10:00 〜 12:00
[JG01] 高等学校における不登校への支援と“社会で生きていく力”
義務教育後の不登校支援のあり方
キーワード:不登校, 高等学校, 社会で生きていく力
文部科学省の「不登校に関する実態調査-平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書(平成26年刊)」によると,平成5年度の調査に比べて,不登校への支援は広がっており,中学卒業後の進路状況も改善された。この背景には,15歳人口の激減や新しいタイプの高校の出現により,不登校経験者を多く受け入れる高校が増えたこと等が関与しており,高校現場での支援が以前より整ってきているという現状がある。
しかし,全国平均に比べると不登校経験者の就学状況は楽観視できない。先の追跡調査からも,中学卒業5年後,調査対象者の6割以上が中学卒業後も人間関係や生活面での不安を抱え続けていることがわかる。
高校への敷居が低くなった現在,不登校支援においては,高校進学(“高校につなげる”)がゴールではなく,“高校を辞めない”“高卒後も社会で生きていく力をつける”という一歩先の支援が必要になっている。
こうした現状を踏まえ,高等学校段階における不登校について,相馬先生・金子先生より話題提供していただく。また西山先生には,海外における高等学校段階の不登校の現状と対策をご紹介いただき,小林先生には,管理職に求められる不登校支援のあり方について話題提供していただく予定である。そして,指定討論の新井先生よりコメントを頂戴したい。
高等学校の不登校問題の現状と課題
相馬誠一(東京家政大学)
文部科学省(2016) によると, 平成27年度の高校生不登校生徒は49,591人であった。同時期の長期欠席者数は,経済的理由が1,661人,病気が14,280人,その他が13,675人で,全体では79,207人であった。
高校段階における長期欠席者は8万人前後,不登校生徒は5万人前後で推移している。とりわけ,最近の傾向として病気による長期欠席者が11.4%増,その他の長期欠席者が8.6%増と増加している。地域別の1,000人当たりの出現率では,大阪府が27.9,沖縄県が27.8で全国平均は15.9である。不登校の要因として,学校に係る要因が10.6%,家庭に係る要因が17.0%,遊び・非行の傾向がある12.5%,無気力の傾向がある36.1%,不安の傾向がある21.6%で,その他が15.5%であり,無気力傾向,不安傾向が高いことがわかる。中途退学者は1.4%で,平成20年の2.0%と比較しても,年々減少傾向にある。中途退学者の事由として,学業不振が7.7%,学校生活・学業不適応が34.1%,進路変更34.5%,病気・ケガ・死亡4.2%,経済的理由4.5%,問題行動等4.1%,その他の理由が8.2%であった。学校生活や学業不適応が事由として多く,結果的に進路変更をせざるを得ないケースが少なくないといえる。課程別の中途退学者の状況は,全日制0.9%,定時制10.0%,通信制5.4%と,定時制に中途退学者が多い。また,経済的理由による中退者の割合は,国立0.0%,公立0.7%,私立6.3%と私立高校が高い傾向にある。
以上のように,高校生の不登校問題や中途退学の現状分析した上で,さらに不登校を経験した当事者の考え等を紹介したい。
通信制高校における不登校経験者の変化と支援
金子恵美子(埼玉純真短期大学)
不登校経験者が困難を感じることの1つに高校進学の際の情報の少なさや選択肢の少なさなどがあげられるが,近年では,定時制,単位制,通信制高校が選択肢として考えられることが多くなっている。
生徒の約6割が不登校経験者である通信制A高校は,週5日通学できる“全日型”教育を行っているが,通信制高校としての特性を活かし,生徒の興味・関心を引き出す多様な取り組みが行われている点が特徴である。A高校の在学生調査では,不登校経験のある生徒の約8割は登校状態が良好であり,学校生活適応感に不登校経験の有無による差は見られず,不登校経験のある生徒でも,高校では適応的に過ごしていることが示唆された。また,A高校の卒業生調査でも,高校入学前の自己受容や健康度には不登校経験の有無による差が見られるが,卒業後(現在)では不登校経験の有無による差は見られず,不登校経験があってもその後適応的に過ごしうることが示唆された。
