日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(65-88)

ポスター発表 PH(65-88)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PH73] 生徒の視点から見える担任教師の関わりのずれ

高校生・大学生を対象とした仮説生成

宮谷光輝1, 益子洋人2 (1.北海道教育大学大学院, 2.北海道教育大学)

キーワード:教師‐生徒間関係, 生徒視点, M-GTA

問題と目的
 教師の中学生への関わりについては,教師視点からのみならず,生徒視点からの研究も重要である。しかしそのような研究は,衛藤(2013)などがあるのみである。そこで本研究では,中学校時代の担任教師の関わりが生徒にとってずれていると感じられた事例に焦点を当て,生徒の求めている関わりと教師の関わりのずれがどのように発生し,どのような影響を持つのかに関して,生徒視点からそのプロセスを明らかにすることを目的とする。
方   法
調査協力者 札幌市内の中学校に在籍経験のある高校生1名,大学生2名。性別の内訳は男性1名,女性2名であった。
調査内容 半構造化面接を行い,「担任教師に何らかのかかわりを求めていたが,気づいてもらえなかった経験」について尋ねた。
分析方法 分析には,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)を用いた。
倫理的配慮 インタビューの際に,研究協力の自由,データの厳重な保管やプライバシーの保護について説明した後,協力者と保護者(高校生のみ)に承諾書へ署名してもらった。
結果と考察
 M-GTAによる分析を行った結果,21概念と2つの大カテゴリー,5つの小カテゴリーが抽出された(Figure1)。中学生はクラスの問題や友人・教師との関係など,外的環境に関わる困り感や,外的環境に関わらない内的な葛藤などの困り感などを抱える状況に置かれた際,担任ならば当然こうするべきだというイメージや,担任にできることがあるはずだという考えに基づき,関心に合わせたかかわりを求める。それに対する教師の関わりが,問題を把握する段階においてそもそも見てもらえていない,注目するポイントや理解のピントがずれていると感じられたり,問題に対応する段階において何も対応してくれない,効果のない対応をする,対応が遅い,と生徒に感じられた場合,関わりのずれとなる。これらのずれた関わりに対して,生徒が担任に何らかの働きかけやサインを発することがあるが,適切な対応をしてもらえないと,聞く耳を持ってもらえないと感じ,怒りの感情が強く生起し,落胆へと移行する。担任への働きかけをしない場合であっても,教師のずれた関わりに対して落胆し,担任を見下すなど,担任を担任として認められなくなっていく。このように担任教師のずれた関わり体験によって生徒は担任に期待しなくなり,担任に頼らない問題の解決を模索するようになる。これらのプロセスを通して,生徒は担任に期待しないままでいるようになり,普段から期待していないという前提となって困り感を抱える状況への対処に影響するようになっていく。
 以上の結果より,生徒が担任の関わりにずれを感じる状況は,生徒の感じている困り感,求めている関わりを理解し,適切に対応することができていない場合に発生し,その状況が継続すると,担任は期待されないようになり,生徒は担任に頼らないあり方へと変わっていくことが示唆された。このような状況では,担任自身が問題に気づいてない場合や,向き合う余裕がない場合が考えられる。したがって,担任が問題に気づき,余裕を持ってその問題に向き合うことができるように,諸富(2011)などが言うような,他の教師や保護者によるサポートが必要なのではないだろうか。