15:30 〜 17:30
[JC02] 探究的なPBLの学習過程デザイン原則
OECD日本イノベーション教育ネットワーク事例からの検討
キーワード:プロジェクト学習, デザイン原則
企画趣旨
村瀬公胤・秋田喜代美
中等教育における国際協働プロジェクト学習(PBL)の実践研究を行ってきたOECD日本イノベーション教育ネットワーク(Japan Innovative Schools Network supported by OECD:以下ISN)は,深い理解をもたらす探究的な学習過程について,東北,広島,福井,和歌山,隠岐,高等専門学校の6クラスターを中心に,実践事例を蓄積してきた。クラスター相互の教員の協働や交流,海外連携校との国際協働を通して,これからの学習の形態であるPBLについて,生徒が主体的に行う過程とその支援のあり方を探っている。
まずPBL実践の初期段階において共通する課題として,生徒が課題を発見(=同定探究)していく過程の問題が見出され,これについては本学会の第58回総会にて自主シンポジウムを実行し,議論した。その結果,「教師が,生徒が現状可能な活動レベルを想定し,プロジェクトを通して成長し達成して欲しい具体的な解決活動の中身との距離についてシミュレートしておくこと」や「生徒の『省察レポート』からそのプロセスがたどれること」,「課題を発見することが,自らの人生体験およびその振り返りと密接に関係すること」などが見出された。
その後,各クラスターでは実践が発展し,関わっている教員を始めとする大人たちの学びも深まってきた。探究的なPBLを成立させる原則,条件といったものを「PBLのデザイン原則」としてクラスターごとにまとめ,それを発信するために,現在「PBLガイドライン」を作成中である。本シンポジウムでは,この「PBLのデザイン原則」およびその背景にある実践を共有・検討し,これからPBLに取り組もうとする学校の現場への示唆を得るとともに,学習科学としてのこの問題の射程について議論したい。
広島クラスターのデザイン原則
益川弘如
広島県教育委員会が事務局となり県内13高校が参加し2015年7月末にスタートした広島創生イノベーションスクールは,2018年8月の広島グローカルスクールのイベントで一つの区切りが付けられる。この取組では,大きく4つのエリアに分かれ,事務局のデザイン設計のもと,教育課程時間外のPBL活動として実施された。3年間の取り組みから,生徒の「学び方」は下記の2点を満たすようにPBLをデザインしていくことが重要な観点であるとまとめた。
・知識を創発的に生み出すために,現実世界での実体験や他者との対話等を重視する
・現実世界での実体験や他者との対話,書籍等を通じた対象世界との対話,ロールモデルとの出会いや協働を通して,教室の内外を問わず,あらゆるところで生徒自らが意味を構築し再構築を繰り返すとともに,自らの学びを語ることができる
この「学び方」を実現していくために,運営サイドに求められるPBL実施のデザイン原則を,時系列にまとめた案が以下である。今後,実践の成果を踏まえ,原則の精緻化を目指していきたい。
≪広島クラスターPBLデザイン原則≫
<目的・方向性>
・プロジェクトとして取り組まないと解決できない社会課題を明確に設定して提示すること
<課題設定>
・チームのメンバーを尊重しつつ,生徒の誰もが取り組みたい課題にするために,課題設定に資する情報とプロセスをデザインしファシリテートすること
<解決策の創造>
・ファシリテータ同士が生徒の設定した課題を明確にし,生徒の活動を想定した上で,生徒の解決策の創造を支援するために情報とプロセスをデザインしファシリテートすること
・ICT等を活用し,時間的・空間的な制約を超え,参加者ひとりひとりが活動にプロセスにとどまらず,得た情報や考えた内容を共有することで解決策を創発させること
<実行>
・解決したい対象の現状を的確に把握し,設定した目標に対象を変容させるために,これまでのプロセスで得た情報,スキル,ネットワークをフル活用させること
<次なる課題設定>
・これまでのプロセスをチームの仲間や他のチームと比較・分析して,できたこと・できなかったことを明確にさせ,次なる課題の創造支援をする
東北クラスターのデザイン原則
坂本篤史