しかし一方で,通信制A高校の在学生調査では,同じように不登校を経験した生徒であっても,不登校への気持ちについて「もう不登校時代に戻らないと思う」生徒が45.1%,「考えない,考えないようにしている」生徒が36.9%,「いつ戻るかわからない」生徒が17.4%と,不登校経験者の約半数は安定した回復状態を示しているが,約2割の生徒は高校においても不安定な状態にある。これらの登校理由を比較すると,人間関係の良好さ,学校行事などの楽しさ,授業のわかりやすさなど,高校生活でどのような経験をしているかが不登校からの回復と関連していることがわかる。
当日は,通信制A高校の在学生および卒業生を対象にした調査のより詳しい結果を示しながら,通信制高校における不登校経験者の変化と支援について報告したい。
諸外国の高校生の不登校問題の対応
西山 久子(福岡教育大学)
不登校問題の対応については,社会への出口により近い段階にある高校では,学習が生産的に行われる状況をいかに整えるかに注目することが重要である。
海外をみると,まず典型的な対応は米国の取組である。NCLB法(2002)により保護者に生徒の学びを保証することを義務付けたうえで,教育の多くの権限は州にゆだねられている。カリフォルニア州の例では,校内に出席管理チームを置き,出席を監督する。その中で課題のある児童生徒については,出席状況の改善を学習面・心理社会面・進路面およびそれに付随する保護者の支援義務の履行状況などの視点から検討する。専任スクール・カウンセラー(専任SC)を中心に改善に向けた支援を行い,効果が見られない場合は,各教育区で出席管理委員会が,保護者と当該生徒それぞれが責務を果たすための課題を示し,専任SCおよび学校関係者は日常的・定期的に改善状況を監督し,必要に応じてHome Schooling等の提案を行う(西山,2007)。
アジアの各地域においても,不登校傾向がみられる場合には,校内の学校適応を援助する担当者が,当該の生徒の社会性や心身のコンディションに沿った対応を行う。校内での学習への適応が困難な場合も,そのことで学習が妨げられないよう,いわゆるHome SchoolingやHospital Schoolなどといったオルタナティブな学習コンディションを設けることを目指している。
海外では,不登校回避への支援が,保護者と学校適応援助・特別支援教育・学校運営等の関係者の役割分担により推進されている。これらは,学齢期を終えるまでに獲得すべき能力を的確に整理し,それらの能力を得るために,いかなる状況にある子どもも,妥当な教育環境を保証しようとする試みによるものと考える。当日は,具体的な仮想ケースを示しながら報告を行う。
管理職からみた不登校対応
小林由美子(名古屋学院大学)
B県の小中学校管理職の不登校対応は,定期的な情報交換や対応の会を開催し,保護者やスクールカウンセラー,他機関との連携等を積極的に行っている。
一方,高等学校の例を示すと,入学者の選抜の実態:全日制(公立・私立),定時制(夜間・昼間),通信制がある。全日制・公立は,調査書・当日の学力検査の総合的判断で決まり,出席日数では大きく不利になることはない。私立では,推薦入試と一般入試があり,推薦では調査書・面接・作文・基礎学力で,特に面接での本人の進学への意欲が問われる。一般入試では,学力検査に重きが置かれる。定時制は,作文・面接が重視され,通信制は作文と面談である。こうしたことから全日制では不登校の経験者でも学力が高く,教育支援センターや保健室登校などで出席日数があり,学校生活が可能と判断されることが重視される。
効果的な支援としては,各学校の校長のリーダーシップの下,教員と様々な専門スタッフとの連携協力した組織的な体制の整備が必要である。専門家と連携したアセスメントと連携協力,関係行政機関等との連携,家庭訪問等の家庭への働き掛け,保健室・相談室等を活用した受け入れ体制,教育支援センターや民間施設・ITCを活用した学習支援・多様な教育機会確保や適切な情報提供などである。これらの実情は,全日制,定時制,通信制を目指して入学する生徒の傾向と各学校の校長の経営方針によって大きく左右されている。
「不登校児童生徒への支援の在り方」(文部科学省)では,高等学校での不登校対応として,①高等学校入学者選抜等の改善,②高等学校における長期欠席・中途退学への取組の充実,③中学校卒業後の就学・就労や「ひきこもり」への支援の重要性が示されている。
