[PH74] 中学生のネットいじめ被害時における対教師援助要請行動を促進・抑制する要因の検討
キーワード:援助要請行動, ネットいじめ
問題と目的
ネットいじめは,日本では2007年頃に発生して以来概ね増加傾向にある。ネットいじめはその特徴から第三者による発見が困難であり,この点について被害生徒からの教師への相談を促進することが有効だと考えられる。しかし,ネット上でいじめ等の被害に遭った者のうち,他者への相談行動を実行した者の割合が低いことが国内外の研究で示されてきた(Smith,Mahdavi,Carbalho,Fisher,Russell,& Tippett,2008; 深谷・高旗,2008)。そこで本研究では,ネットいじめ被害に遭った中学生の対教師援助要請行動を促進・抑制する要因の収集(予備調査)およびそれらの関連の検討(本調査)を行った。
予備調査:方法
調査時期・協力者 2015年3月に首都圏の中学 1~3年生637名(男子329名,女子308名)に実施した(質問紙法)。
調査内容
(1) フェイスシート:学年,性別,年齢
(2) 相談行動促進要因に関する自由記述欄
(3) 相談行動抑制要因に関する自由記述欄
予備調査:結果
臨床心理学を専攻する大学院生3名による合議を経て,「ネットいじめ被害状況尺度(以下「状況尺度」,26項目)」,「ネットいじめ被害時における対教師相談行動の利益・コスト尺度(以下「CB尺度」,24項目)」の計50項目を採用した。
高木(1997)を参考に,ネットいじめ被害時の援助要請行動に至るモデルを作成した(Figure 1)。得られた2尺度を用い,「被害状況の重大性」と「相談行動の利益・コスト」との関連を検討するために以下の本調査で質問紙調査を実施した。
本調査:方法
調査時期・協力者 2015年12月に首都圏の中学2年生180名(男子100名,女子80名)に実施した(質問紙法)。
調査内容
(1) フェイスシート:学年,性別,年齢
(2) 状況尺度(5件法) (3)CB尺度(5件法)
本調査:結果と考察
2尺度の因子構造
(1) 状況尺度:16項目からなる3因子構造を確認。「間接型ネットいじめと拡散性(6項目,α=.923)」,「従来型いじめとの併存(4項目,α=.894)」,「直接型ネットいじめ(6項目,α=.902)」となった。
(2) CB尺度:20項目からなる4因子構造を確認。「解決可能性の高さ(6項目,α=.863)」,「相談による不利益(6項目,α=.796)」,「解決可能性の低さ(5項目,α=.816)」,「放置,拡散による問題の悪化(3項目,α=.804)」となった。
被害状況の重大性と相談行動の利益・コストとの関連 性差の検討のため,男女別でモデルを構築し,共分散構造分析を実施した(Figure 2)。
「ネットいじめ被害状況に対する重大性」から「相談行動の利益・コスト」との関連について,男子において4本,女子において2本,計6本の有意なパスが確認されたが,男女で共通のパスはなかった。このことから,ネットいじめ被害時の相談行動を促進するには,男女において有効な介入が異なる可能性が示唆された。
男子においては,間接型ネットいじめ被害を重大な被害だと認識している場合は,解決可能性の低さを考慮しまうことにより相談行動が抑制される傾向が示唆された。一方で,直接型ネットいじめ被害を重大な被害だと認識している場合は,解決可能性の高さ・相談による不利益・放置,拡散による問題の悪化のそれぞれを勘案し,相談行動を促進・抑制する両要因との関連が示唆された。
女子においては,間接型ネットいじめ被害を重大な被害だと認識している場合は,放置,拡散による問題の悪化を考慮して相談行動が促進される傾向が示唆された。また,ネットいじめと従来型いじめとが併存している状況を重大だと認識している場合は,相談による不利益を考慮して,相談行動が抑制される傾向が示唆された。
これらの傾向をもとに学校現場における介入を考えるとき,ネットいじめ被害に遭っている生徒の性別がわからない状況では,男女それぞれに対する有効な各介入を全体へ実施することが現実的であると考えられる。そのうえで,今回特徴的な影響が確認された性別については,特に留意して対応にあたる必要がある。
付 記
これは第1著者が平成28年に東京学芸大学大学院に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである。
