1:00 PM - 3:30 PM
[j-tut] 教師のための教育心理学研究入門
Keywords:研究法, 教育心理学, 教師
企画趣旨
近年,教育心理学会では,小学校や中学校,高等学校の教師などの実務家の会員の数が増加してきている。また,現場に出向くと教育に関する研究を行いたいと考えている教師が多いこともわかる。ただし,研究の仕方がよくわからないという声もよく聞く。例えば,アンケートを取ったがどう分析していいのかわからない,授業など教室での活動について記述したいがどうしたらいいのかわからない,ある教え方の効果について検討したいがわからないというように教師が心理学の研究の仕方がわからないために,研究をすることに躊躇している場合も少なくない。
今回のセミナーでは「教師のための教育心理学研究入門」ということで日頃,教師が研究したいと考えているテーマについて,どのように考え,どのように研究を行うとよいのかを講師の先生方にお話ししていただく。講師としては,30代,40代でそれぞれの分野の研究の最前線で活躍されている先生方にお願いすることとした。SPSSとAmosを用いたデータ解析に関する数多くの著書を執筆されている早稲田大学の小塩真司先生には「アンケート分析のポイント」というテーマで講義いただく。また,数多くの学校現場に出向き,多くの実践研究を行っている福井大学の岸野麻衣先生には「実践のおもしろさを実践の記述を通して検討するために」というテーマで講義いただく。そして,効果的な指導法,学習法について数多くの研究をされている日本大学の篠ヶ谷圭太先生には「『教え方の効果』を研究するには」というテーマで講義いただく。
学会ではあるが,初学者向けのわかりやすく簡単に研究の仕方がわかるようなセミナーとする予定である。初学者向けのチュートリアルであることからも,教師が研究で考えやすい具体例なども交えながら,聴衆と講師が一緒に考えていくようなセミナーとしたい。もちろん教師以外でも教育心理に関する研究を始めてみたいと考えている学生や大学院生,自分の教育実践の活動を研究してみたいと考えている実践者,これまで行ってきた研究とは異なる研究を始めてみたいと考えている研究者など誰でも参加可能である。
「アンケート分析のポイント」
小塩真司
本セミナーでは,教育現場でとられたアンケートを分析する際のポイントを解説する。アンケートによってデータを得た後にどのような分析をするか,という観点も切実な問題であり,実際の現場で必要とされると思われるが,できればアンケートを実施する前からいくつかのポイントを押さえておきたい。そこで本セミナーでは,第1にアンケートを実施する前に気をつけたいこと,第2にアンケート実施後の基本的なデータ処理,そして第3にここだけは押さえておきたい分析のポイント,という3つの内容に沿って説明する。
第1のアンケート実施前のポイントについては,目的を明確化しておくことやその目的を達成するためにどのような内容のアンケートを構成するか,また既存の尺度をどのように探し利用するかなどを説明する。アンケートを実施した後にどうしようかと悩むケースもあるかもしれないが,できれば実施前に見通しを立てておきたい。しかし,一連の分析経験がないとその見通しも立てにくいであろう。そこで,要点を絞ってポイントを解説したい。第2の基本的なデータ処理に関しては,データの入力方法や基礎統計量の算出とその見方を概説する。実際の統計処理方法も重要であるが,その統計処理は何を反映するのか,どのような考え方がその分析に反映するのかを知っておくことで,一連の分析が単なる「処理」に終わることなく,そこから色々な情報を得ることへとつながる。そして第3の分析ポイントについては,関連の検討と因果関係の検討,変数の構造の検討など,よく使用される分析手法について概説する。ここでも,この場合はこの分析と,単にマニュアル化された分析手順を学ぶだけではなく,なぜその分析をするのか,そしてその分析の結果から示唆されることは何なのかについても説明を加えたい。
現場で得られたデータは貴重なものである。メタ分析など,結果の二次的利用にその結果を使用することができれば,さらに価値が生まれてくる。ポイントを押さえたアンケートの実施と分析を行うことは,広く心理学界への貢献につながると考えられる。