当日は,これらの状況を全日制(公立・私立),定時制(夜間・昼間),通信制の現職校長への聞き取りを中心に報告し,対応への課題を明確にして今後の管理職の対応への提案をしたい。
本シンポジウムの報告は,科学研究費補助金基盤研究(B)15H03452(代表:伊藤美奈子)の一部である。
しかし,全国平均に比べると不登校経験者の就学状況は楽観視できない。先の追跡調査からも,中学卒業5年後,調査対象者の6割以上が中学卒業後も人間関係や生活面での不安を抱え続けていることがわかる。
高校への敷居が低くなった現在,不登校支援においては,高校進学(“高校につなげる”)がゴールではなく,“高校を辞めない”“高卒後も社会で生きていく力をつける”という一歩先の支援が必要になっている。
こうした現状を踏まえ,高等学校段階における不登校について,相馬先生・金子先生より話題提供していただく。また西山先生には,海外における高等学校段階の不登校の現状と対策をご紹介いただき,小林先生には,管理職に求められる不登校支援のあり方について話題提供していただく予定である。そして,指定討論の新井先生よりコメントを頂戴したい。
高等学校の不登校問題の現状と課題
相馬誠一(東京家政大学)
文部科学省(2016) によると, 平成27年度の高校生不登校生徒は49,591人であった。同時期の長期欠席者数は,経済的理由が1,661人,病気が14,280人,その他が13,675人で,全体では79,207人であった。
高校段階における長期欠席者は8万人前後,不登校生徒は5万人前後で推移している。とりわけ,最近の傾向として病気による長期欠席者が11.4%増,その他の長期欠席者が8.6%増と増加している。地域別の1,000人当たりの出現率では,大阪府が27.9,沖縄県が27.8で全国平均は15.9である。不登校の要因として,学校に係る要因が10.6%,家庭に係る要因が17.0%,遊び・非行の傾向がある12.5%,無気力の傾向がある36.1%,不安の傾向がある21.6%で,その他が15.5%であり,無気力傾向,不安傾向が高いことがわかる。中途退学者は1.4%で,平成20年の2.0%と比較しても,年々減少傾向にある。中途退学者の事由として,学業不振が7.7%,学校生活・学業不適応が34.1%,進路変更34.5%,病気・ケガ・死亡4.2%,経済的理由4.5%,問題行動等4.1%,その他の理由が8.2%であった。学校生活や学業不適応が事由として多く,結果的に進路変更をせざるを得ないケースが少なくないといえる。課程別の中途退学者の状況は,全日制0.9%,定時制10.0%,通信制5.4%と,定時制に中途退学者が多い。また,経済的理由による中退者の割合は,国立0.0%,公立0.7%,私立6.3%と私立高校が高い傾向にある。
以上のように,高校生の不登校問題や中途退学の現状分析した上で,さらに不登校を経験した当事者の考え等を紹介したい。
通信制高校における不登校経験者の変化と支援
金子恵美子(埼玉純真短期大学)
不登校経験者が困難を感じることの1つに高校進学の際の情報の少なさや選択肢の少なさなどがあげられるが,近年では,定時制,単位制,通信制高校が選択肢として考えられることが多くなっている。
生徒の約6割が不登校経験者である通信制A高校は,週5日通学できる“全日型”教育を行っているが,通信制高校としての特性を活かし,生徒の興味・関心を引き出す多様な取り組みが行われている点が特徴である。A高校の在学生調査では,不登校経験のある生徒の約8割は登校状態が良好であり,学校生活適応感に不登校経験の有無による差は見られず,不登校経験のある生徒でも,高校では適応的に過ごしていることが示唆された。また,A高校の卒業生調査でも,高校入学前の自己受容や健康度には不登校経験の有無による差が見られるが,卒業後(現在)では不登校経験の有無による差は見られず,不登校経験があってもその後適応的に過ごしうることが示唆された。
しかし一方で,通信制A高校の在学生調査では,同じように不登校を経験した生徒であっても,不登校への気持ちについて「もう不登校時代に戻らないと思う」生徒が45.1%,「考えない,考えないようにしている」生徒が36.9%,「いつ戻るかわからない」生徒が17.4%と,不登校経験者の約半数は安定した回復状態を示しているが,約2割の生徒は高校においても不安定な状態にある。これらの登校理由を比較すると,人間関係の良好さ,学校行事などの楽しさ,授業のわかりやすさなど,高校生活でどのような経験をしているかが不登校からの回復と関連していることがわかる。
