日本教育心理学会第59回総会

講演情報

自主企画シンポジウム 1

学習支援としての説明は本当に有効なのか(2)

子どもの教え合いにおける説明の有効性

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 会議室221 (2号館2階)

企画・司会:山本博樹(立命館大学)
企画・話題提供:伊藤貴昭(明治大学)
企画吉田甫(立命館大学)
話題提供:深谷達史(群馬大学大学院)
話題提供:岸野麻衣(福井大学大学院)
話題提供:町岳(大田区立東調布第一小学校)
指定討論:市川伸一(東京大学)

10:00 〜 12:00

[JD01] 学習支援としての説明は本当に有効なのか(2)

子どもの教え合いにおける説明の有効性

山本博樹1, 伊藤貴昭2, 吉田甫3, 深谷達史4, 岸野麻衣5, 町岳6, 市川伸一7 (1.立命館大学, 2.明治大学, 3.立命館大学, 4.群馬大学大学院, 5.福井大学大学院, 6.大田区立東調布第一小学校, 7.東京大学)

キーワード:学習支援, 説明, 教え合い

企画主旨
 現代社会では誰もが説明者であることを求められるが (比留間・山本, 2007),児童生徒も同じである。いやむしろ,授業の中での教え合い (peer-tutoring) は強く児童生徒の相互説明を求めており,説明者の振る舞いが求められる。この傾向は,「主体的・対話的な深い学び」を推進する次期学習指導要領の元でより高まると考えられる。
 2016年度の教心シンポでは,受給者の理解不振を同定し,改善する支援行為として説明を捉えた。これは教え合いでも同様に期待されることになる。ところが実際は,説明者が「分かった?」と投げかけるだけだったり,受給者の「ウン,分かった!」という即答を鵜呑みにしたりする姿勢が散見され,その中に支援者の片鱗すら見えない。果たしてその説明は本当に「深い学び」に有効なのか。
もとより,有効だと信じて提供した説明が受給者には無効な場合がある。支援行為としての有効性問題を譲り受けるからだが,児童生徒で免責されることはないだろう。応答のパタ-ナリズムや単なる言葉の外化では,相手の理解不振を改善する説明にはならないはずである。「深い学び」が問われるいま,「説明の質」がポイントとなる。
 今回は,児童生徒の教え合いに焦点を当て,学習支援としての説明が「深い学び」に真に有効となるためには,どのようなメカニズムが介在し,有効な説明がいかに実現できるか (できないか) を検討する。説明研究の成果も踏まえ,具体例を取り上げて,児童生徒が果たすべき説明のあり方について議論を積み上げていきたい。

聞き手の既有知識の違いが説明の質に与える影響
伊藤貴昭 (明治大学)
 学習支援としての説明が有効になるためのメカニズムを議論するにあたり,本発表では,説明者による聞き手の知識や理解状況の把握が,説明の質に与える影響について検討した結果を紹介する。
 筆者はこれまで対面状況における説明がいかに「説明者にとって」有効になるのかについて検討してきたが,そのなかで説明者がいかに聞き手の理解不振を捉えるかが,生成される説明の質に大きな影響を与えていることが明らかになった。したがって「教えあい」においても,説明者が聞き手の理解状況をどのように捉えるかがやはり重要になってくると考えられる。
 しかし,「教えあい」が学校現場で導入される際の特徴の一つに,相手も学習内容についてある程度は理解しているという点がある。つまり,児童生徒の学習は互いに一応の形ではあれ完了しており,理解度の緩やかな違いの中で説明行為が求められるということである。ときには「学習した内容について隣の人に説明してみてください」という形で説明が求められることもある。
 では,互いに学習が(一応は)完了しているような状況における説明と,いわゆる通常の説明(知識を持つものから持たないものへということが前提となっている説明)とで,生成される説明の質に違いが見られるのであろうか。この問題に迫るため,聞き手の学習状況を操作することによる説明の質の違いについて検討した結果を発表する。これにより,有効な説明が生成されるためのメカニズムの一端に迫ることができるのではないかと考えている。