「実践のおもしろさを実践の記述を通して検討するために」
岸野麻衣
授業をはじめとする教室の内外で行われる子どもたちの活動について,そこで見えたり感じたりする「おもしろさ」をどうしたら「研究」できるだろうか。実践の記述を通して研究を進めていこうとする場合,特有の難しさがあり,私自身ずっと試行錯誤しながら取り組んできている。どのように進めるといいのか,その手がかりについて,三つの段階に分けて改めて考えてみたい。
第一に,何を記述するかということである。おそらく,まずはとにかく記述してみることから始まる。参観者としてあるいは実践者として,ある場面なりある1時間・数時間なりを記録してみたとき,そこには必ず自分の視点が含まれているはずである。それを見直すと,自分が活動のどんなところが気になり,どんなところに面白さや不可解さを感じたのか,見えてくるはずである。それを精緻していくことで問い(研究課題)が生まれる。
第二に,どんなレベルで記述していくのかということである。それによって方法が決まってくる。たとえば,一斉活動やグループ活動等の中で子ども同士にどんな相互作用が起きているのかを見たいとすると,一つ一つの発話や動きを細やかに記述する必要がある。そのためにはビデオやICレコーダ等の機材で記録して文字に起こせば漏れなく記述できるだろう。あるいは,ある単元の中で子どもたちがどんなプロセスで学んでいったのかを見たいとすると,毎回の活動での学習過程について大まかなやり取りや子どもの書いたものを記録しておく必要がある。研究課題に応じて,どれくらいの細かさで,どれくらいの単位の時間で,どんなものを対象として,記録していくのかが変わってくるといえる。
第三に,どう研究としてまとめていくかということである。集めた記録を見直して何がいえるのか,研究会や学会などの場で語ったり聴いたりしながら概念化し,同時に様々な先行実践や先行研究を見直して,自分に見えてきたことの独自性を明確化していくことが必要となる。
このように実践の記述を通した研究には,実践の「おもしろさ」を実践に即して検討していく魅力がある。当日は具体的な例も交えて話題提供を行いたい。
「『教え方の効果』を研究するには」
篠ヶ谷圭太
本セミナーでは,1)指導方法の工夫,2)実施方法の工夫,3)効果測定の工夫に焦点を当てながら,教育実践に携わる人が,どのようにして自身の教え方の効果を研究の形にまとめていくとよいかを取り上げることとする。
指導にどのような工夫を凝らすかは,教育実践者のオリジナリティをもっとも出しやすい部分であり,多くの場合,研究の“核”となる。実践者は,自身のこれまでの教育経験や学習経験,教育研究や心理学研究の知見などをもとに,どのような指導方法に効果がありそうかを選定していくこととなる。また,教え方の効果を検証するためには,指導を実際に行う上でも工夫が必要となる。たとえば複数のクラスを対象として自身の教え方を変え,クラス間で比較を行う方法もあれば,1つのクラスに対象を絞り,途中で教え方を変えて学習者の変化の過程を追う方法もある。こうしたアプローチの違いによって,実施上の注意点も変わってくるため,実践者はそれぞれの方法が持つメリット,デメリットを押さえておく必要がある。
また,自身の指導法を研究としてまとめるには,教え方の「効果」を測定する際の工夫および注意点も押さえておくことが重要である。どのような指導法がよいかは,学習者のどのような部分に焦点を当てるかによって異なる。学習者の知識や概念に着目した研究もあれば,動機づけに着目した研究もある。また,学習者の学習行動の質的な変化を重視する研究もある。また,効果測定の対象が決まったとしても,その測り方にも実に様々な方法がある。したがって,教え方の効果について研究を行う実践者は,研究の中で主に取り上げる測定対象および,測定方法にはどのようなものがあるのかを押さえておく必要がある。
なお,上述の内容からすると,指導法の効果に関する研究は,まず指導上の工夫を決め,実際に実施し,効果を検証していくといったプロセスで進めるものと思われるかもしれない。しかし,実際に行われている研究は,決してこうした一方向のものだけではない。そのため,本セミナーでは,指導法の効果に関する研究のタイプや進め方の多様性についても取り上げることとする。
近年,教育心理学会では,小学校や中学校,高等学校の教師などの実務家の会員の数が増加してきている。また,現場に出向くと教育に関する研究を行いたいと考えている教師が多いこともわかる。ただし,研究の仕方がよくわからないという声もよく聞く。例えば,アンケートを取ったがどう分析していいのかわからない,授業など教室での活動について記述したいがどうしたらいいのかわからない,ある教え方の効果について検討したいがわからないというように教師が心理学の研究の仕方がわからないために,研究をすることに躊躇している場合も少なくない。
今回のセミナーでは「教師のための教育心理学研究入門」ということで日頃,教師が研究したいと考えているテーマについて,どのように考え,どのように研究を行うとよいのかを講師の先生方にお話ししていただく。講師としては,30代,40代でそれぞれの分野の研究の最前線で活躍されている先生方にお願いすることとした。SPSSとAmosを用いたデータ解析に関する数多くの著書を執筆されている早稲田大学の小塩真司先生には「アンケート分析のポイント」というテーマで講義いただく。また,数多くの学校現場に出向き,多くの実践研究を行っている福井大学の岸野麻衣先生には「実践のおもしろさを実践の記述を通して検討するために」というテーマで講義いただく。そして,効果的な指導法,学習法について数多くの研究をされている日本大学の篠ヶ谷圭太先生には「『教え方の効果』を研究するには」というテーマで講義いただく。
学会ではあるが,初学者向けのわかりやすく簡単に研究の仕方がわかるようなセミナーとする予定である。初学者向けのチュートリアルであることからも,教師が研究で考えやすい具体例なども交えながら,聴衆と講師が一緒に考えていくようなセミナーとしたい。もちろん教師以外でも教育心理に関する研究を始めてみたいと考えている学生や大学院生,自分の教育実践の活動を研究してみたいと考えている実践者,これまで行ってきた研究とは異なる研究を始めてみたいと考えている研究者など誰でも参加可能である。
「アンケート分析のポイント」
小塩真司
本セミナーでは,教育現場でとられたアンケートを分析する際のポイントを解説する。アンケートによってデータを得た後にどのような分析をするか,という観点も切実な問題であり,実際の現場で必要とされると思われるが,できればアンケートを実施する前からいくつかのポイントを押さえておきたい。そこで本セミナーでは,第1にアンケートを実施する前に気をつけたいこと,第2にアンケート実施後の基本的なデータ処理,そして第3にここだけは押さえておきたい分析のポイント,という3つの内容に沿って説明する。
第1のアンケート実施前のポイントについては,目的を明確化しておくことやその目的を達成するためにどのような内容のアンケートを構成するか,また既存の尺度をどのように探し利用するかなどを説明する。アンケートを実施した後にどうしようかと悩むケースもあるかもしれないが,できれば実施前に見通しを立てておきたい。しかし,一連の分析経験がないとその見通しも立てにくいであろう。そこで,要点を絞ってポイントを解説したい。第2の基本的なデータ処理に関しては,データの入力方法や基礎統計量の算出とその見方を概説する。実際の統計処理方法も重要であるが,その統計処理は何を反映するのか,どのような考え方がその分析に反映するのかを知っておくことで,一連の分析が単なる「処理」に終わることなく,そこから色々な情報を得ることへとつながる。そして第3の分析ポイントについては,関連の検討と因果関係の検討,変数の構造の検討など,よく使用される分析手法について概説する。ここでも,この場合はこの分析と,単にマニュアル化された分析手順を学ぶだけではなく,なぜその分析をするのか,そしてその分析の結果から示唆されることは何なのかについても説明を加えたい。
現場で得られたデータは貴重なものである。メタ分析など,結果の二次的利用にその結果を使用することができれば,さらに価値が生まれてくる。ポイントを押さえたアンケートの実施と分析を行うことは,広く心理学界への貢献につながると考えられる。
「実践のおもしろさを実践の記述を通して検討するために」