当日は,通信制A高校の在学生および卒業生を対象にした調査のより詳しい結果を示しながら,通信制高校における不登校経験者の変化と支援について報告したい。
諸外国の高校生の不登校問題の対応
西山 久子(福岡教育大学)
不登校問題の対応については,社会への出口により近い段階にある高校では,学習が生産的に行われる状況をいかに整えるかに注目することが重要である。
海外をみると,まず典型的な対応は米国の取組である。NCLB法(2002)により保護者に生徒の学びを保証することを義務付けたうえで,教育の多くの権限は州にゆだねられている。カリフォルニア州の例では,校内に出席管理チームを置き,出席を監督する。その中で課題のある児童生徒については,出席状況の改善を学習面・心理社会面・進路面およびそれに付随する保護者の支援義務の履行状況などの視点から検討する。専任スクール・カウンセラー(専任SC)を中心に改善に向けた支援を行い,効果が見られない場合は,各教育区で出席管理委員会が,保護者と当該生徒それぞれが責務を果たすための課題を示し,専任SCおよび学校関係者は日常的・定期的に改善状況を監督し,必要に応じてHome Schooling等の提案を行う(西山,2007)。
アジアの各地域においても,不登校傾向がみられる場合には,校内の学校適応を援助する担当者が,当該の生徒の社会性や心身のコンディションに沿った対応を行う。校内での学習への適応が困難な場合も,そのことで学習が妨げられないよう,いわゆるHome SchoolingやHospital Schoolなどといったオルタナティブな学習コンディションを設けることを目指している。
海外では,不登校回避への支援が,保護者と学校適応援助・特別支援教育・学校運営等の関係者の役割分担により推進されている。これらは,学齢期を終えるまでに獲得すべき能力を的確に整理し,それらの能力を得るために,いかなる状況にある子どもも,妥当な教育環境を保証しようとする試みによるものと考える。当日は,具体的な仮想ケースを示しながら報告を行う。
管理職からみた不登校対応
小林由美子(名古屋学院大学)
B県の小中学校管理職の不登校対応は,定期的な情報交換や対応の会を開催し,保護者やスクールカウンセラー,他機関との連携等を積極的に行っている。
一方,高等学校の例を示すと,入学者の選抜の実態:全日制(公立・私立),定時制(夜間・昼間),通信制がある。全日制・公立は,調査書・当日の学力検査の総合的判断で決まり,出席日数では大きく不利になることはない。私立では,推薦入試と一般入試があり,推薦では調査書・面接・作文・基礎学力で,特に面接での本人の進学への意欲が問われる。一般入試では,学力検査に重きが置かれる。定時制は,作文・面接が重視され,通信制は作文と面談である。こうしたことから全日制では不登校の経験者でも学力が高く,教育支援センターや保健室登校などで出席日数があり,学校生活が可能と判断されることが重視される。
効果的な支援としては,各学校の校長のリーダーシップの下,教員と様々な専門スタッフとの連携協力した組織的な体制の整備が必要である。専門家と連携したアセスメントと連携協力,関係行政機関等との連携,家庭訪問等の家庭への働き掛け,保健室・相談室等を活用した受け入れ体制,教育支援センターや民間施設・ITCを活用した学習支援・多様な教育機会確保や適切な情報提供などである。これらの実情は,全日制,定時制,通信制を目指して入学する生徒の傾向と各学校の校長の経営方針によって大きく左右されている。
「不登校児童生徒への支援の在り方」(文部科学省)では,高等学校での不登校対応として,①高等学校入学者選抜等の改善,②高等学校における長期欠席・中途退学への取組の充実,③中学校卒業後の就学・就労や「ひきこもり」への支援の重要性が示されている。
当日は,これらの状況を全日制(公立・私立),定時制(夜間・昼間),通信制の現職校長への聞き取りを中心に報告し,対応への課題を明確にして今後の管理職の対応への提案をしたい。
本シンポジウムの報告は,科学研究費補助金基盤研究(B)15H03452(代表:伊藤美奈子)の一部である。