東北クラスターは,被災地復興教育の実践であるOECD東北スクールでの成果と課題を引き継ぎ,2015年8月のキックオフから始まった。現在,ふたば未来学園高校チーム,福島市チーム,気仙沼チームの3地域での実践と相互交流によるPBLを展開中である。途中経過のため暫定版であるが,PBLのデザイン原則として以下の4点が見えてきている。
1.生徒による問題の自分事化と呼応した地域での具体的実践
生徒たちの作成した2030年問題を踏まえた地方創生プランに対する実社会からのフィードバックや,プランに基づく地域での各実践を通して具体的に地域社会と対話する活動を通して実績を蓄積することが,生徒自身による問題化と解決への傾倒を生じさせたと考えられる。それにより,チーム間の会議や合宿での活動を,生徒自らが主導して進めるようになった。
2.生徒同士(海外含む),教員同士も含めた多様な他者との異質性の交流
生徒同士は,多様なレベルでの異質な他者との交流があった。第一に,東北クラスター内での異地域間交流である。東日本大震災の被災地とはいえ,場所によって生徒たちの経験は大きく異なる。第二に,異学年・異校種の交流である。中学生と高校生の交流は,モデリングや言語化による活動の意味づけの精緻化,相互の活動に刺激を受けた動機づけの高まりなど様々な効果を与えていると考えられる。第三に,海外の生徒との交流である。異文化,異言語の生徒たちと共通の課題意識を持って対話する活動により,PBLを進める生徒達の視野の拡大や動機付けの高まりが見られた。
さらに,教員同士も中学校,高校という校種の違いや教科の違いを超えて連携してPBLを進める中で,生徒の学びを捉えるための多面的な見方を形成していったと考えられる。
3.大学生という中間的存在の関わり
地域での実践や合宿のみならず,様々な連絡調整や会議等においても,大学生が中高生を支援している。大学生は教員と生徒の中間的な存在であり,生徒の個人的悩みや人間関係のトラブルなどの情報が入ってきやすい。このような存在をPBLを推進する組織内で位置づけることで,無用なトラブルを未然に防ぐことが可能になる。
4.KPI評価による生徒自身や生徒同士の能力の自覚化
合宿ごとに定期的に測定するKPI評価のルーブリックを生徒からのフィードバックを受けながら作成した。これにより,生徒の成長を可視化すると共に,生徒にどのような力を伸ばすといいのか,自分自身の課題は何なのかといった自覚化を促した。評価は,生徒同士のピアレビュー,教員によるチェックという段階を踏むことで,生徒のコンピテンシーの伸張を,精緻化して測定してきた。
高専クラスターのデザイン原則
時任隼平・大崎理乃
◯具体的実践
明石高専では,2016年度から,新規科目として,「Co+work」(コ・プラスワーク)を開始した。本科目は,高専2年~4年(17,18,19歳)の全学科学生(機械,電気情報,都市システム,建築)約500人と全教員63人が行う授業である。学年学科がうまく混ざるよう無作為に編成された学生約8名と教員1名のチームが,「自立,協働,創造」の力を養うことを目的として,「誰かを幸せにする」プロジェクトを自分たちで考え,1年をかけて実施する。
◯実践を通してみえてきたデザイン原則
1.PBLの目的を教員と学生が共有する
活動の目的が,「自立・協働・創造の習慣をつけることである」と教員と学生と全員で共有することで,活動全体の方向付けがなされる。
2.学習活動の初期段階では,グループ内の関係性構築に力を入れる。
3.自分たち以外の他者からの評価を取り入れる 2016年度は評価者が自分でも良かったため,「自分を幸せにする」という活動が許容され,探求が求められない班もあった。
4.学生1人ひとりに役割が設けられている 自分の役割がないために,活動に参画できないと感じている学生が確認された。
5.具体的な評価観点と評価基準をつくる 評価観点と評価基準が具体的であることが,活動の指針となる。
6.教師が「指導の不安」と仲良くなる
学習者主体の活動であるために,「介入をどこまでしてもいいのか」といった不安が教師にあった。指導の不安共有のために,教師のグループをつくるなどの教師のサポートも重要である。
7.授業実施のガイドブックをつくり,更新する
学生と教師が使用する「授業のてびき」を作成し,反省を踏まえて内容と利用方法を更新する。
8.学生の振り返りの時間を確保する
