006) は,指導のダブルスタンダード化が,子どもの中に教師や学校生活への否定的な感情を引き起こすと述べている。
そこで本研究では,教員が「支援が必要な児童 (発達障害児や何らかの理由で問題行動をする児童)」へ行う教育的対応を,周辺児童がダブルスタンダードな対応とみなしているのではないかという考えをもとに,教育的対応に対する周辺児童の受け止め方に注目する。そして,教育的対応が持つ,学級の状態への影響を明らかにすることを目的とする。
調査方法と分析手続き
調査方法:半構造化インタビュー調査
調査協力者:教職大学院に在籍する現職教員6名 (小学校)
調査項目:「特別な教育的対応を必要とする児童へ行った対応」「教育的対応のクラスへの影響」「影響と指導困難な状態の関係性」「どのような点で関係があると調査協力者が考えているか」「その他」
分析手続き:ICレコーダーに録音したインタビュー内容を逐語録として書き起こした。さらに逐語録をもとに,調査項目ごとにインタビュー内容をまとめた表をExcelにて作成し,教育的対応がクラスに与えた影響について,協力者が答えた内容について分類した。
結 果
・要支援児への教育的対応がクラスに与えた影響
協力者の語りから,支援を必要とする児童(以下要支援児)への教育的対応がクラスに与えた影響について,教育的対応がクラスに「プラスの影響を与えたと答えた語り (2名)」「マイナスの影響を与えたと答えた語り (1名)」「影響がなかった語り (3名)」の3つに分類をすることができた。
1つ目は,担任が要支援児への教育的対応を行うことによって,周辺児童が担任に協力的になったり,学習の定着が進んだりなど,教育的対応がクラスにプラスの影響を与えたと答えた語りである。具体的な対応内容としては,「学習障害児へ丁寧に書字の指導をすることでそれをクラス全体で共有し,書字のポイントを指導することができていた」などの発言からそれが読み取れた。
2つ目は,担任が要支援児への対応を行うことで周辺児童から不満の声があがったなど,教育的対応がクラスにマイナスの影響を与えたという語りである。この理由について協力者は,「自分が要支援児について周辺児童にうまく説明できなかったため」と語った。
3つ目は,教育的対応がクラスに影響はなかったという語りである。この語りの中で影響がなかった理由として具体的に語られたのは,「わりと見えないところでやっていた部分もあって。そういう先生はひいきしているとか見えないようには努力していたんですけど」などである。
・要支援児の特性
「マイナスの影響を与えたと答えた語り」の要支援児は場面緘黙のある児童であり,情緒的な困難を抱えていた。一方他の語りの要支援児は,ADHDや愛着障害など,主に行動面に困難を抱えていた。
考 察
要支援児への教育的対応がクラスにプラスの影響を与えたと答えた語りとほかの語りを比較すると,教育的対応の性質に違いがみられた。プラスの影響があったと答えた協力者が要支援児に行っていた教育的対応は,要支援児だけでなく周辺児童への対応も視野に入れた対応であり,全員に利益をもたらすようなユニバーサルデザインな対応であった。ユニバーサルデザインな対応が可能であれば,要支援児のみだけでなくクラス全体に対し集団を意識した対応が可能になるため,「あの子だけ特別なの?」等の不満を周辺児童がもつことが少なくなる可能性がある。ただし,緘黙や自閉症など,その子の状態に特化した対応をせねばならず周辺児童も視野に入れた対応を行うのが難しい場合は,ユニバーサルデザインな対応を行うのは困難だろう。そのためユニバーサルデザインな対応は,クラスにプラスの影響を与える可能性を持つ一方で,教育的対応を必要とする児童の示す困難の状態に左右されるのかもしれない。
学級において,問題行動をする児童が他の児童と同じように行動ができた際に,問題行動をする児童だけを褒めるなど,指導のダブルスタンダードが存在することがある。加藤・大久保 (2006) は,指導のダブルスタンダード化が,子どもの中に教師や学校生活への否定的な感情を引き起こすと述べている。
そこで本研究では,教員が「支援が必要な児童 (発達障害児や何らかの理由で問題行動をする児童)」へ行う教育的対応を,周辺児童がダブルスタンダードな対応とみなしているのではないかという考えをもとに,教育的対応に対する周辺児童の受け止め方に注目する。そして,教育的対応が持つ,学級の状態への影響を明らかにすることを目的とする。
調査方法と分析手続き
調査方法:半構造化インタビュー調査
調査協力者:教職大学院に在籍する現職教員6名 (小学校)
調査項目:「特別な教育的対応を必要とする児童へ行った対応」「教育的対応のクラスへの影響」「影響と指導困難な状態の関係性」「どのような点で関係があると調査協力者が考えているか」「その他」
分析手続き:ICレコーダーに録音したインタビュー内容を逐語録として書き起こした。さらに逐語録をもとに,調査項目ごとにインタビュー内容をまとめた表をExcelにて作成し,教育的対応がクラスに与えた影響について,協力者が答えた内容について分類した。
結 果
・要支援児への教育的対応がクラスに与えた影響
協力者の語りから,支援を必要とする児童(以下要支援児)への教育的対応がクラスに与えた影響について,教育的対応がクラスに「プラスの影響を与えたと答えた語り (2名)」「マイナスの影響を与えたと答えた語り (1名)」「影響がなかった語り (3名)」の3つに分類をすることができた。
1つ目は,担任が要支援児への教育的対応を行うことによって,周辺児童が担任に協力的になったり,学習の定着が進んだりなど,教育的対応がクラスにプラスの影響を与えたと答えた語りである。具体的な対応内容としては,「学習障害児へ丁寧に書字の指導をすることでそれをクラス全体で共有し,書字のポイントを指導することができていた」などの発言からそれが読み取れた。
2つ目は,担任が要支援児への対応を行うことで周辺児童から不満の声があがったなど,教育的対応がクラスにマイナスの影響を与えたという語りである。この理由について協力者は,「自分が要支援児について周辺児童にうまく説明できなかったため」と語った。
3つ目は,教育的対応がクラスに影響はなかったという語りである。この語りの中で影響がなかった理由として具体的に語られたのは,「わりと見えないところでやっていた部分もあって。そういう先生はひいきしているとか見えないようには努力していたんですけど」などである。
・要支援児の特性
「マイナスの影響を与えたと答えた語り」の要支援児は場面緘黙のある児童であり,情緒的な困難を抱えていた。一方他の語りの要支援児は,ADHDや愛着障害など,主に行動面に困難を抱えていた。
考 察
要支援児への教育的対応がクラスにプラスの影響を与えたと答えた語りとほかの語りを比較すると,教育的対応の性質に違いがみられた。プラスの影響があったと答えた協力者が要支援児に行っていた教育的対応は,要支援児だけでなく周辺児童への対応も視野に入れた対応であり,全員に利益をもたらすようなユニバーサルデザインな対応であった。ユニバーサルデザインな対応が可能であれば,要支援児のみだけでなくクラス全体に対し集団を意識した対応が可能になるため,「あの子だけ特別なの?」等の不満を周辺児童がもつことが少なくなる可能性がある。ただし,緘黙や自閉症など,その子の状態に特化した対応をせねばならず周辺児童も視野に入れた対応を行うのが難しい場合は,ユニバーサルデザインな対応を行うのは困難だろう。そのためユニバーサルデザインな対応は,クラスにプラスの影響を与える可能性を持つ一方で,教育的対応を必要とする児童の示す困難の状態に左右されるのかもしれない。