ネットいじめは,日本では2007年頃に発生して以来概ね増加傾向にある。ネットいじめはその特徴から第三者による発見が困難であり,この点について被害生徒からの教師への相談を促進することが有効だと考えられる。しかし,ネット上でいじめ等の被害に遭った者のうち,他者への相談行動を実行した者の割合が低いことが国内外の研究で示されてきた(Smith,Mahdavi,Carbalho,Fisher,Russell,& Tippett,2008; 深谷・高旗,2008)。そこで本研究では,ネットいじめ被害に遭った中学生の対教師援助要請行動を促進・抑制する要因の収集(予備調査)およびそれらの関連の検討(本調査)を行った。
予備調査:方法
調査時期・協力者 2015年3月に首都圏の中学 1~3年生637名(男子329名,女子308名)に実施した(質問紙法)。
調査内容
(1) フェイスシート:学年,性別,年齢
(2) 相談行動促進要因に関する自由記述欄
(3) 相談行動抑制要因に関する自由記述欄
予備調査:結果
臨床心理学を専攻する大学院生3名による合議を経て,「ネットいじめ被害状況尺度(以下「状況尺度」,26項目)」,「ネットいじめ被害時における対教師相談行動の利益・コスト尺度(以下「CB尺度」,24項目)」の計50項目を採用した。
高木(1997)を参考に,ネットいじめ被害時の援助要請行動に至るモデルを作成した(Figure 1)。得られた2尺度を用い,「被害状況の重大性」と「相談行動の利益・コスト」との関連を検討するために以下の本調査で質問紙調査を実施した。
本調査:方法
調査時期・協力者 2015年12月に首都圏の中学2年生180名(男子100名,女子80名)に実施した(質問紙法)。
調査内容
(1) フェイスシート:学年,性別,年齢
(2) 状況尺度(5件法) (3)CB尺度(5件法)
本調査:結果と考察
2尺度の因子構造
(1) 状況尺度:16項目からなる3因子構造を確認。「間接型ネットいじめと拡散性(6項目,α=.923)」,「従来型いじめとの併存(4項目,α=.894)」,「直接型ネットいじめ(6項目,α=.902)」となった。
(2) CB尺度:20項目からなる4因子構造を確認。「解決可能性の高さ(6項目,α=.863)」,「相談による不利益(6項目,α=.796)」,「解決可能性の低さ(5項目,α=.816)」,「放置,拡散による問題の悪化(3項目,α=.804)」となった。
被害状況の重大性と相談行動の利益・コストとの関連 性差の検討のため,男女別でモデルを構築し,共分散構造分析を実施した(Figure 2)。
「ネットいじめ被害状況に対する重大性」から「相談行動の利益・コスト」との関連について,男子において4本,女子において2本,計6本の有意なパスが確認されたが,男女で共通のパスはなかった。このことから,ネットいじめ被害時の相談行動を促進するには,男女において有効な介入が異なる可能性が示唆された。
男子においては,間接型ネットいじめ被害を重大な被害だと認識している場合は,解決可能性の低さを考慮しまうことにより相談行動が抑制される傾向が示唆された。一方で,直接型ネットいじめ被害を重大な被害だと認識している場合は,解決可能性の高さ・相談による不利益・放置,拡散による問題の悪化のそれぞれを勘案し,相談行動を促進・抑制する両要因との関連が示唆された。
女子においては,間接型ネットいじめ被害を重大な被害だと認識している場合は,放置,拡散による問題の悪化を考慮して相談行動が促進される傾向が示唆された。また,ネットいじめと従来型いじめとが併存している状況を重大だと認識している場合は,相談による不利益を考慮して,相談行動が抑制される傾向が示唆された。
これらの傾向をもとに学校現場における介入を考えるとき,ネットいじめ被害に遭っている生徒の性別がわからない状況では,男女それぞれに対する有効な各介入を全体へ実施することが現実的であると考えられる。そのうえで,今回特徴的な影響が確認された性別については,特に留意して対応にあたる必要がある。
付 記
これは第1著者が平成28年に東京学芸大学大学院に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである。