The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH(65-88)

ポスター発表 PH(65-88)

Mon. Oct 10, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PH83] 通信制高等学校における不登校経験者の生活調査から

大学進学希望者にむけた進路指導上の留意点の考察

宗寿子1, 大橋節子2 (1.クラーク記念国際高等学校, 2.IPU・環太平洋大学)

Keywords:不登校, 生活リズム, 学校適応

問題と目的
 専ら就労学生支援のための通信制高等学校(以下,通信制)は時代とともに変遷をとげた。1990年代に6校だった通信制が,2015年には217校となり,在籍生徒数は18万人にも及ぶ。通信制は不登校経験のある生徒の受け皿として,社会的に認知されるようになったといえる。入学者は,不登校経験を克服し,全日制に通う生徒と同様に大学進学を希望する生徒も増えている。多くの通信制では,大学進学のコースや授業を設けている。今後も通信制において大学進学希望者数は増加する傾向にある。しかし,不登校経験者の進路指導は,学力の向上だけでなく,生徒が抱える本質的な問題を把握し指導しなければ,不登校の再発や大学進学後の不登校や中途退学にもつながることを考えておかなければならない。
 本調査では,希望の進路に向けて学習に取り組み始めた生徒の「生活調査」をもとに,進路指導上留意すべき点についての考察をおこなった。
方   法
調査対象 通信制K高校(以下,K高校)の大学進学コースの長期不登校経験のある高校2年生で,皆勤の10名。平均年齢16.7歳(SD=0.67)
調査期間 2015年4月20日~7月5日(11週間)
調査内容 毎日の〈学習時間〉〈睡眠時間〉〈インターネット等通信(以下,ネット通信)の時間〉の記録表と,「一日の振り返り」コメント
倫理的配慮 事前にK高校大学進学コースの保護者に生活調査内容を説明し同意を得て,生徒に説明を行った上で,同意を得た生徒に実施した。
分析方法 生活調査表から週単位で集計を行い,またコメントから生活習慣の傾向を分析した。
結果と考察
 対象者は,皆勤で学校での取り組みが意欲的である生徒が対象であるにも関わらず,本調査では,通常の授業では分からなかった以下の3つの傾向が見出された。
【傾向1】睡眠時間(入眠・起床)が不安定で,翌日に疲労感を訴えることが多い生徒
 学習時間確保のために睡眠時間を削り,結果的に翌日に疲労感や倦怠感を訴えている。これらの生徒は自身の生活リズムがつかめず「頑張りすぎてしまう」傾向にある。今後進路に向けて本格的に取り組むことで,疲労感・倦怠感が強まり不登校の再発の引き金となることが懸念される。
〈対策〉学習への取り組みに対して思い詰めないよう,息抜きができる指導をおこなう。睡眠時間確保の重要性を説明し,テスト前の勉強期間を事前に十分取り,不安感に追い詰められないよう計画的な学習が促進できる指導を行う。
【傾向2】活動時間のバランスが極端に悪い生徒
 日に10時間以上学習をしたかと思えば,1日のほとんどをネット通信に使うなど活動時間のバランスが極端に悪い場合,一見長時間学習しているように見えていても,学習時間の平均は他の生徒より短く,テスト前なども学習に集中できていないことが多い。このような生徒は極端に学習時間が長いこと=努力していると錯覚してしまう。学習時間が不規則で,効率が悪く成績が伸びず焦る傾向にある。また,進路への目標が実態よりもかけ離れて高いため,焦りと不安が高じて健康を害する可能性も高い。
〈対策〉活動時間を具体的な数字で生徒本人に提示し,学習効率が悪いことを認識させる。また期限を定めて問題集を課題として与えるなど,リズムある学習の取り組み方を一緒に見直す。効率的な学習で成果があがることを体験させる。 
【傾向3】ネット通信時間が日常的に長い生徒
 生活の軸がネット通信であり,その合間に学習を行うような場合は,学習意識が低い傾向にある。学習意識が低くても,進学に対する意識が強い場合は学習が気になり,ネット通信に時間を割くことに日々後悔している。そのため大学進学という目標に無意識のうちにストレスを抱く恐れがある。そのような場合,進路指導を行う事が生徒の不満やストレスにつながっていく傾向にある。
〈対策〉本人の進路希望と学習状況を踏まえ,日々達成可能な学習の日課を丁寧に与えるなど,早期に進路に対する興味や目標を持たせ,充実感を味わわせる必要がある。やればできる,できれば興味を持つなど,ネット通信への依存度を低くしていけるよう,コミュニケーションの対象を機械でなく人に移行できるように指導していく。
 以上のように,不登校経験のある生徒は生活をしっかり見て,表面上だけで判断せず進路指導する必要があるとわかった。生活環境を整え学習に向かわせ目標達成のためにも,睡眠や息抜きの生活習慣を細やかに見ていく進路支援が必要である。