岸野麻衣
授業をはじめとする教室の内外で行われる子どもたちの活動について,そこで見えたり感じたりする「おもしろさ」をどうしたら「研究」できるだろうか。実践の記述を通して研究を進めていこうとする場合,特有の難しさがあり,私自身ずっと試行錯誤しながら取り組んできている。どのように進めるといいのか,その手がかりについて,三つの段階に分けて改めて考えてみたい。
第一に,何を記述するかということである。おそらく,まずはとにかく記述してみることから始まる。参観者としてあるいは実践者として,ある場面なりある1時間・数時間なりを記録してみたとき,そこには必ず自分の視点が含まれているはずである。それを見直すと,自分が活動のどんなところが気になり,どんなところに面白さや不可解さを感じたのか,見えてくるはずである。それを精緻していくことで問い(研究課題)が生まれる。
第二に,どんなレベルで記述していくのかということである。それによって方法が決まってくる。たとえば,一斉活動やグループ活動等の中で子ども同士にどんな相互作用が起きているのかを見たいとすると,一つ一つの発話や動きを細やかに記述する必要がある。そのためにはビデオやICレコーダ等の機材で記録して文字に起こせば漏れなく記述できるだろう。あるいは,ある単元の中で子どもたちがどんなプロセスで学んでいったのかを見たいとすると,毎回の活動での学習過程について大まかなやり取りや子どもの書いたものを記録しておく必要がある。研究課題に応じて,どれくらいの細かさで,どれくらいの単位の時間で,どんなものを対象として,記録していくのかが変わってくるといえる。
第三に,どう研究としてまとめていくかということである。集めた記録を見直して何がいえるのか,研究会や学会などの場で語ったり聴いたりしながら概念化し,同時に様々な先行実践や先行研究を見直して,自分に見えてきたことの独自性を明確化していくことが必要となる。
このように実践の記述を通した研究には,実践の「おもしろさ」を実践に即して検討していく魅力がある。当日は具体的な例も交えて話題提供を行いたい。
「『教え方の効果』を研究するには」
篠ヶ谷圭太
本セミナーでは,1)指導方法の工夫,2)実施方法の工夫,3)効果測定の工夫に焦点を当てながら,教育実践に携わる人が,どのようにして自身の教え方の効果を研究の形にまとめていくとよいかを取り上げることとする。
指導にどのような工夫を凝らすかは,教育実践者のオリジナリティをもっとも出しやすい部分であり,多くの場合,研究の“核”となる。実践者は,自身のこれまでの教育経験や学習経験,教育研究や心理学研究の知見などをもとに,どのような指導方法に効果がありそうかを選定していくこととなる。また,教え方の効果を検証するためには,指導を実際に行う上でも工夫が必要となる。たとえば複数のクラスを対象として自身の教え方を変え,クラス間で比較を行う方法もあれば,1つのクラスに対象を絞り,途中で教え方を変えて学習者の変化の過程を追う方法もある。こうしたアプローチの違いによって,実施上の注意点も変わってくるため,実践者はそれぞれの方法が持つメリット,デメリットを押さえておく必要がある。
また,自身の指導法を研究としてまとめるには,教え方の「効果」を測定する際の工夫および注意点も押さえておくことが重要である。どのような指導法がよいかは,学習者のどのような部分に焦点を当てるかによって異なる。学習者の知識や概念に着目した研究もあれば,動機づけに着目した研究もある。また,学習者の学習行動の質的な変化を重視する研究もある。また,効果測定の対象が決まったとしても,その測り方にも実に様々な方法がある。したがって,教え方の効果について研究を行う実践者は,研究の中で主に取り上げる測定対象および,測定方法にはどのようなものがあるのかを押さえておく必要がある。
なお,上述の内容からすると,指導法の効果に関する研究は,まず指導上の工夫を決め,実際に実施し,効果を検証していくといったプロセスで進めるものと思われるかもしれない。しかし,実際に行われている研究は,決してこうした一方向のものだけではない。そのため,本セミナーでは,指導法の効果に関する研究のタイプや進め方の多様性についても取り上げることとする。