毎授業,毎学期ごとに振返りの時間を十分に確保し,メタ的に自分の学習活動を捉える事ができるようにする。
村瀬公胤・秋田喜代美
中等教育における国際協働プロジェクト学習(PBL)の実践研究を行ってきたOECD日本イノベーション教育ネットワーク(Japan Innovative Schools Network supported by OECD:以下ISN)は,深い理解をもたらす探究的な学習過程について,東北,広島,福井,和歌山,隠岐,高等専門学校の6クラスターを中心に,実践事例を蓄積してきた。クラスター相互の教員の協働や交流,海外連携校との国際協働を通して,これからの学習の形態であるPBLについて,生徒が主体的に行う過程とその支援のあり方を探っている。
まずPBL実践の初期段階において共通する課題として,生徒が課題を発見(=同定探究)していく過程の問題が見出され,これについては本学会の第58回総会にて自主シンポジウムを実行し,議論した。その結果,「教師が,生徒が現状可能な活動レベルを想定し,プロジェクトを通して成長し達成して欲しい具体的な解決活動の中身との距離についてシミュレートしておくこと」や「生徒の『省察レポート』からそのプロセスがたどれること」,「課題を発見することが,自らの人生体験およびその振り返りと密接に関係すること」などが見出された。
その後,各クラスターでは実践が発展し,関わっている教員を始めとする大人たちの学びも深まってきた。探究的なPBLを成立させる原則,条件といったものを「PBLのデザイン原則」としてクラスターごとにまとめ,それを発信するために,現在「PBLガイドライン」を作成中である。本シンポジウムでは,この「PBLのデザイン原則」およびその背景にある実践を共有・検討し,これからPBLに取り組もうとする学校の現場への示唆を得るとともに,学習科学としてのこの問題の射程について議論したい。
広島クラスターのデザイン原則
益川弘如
広島県教育委員会が事務局となり県内13高校が参加し2015年7月末にスタートした広島創生イノベーションスクールは,2018年8月の広島グローカルスクールのイベントで一つの区切りが付けられる。この取組では,大きく4つのエリアに分かれ,事務局のデザイン設計のもと,教育課程時間外のPBL活動として実施された。3年間の取り組みから,生徒の「学び方」は下記の2点を満たすようにPBLをデザインしていくことが重要な観点であるとまとめた。
・知識を創発的に生み出すために,現実世界での実体験や他者との対話等を重視する
・現実世界での実体験や他者との対話,書籍等を通じた対象世界との対話,ロールモデルとの出会いや協働を通して,教室の内外を問わず,あらゆるところで生徒自らが意味を構築し再構築を繰り返すとともに,自らの学びを語ることができる
この「学び方」を実現していくために,運営サイドに求められるPBL実施のデザイン原則を,時系列にまとめた案が以下である。今後,実践の成果を踏まえ,原則の精緻化を目指していきたい。
≪広島クラスターPBLデザイン原則≫
<目的・方向性>
・プロジェクトとして取り組まないと解決できない社会課題を明確に設定して提示すること
<課題設定>
・チームのメンバーを尊重しつつ,生徒の誰もが取り組みたい課題にするために,課題設定に資する情報とプロセスをデザインしファシリテートすること
<解決策の創造>
・ファシリテータ同士が生徒の設定した課題を明確にし,生徒の活動を想定した上で,生徒の解決策の創造を支援するために情報とプロセスをデザインしファシリテートすること
・ICT等を活用し,時間的・空間的な制約を超え,参加者ひとりひとりが活動にプロセスにとどまらず,得た情報や考えた内容を共有することで解決策を創発させること
<実行>
・解決したい対象の現状を的確に把握し,設定した目標に対象を変容させるために,これまでのプロセスで得た情報,スキル,ネットワークをフル活用させること
<次なる課題設定>
・これまでのプロセスをチームの仲間や他のチームと比較・分析して,できたこと・できなかったことを明確にさせ,次なる課題の創造支援をする
東北クラスターのデザイン原則
坂本篤史
