13:00 〜 15:00
[JH04] 「気になる子ども」も一緒に育つ
「気になる子」の理解からすべての子どもが育ちあう保育実践に
キーワード:気になる子ども, 集団保育, 保育内容
企画趣旨
現在,保育現場において「気になる子」の問題が大きな課題となっている。「気になる子」という用語は保育や学校教育の現場で広く使われている。しかしその定義はあいまいで,保育現場での実態に基づく問題意識からでてきた用語である。今日,この用語が適切かどうかも含めて論議の対象となっている。
保育者が「気になる子」ととらえる子どもは調査の仕方や対象によって相違はあるものの,一定数存在する。そしてその子どもたちの特徴は,行動上の問題と発達上の問題に集約され,特に多動・衝動性・注意散漫・対人関係に関する要素が共通して取り上げられている。それらの諸要素と発達障害の特徴とが高い関連を持つことから,近年「気になる子」研究は環境や保育観との関連を認めながらも,主に発達障害との関連での研究が主流となってきている。このような「気になる子」観の変遷には障害児保育・教育施策の動向と障害児保育の対象の拡大の影響があると推察される。
現在,多くの保育・幼児教育現場の問題意識の中心は,「気になる子」自身が直面している困難を克服できるように,発達支援する個別指導や対応のあり方に加えて,集団の中での活動をどのように工夫し保障していくのかというところにある。現場においては個と集団を統一的にとらえ,「気になる子」を含めたすべての子どもたちが「共に育ちあう」ことを目指した保育実践がめざされているといえよう。
今,このような取り組みの積極的な意義とその方法や内容,さらには,それらを可能にしていく条件や要素についての論議が深められることが求められている。そこでの取り組みは「気になる子」だけでなく,すべての子どもが仲間の中で共に育ちあう保育実践を展開することにつながっていく。
本シンポジウムでは,保育現場でクラス担任が抱えるニーズについての調査報告(野村),「気になる子」を含めたクラスづくりについての実践報告(永谷),「気になる子」の問題を発達連関・機能連関から考える-不器用さ,姿勢運動発達の遅れを中心に-(別府)),「気になる子」問題に潜む発達研究の課題(木下)について話題提供をおこない,「気になる子」の理解を多様な子どもたちが仲間の中で育ちあう保育実践につなげて考えていく論議として深めていきたい。
保育所における3・4・5歳児クラスの「気になる子」と保育者のニーズ
~クラス担任のインタビュー調査より~
野村 朋
2012年度の文部科学省の調査において,通常学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な支援を必要とする児童生徒は6.5%存在すると報告されている。就学前の幼児を対象とした調査では,調査によってばらつきがあるが,それよりも多くの子どもが「気になる子」として集団の中で特別な配慮を必要としていると考えられており,現場の大きな課題となっている。
また,保育の現場では「気になる子」本人への支援に加え,彼らを含めたクラス運営をどのように進めていけばよいかにまつわる悩みが大きい。多くの保育者は「気になる子」が友達とのかかわりの中で共に育つ保育を目指し,悩みながら試行錯誤している。そしてそのような保育を実現していくために必要な要素として,保育の中で何を大事にするのかといった保育観,保育所全体での連携や意思統一の在り方,クラス規模や加配の有無など様々なことが挙げられる。
現場の保育者へのインタビューを通して「気になる子ども」を含めた集団保育での保育者の悩みや困難,その困難を解決していくための方策,「共に育ちあう」クラスづくりにおいて大切にしていることや,保育者がよりよい保育をする上で必要とする支援について話題提供する。
「気になる子」を含むクラスづくり~保育内容と関係づくりの観点から~ 永谷 孝代
保育所において,どの年齢の担任になっても数名の「気になる子」がいる現状がある。その「気になる」姿が家庭環境の影響なのか,発達障害からくるものか,判断がつきにくいことが多い。「気になる」姿は「遊びに入れない」「切り替えに時間がかかり,クラスの活動に参加できない」などクラス集団とのかかわりで明らかになることが多い。
近年は発達障害に関する認識が広がったこともあり,保育所において「気になる子」を「配慮を必要とする子」として,かかわり方や環境調整を行う方法が工夫されている。そしてその支援は個別支援(特にノウハウ)に偏る傾向が強い。
しかし,「気になる子」の「気になる」姿は果たしてその子だけの問題なのだろうか?
