The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(65-88)

ポスター発表 PH(65-88)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PH69] 体育祭本番を経験することで生徒はいかなる変容を遂げるのか

準備や練習にほとんど関わらない生徒を対象にして

河本愛子 (東京大学大学院)

Keywords:体育祭, 学校行事, 高校生

問題と目的
 学校行事は,明治時代より長きにわたり実践が行われてきた(e.g.山本,1999)。現在では,ごく日常的に学校生活で実践が行われ,全ての生徒が経験すべき活動とされている。しかし意外にも,学校行事への取り組みが現実的にどのような側面に機能しているのかは,実証的にほとんど問われていない(山田,1999)。
 学校行事においては,大きく分けると準備・練習と本番当日という局面があると考えられる。学校行事は教育課程の一貫として位置付けられているため,一般的には,本番前に準備や練習を行うことが期待されるが,中には,本番前に準備や練習を行わないまま,本番を迎えるという特徴をもつ学校行事もある。
 そこで本研究では,高校での体育祭に着目し,準備・練習をほとんどしないまま体育祭を迎えてもなお,生徒に変化がみられるのかを運動,個人の適応,そして,集団内での個人の振る舞いという側面から検討する。
方   法
研究対象:関東地方における高校生1~3年生のうち,応援団に所属していない生徒480名。これは,本研究の対象校において体育祭での応援団が盛んで,応援団は体育祭に向けた準備練習をしていたことによる。
質問項目:体育祭前と体育祭後の2回,以下の項目を測定した。全て5件法にて回答を求めた。
 運動に関する肯定的感情 西田・澤(1993)の体育に対する期待および感情尺度の下位尺度のうち,「運動に関する肯定的感情」を用いた。
 個人の適応 山本・松井・山成(1982)の自尊心尺度を用いた。ただし,田中・上地・市村(2003)や阿部・今野(2007)等において,自尊心尺度のうち,項目8は因子負荷量が低く,その概念にも沿っていないといった指摘がみられたため,その1項目は抜いた上で実施した。
 協同に対する認識 協同作業認識尺度(長濱・安永・関田ら,2009)を用いた。
 情緒的コミットメント サークルコミットメント尺度の一因子である情緒的コミットメント(橋本・唐沢・磯崎,2010)を用いた。
結   果
 被験者内で体育祭前後の値に差があるかどうかについてt検定を行ったところ0.1%水準で有意差が見られたのは,運動に対する肯定的感情(t= -3.92,df = 357, p<.001),集団への情緒的コミットメント(t= -3.28,df = 342, p<.001)であった。
考   察
 これらの結果から体育祭で本番のみを経験したとしてもなお,生徒の運動に対する肯定的感情や集団への情緒的コミットメントが高まることが示唆された。一方,個人の適応や協同に関する認識には変化がみられなかった。
引用文献
阿部美帆・今野裕之(2007).状態自尊感情尺度の開発.パーソナリティ研究,16,36-46.
長濱文与・安永 悟・関田一彦・甲原定房(2009).協同作業認識尺度の開発.教育心理学研究,57,24-37.
西田 保・澤 淳一(1993).体育における学習意欲を規定する要因の分析.教育心理学研究,41,125-134.
橋本剛明・唐沢かおり・磯崎三喜年(2010).大学生サークル集団におけるコミットメント・モデル:準組織的集団の観点からの検討.実験社会心理学研究,50,76-88.
山田真紀(1999).「学校行事」研究のレビューと今後の課題:教育社会学の視点から.日本特別活動学会紀要,7,90-102.
山本真理子・松井 豊・山成由紀子(1982).認知された自己の諸側面の構造,教育心理学研究,30,64-68.
山本信良(1999).学校行事の成立と展開に関する研究.神奈川:紫峰図書.
付  記
 本研究発表は,公益財団法人博報児童教育振興会第11回児童教育実践についての研究の助成を受けて行われました。