東北クラスターは,被災地復興教育の実践であるOECD東北スクールでの成果と課題を引き継ぎ,2015年8月のキックオフから始まった。現在,ふたば未来学園高校チーム,福島市チーム,気仙沼チームの3地域での実践と相互交流によるPBLを展開中である。途中経過のため暫定版であるが,PBLのデザイン原則として以下の4点が見えてきている。
1.生徒による問題の自分事化と呼応した地域での具体的実践
生徒たちの作成した2030年問題を踏まえた地方創生プランに対する実社会からのフィードバックや,プランに基づく地域での各実践を通して具体的に地域社会と対話する活動を通して実績を蓄積することが,生徒自身による問題化と解決への傾倒を生じさせたと考えられる。それにより,チーム間の会議や合宿での活動を,生徒自らが主導して進めるようになった。
2.生徒同士(海外含む),教員同士も含めた多様な他者との異質性の交流
生徒同士は,多様なレベルでの異質な他者との交流があった。第一に,東北クラスター内での異地域間交流である。東日本大震災の被災地とはいえ,場所によって生徒たちの経験は大きく異なる。第二に,異学年・異校種の交流である。中学生と高校生の交流は,モデリングや言語化による活動の意味づけの精緻化,相互の活動に刺激を受けた動機づけの高まりなど様々な効果を与えていると考えられる。第三に,海外の生徒との交流である。異文化,異言語の生徒たちと共通の課題意識を持って対話する活動により,PBLを進める生徒達の視野の拡大や動機付けの高まりが見られた。
さらに,教員同士も中学校,高校という校種の違いや教科の違いを超えて連携してPBLを進める中で,生徒の学びを捉えるための多面的な見方を形成していったと考えられる。
3.大学生という中間的存在の関わり
地域での実践や合宿のみならず,様々な連絡調整や会議等においても,大学生が中高生を支援している。大学生は教員と生徒の中間的な存在であり,生徒の個人的悩みや人間関係のトラブルなどの情報が入ってきやすい。このような存在をPBLを推進する組織内で位置づけることで,無用なトラブルを未然に防ぐことが可能になる。
4.KPI評価による生徒自身や生徒同士の能力の自覚化
合宿ごとに定期的に測定するKPI評価のルーブリックを生徒からのフィードバックを受けながら作成した。これにより,生徒の成長を可視化すると共に,生徒にどのような力を伸ばすといいのか,自分自身の課題は何なのかといった自覚化を促した。評価は,生徒同士のピアレビュー,教員によるチェックという段階を踏むことで,生徒のコンピテンシーの伸張を,精緻化して測定してきた。
高専クラスターのデザイン原則
時任隼平・大崎理乃
◯具体的実践
明石高専では,2016年度から,新規科目として,「Co+work」(コ・プラスワーク)を開始した。本科目は,高専2年~4年(17,18,19歳)の全学科学生(機械,電気情報,都市システム,建築)約500人と全教員63人が行う授業である。学年学科がうまく混ざるよう無作為に編成された学生約8名と教員1名のチームが,「自立,協働,創造」の力を養うことを目的として,「誰かを幸せにする」プロジェクトを自分たちで考え,1年をかけて実施する。
◯実践を通してみえてきたデザイン原則
1.PBLの目的を教員と学生が共有する
活動の目的が,「自立・協働・創造の習慣をつけることである」と教員と学生と全員で共有することで,活動全体の方向付けがなされる。
2.学習活動の初期段階では,グループ内の関係性構築に力を入れる。
3.自分たち以外の他者からの評価を取り入れる 2016年度は評価者が自分でも良かったため,「自分を幸せにする」という活動が許容され,探求が求められない班もあった。
4.学生1人ひとりに役割が設けられている 自分の役割がないために,活動に参画できないと感じている学生が確認された。
5.具体的な評価観点と評価基準をつくる 評価観点と評価基準が具体的であることが,活動の指針となる。
6.教師が「指導の不安」と仲良くなる
学習者主体の活動であるために,「介入をどこまでしてもいいのか」といった不安が教師にあった。指導の不安共有のために,教師のグループをつくるなどの教師のサポートも重要である。
7.授業実施のガイドブックをつくり,更新する
学生と教師が使用する「授業のてびき」を作成し,反省を踏まえて内容と利用方法を更新する。
8.学生の振り返りの時間を確保する
毎授業,毎学期ごとに振返りの時間を十分に確保し,メタ的に自分の学習活動を捉える事ができるようにする。