高等学校における教えあい講座の実践
深谷達史(群馬大学)
 生徒同士の説明活動を行う際,やりとりの質をいかに高めるかは重要な課題である。認知心理学の知見を踏まえると,質の高い教えあいとは(1)断片的な知識・手続きをやりとりするのではなく,知識の関連づけを伴うやりとりがなされている,(2)教え手が一方的に説明するのではなく,聴き手からも質問や説明が積極的になされている,といった特徴を有するといえる。ところが,実際の学習者の教えあいを見ると,質の低いやりとりがなされることが少なくない。
 筆者らの研究グループは,その原因を捉えるため,「教授―学習スキーマ」という概念的枠組みを考案した(深谷他, 2016, 教育心理学研究)。教授―学習スキーマは,学習者が持つ,学ぶこと・教えることに関する暗黙の知識であり,「何を」「どう」教えるかというスロットが含まれる。生徒のやりとりからは,「断片的な知識/手続きを」,「教え手の生徒から一方的に」教える,というスキーマを生徒が保持している可能性が示唆される。
 そこで,筆者らは,公立高等学校の1年生を対象に,そうしたスキーマの不適切さを自覚し,より質の高い教えあいを促す「教えあい講座」を実施した。講座では,「理解」とはどのような状態かを解説し,理解を達成するやりとりを確認する活動を実施した上で,ふり返りを挟んで実際の教えあいを2回行った。効果検証として,教えあいの質と内容理解に加え,教えあい以外の場面での学習の仕方が変化したかも調べた。当日は,講座の内容とその効果を紹介する。

学級における他者との相互作用に関する暗黙の態度と説明の質との関連
岸野麻衣(福井大学)
 日常の授業において,子ども同士が教え合う場面を考えると,単に「正解」を分かっている子が分からない子にやり方を教えるといった状況よりも,多様な考え方がある中で,それぞれが表現しようとしていることに向けて,互いの持っている知識や技能を出し合って共に探っていく状況が重要であると考える。
 例えば,算数の授業において,一人の子が解法を説明したが誤っていたとき,別の子が解法を説明していくうちに,本人も誤りに気づき,そこで教師が「○○くんの最初の頭は?」と彼の思考プロセスを皆で言語化していった場面を参観したことがある。このように,他者の表現に対して相手の頭になって考えた上で自身の考えを表明するようになることが「説明の質」に大きく関わるのではないかといえる。一方で,互いの考えを尊重し,分かっている子があえて説明しすぎずに学習を支え合った場面を参観したこともある。一見すると説明の質は低くも見えるが,相手を考えた上のことであり,意味のあることと感じられた。
 このような説明のありようを規定するのは,学級での学習の在り方や他者へのかかわりに関する暗黙の態度や学級の風土であると考える。当日は,学校において授業参観とその後のやり取りを通して教師の授業研究を支援してきた中で見られた場面をいくつか取り上げ,学級における他者との相互作用に関する暗黙の態度が説明のありようにどのようにかかわるのか,話題提供したい。

授業実践型相互教授における達成目標促進が子供の説明の質に及ぼす影響
町  岳(東調布第一小学校)
 新学習指導要領で提示された,授業改善の視点「主体的,対話的で深い学び」を受け,学校現場では,グループ学習などの学び合い活動が多く見られるようになったが,質の高い学び合いを成立させることは容易ではない。子供同士の学び合いの場面で有効な手法として,授業実践型相互教授(Reciprocal Teaching in Classroom; 以下RTC) がある。RTCは,グループのメンバー一人一人が,説明役・質問役を担当し,一定時間ごとに役割を交代し,説明・質問し合うことで,一人一人の説明 (理解) の精緻化を意図した教授方略で,その効果が確認されている (町・中谷, 2014)。しかし,実際の教室の学び合い場面では,学力以外の子供の個人的要因も学び合いの質に関連する可能性が指摘されている (町・中谷, 2014)。
 町・橘・中谷 (2016) は,算数グループ学習に2つの達成目標を促進する教示を加えた,RTCの介入効果を検討した。その結果,「次に間違えないためのアドバイスを考える」ことの意義を強調した熟達目標群では,グループ内の「理由説明」に関する発話の割合が多く,「早く正確に答を求める」ことの意義を強調した遂行目標群では,「正誤判定」に関する発話の割合が多いことや,その発話の質の違いが,学業達成度の質にも影響を与えた可能性が示された。本シンポジウムでは,この結果を中心に,実際の教室の学び合い場面において,説明の質に影響を与える要因について話題提供したい。