クラスの取り組みとして「気になる子」が入れないあそびは,他の子も仕方なく参加していることもある。反対に「気になる子」が率先する(保育者としてはあまりして欲しくない)あそびはどこか魅力的な場合が多い。「気になる子」が遊びの主役になるとき,クラス全体が輝き,あそびも大いに発展していく。また,すぐにパニックを起こしたり,友だちに攻撃的になる子も,クラスの生活の中でちょっとがまんしたり,折り合いをつける方法を見つけ,集団の中の自分に気づく。「気になる子」を含めたクラスの遊びと保護者・子ども集団づくりの保育実践を通して,どの子も育つクラスづくりの重要性を報告する。
「気になる子」の問題を発達連関・機能連関から考える-不器用さ,姿勢運動発達の遅れを中心に別府 悦子
子どもの発達には,人格的な能力もふくめた総体的な能力が基盤になっている。機能間の発達の関係に目配りをしつつ,少し長い時間的な見通しの中で発達を考えようとすることが重要であり(加藤,2014),機能連関,発達連関という概念で整理されてきた。
一方で,それぞれの領域ごとの変化をもっと細かく具体的に明らかにしようとする,「領域固有論」と呼ばれる考え方の中で,社会性や認知発達などの領域に特化した訓練や療育の実践が就学前においても活発である。
発達のアンバランスさをもっていることの多い,「気になる子」の支援において,機能連関,発達連関の視点から発達理解や対応を考えていくことが今回の話題提供の趣旨である。演者らは,岐阜県下の保育所・園,幼稚園に対し,実態調査を行った(平野・水野・別府,2012)。また,現在,岐阜県のある自治体の協力を得て,乳幼児健診データの分析を行っている(宮本・別府・北川,2015)。その中で,特に,姿勢運動や不器用さなどが発達課題に影響していることが明らかになっている。
今回の話題提供では,演者が保育・教育現場の巡回相談を行っている経験からの事例の紹介も含め,「気になる子」の発達理解と対応を機能連関,発達連関の視点から考えていきたい。
「気になる子」問題に潜む発達研究の課題
木下孝司
保育現場における「気になる子」の問題は,保育条件の改善を問題提起するとともに,(「治療」ではなく)「保育」としての実践を省察する契機となりうる。ただ一方で,現状においては,「気になる行動」をいかに減じるかという「ハウツー的関係論」が流布している傾向がある。本報告では,こうした動向を教育心理学的に分析し,「気になる子」問題が発達研究に突きつけている課題を考えていきたい。
実践的な問題には理論的な問題が隠されている。「気になる子」問題は,これまでの発達研究が扱いきれていない,次のような問題を投げかけていると思われる。1)自我形成論(能力の獲得としての発達とは別に,自我形成をどのように理論化するのか),2)集団形成論(比較認知発達研究などの成果も取り入れつつ,文化伝達という観点から幼児の仲間集団の形成と個の発達の相互関連を検討する)。このうち,今回は,保育現場で「気になる子の自我の育ち」として問題にされているものを発達研究がいかに射程に入れられるのかを考えてみたい。
以上4人からの話題提供を受けて,指定討論を荒木穗積(立命館大学大学院応用人間科学研究科)におこなっていただく。
現在,保育現場において「気になる子」の問題が大きな課題となっている。「気になる子」という用語は保育や学校教育の現場で広く使われている。しかしその定義はあいまいで,保育現場での実態に基づく問題意識からでてきた用語である。今日,この用語が適切かどうかも含めて論議の対象となっている。
保育者が「気になる子」ととらえる子どもは調査の仕方や対象によって相違はあるものの,一定数存在する。そしてその子どもたちの特徴は,行動上の問題と発達上の問題に集約され,特に多動・衝動性・注意散漫・対人関係に関する要素が共通して取り上げられている。それらの諸要素と発達障害の特徴とが高い関連を持つことから,近年「気になる子」研究は環境や保育観との関連を認めながらも,主に発達障害との関連での研究が主流となってきている。このような「気になる子」観の変遷には障害児保育・教育施策の動向と障害児保育の対象の拡大の影響があると推察される。
現在,多くの保育・幼児教育現場の問題意識の中心は,「気になる子」自身が直面している困難を克服できるように,発達支援する個別指導や対応のあり方に加えて,集団の中での活動をどのように工夫し保障していくのかというところにある。現場においては個と集団を統一的にとらえ,「気になる子」を含めたすべての子どもたちが「共に育ちあう」ことを目指した保育実践がめざされているといえよう。
今,このような取り組みの積極的な意義とその方法や内容,さらには,それらを可能にしていく条件や要素についての論議が深められることが求められている。そこでの取り組みは「気になる子」だけでなく,すべての子どもが仲間の中で共に育ちあう保育実践を展開することにつながっていく。
本シンポジウムでは,保育現場でクラス担任が抱えるニーズについての調査報告(野村),「気になる子」を含めたクラスづくりについての実践報告(永谷),「気になる子」の問題を発達連関・機能連関から考える-不器用さ,姿勢運動発達の遅れを中心に-(別府)),「気になる子」問題に潜む発達研究の課題(木下)について話題提供をおこない,「気になる子」の理解を多様な子どもたちが仲間の中で育ちあう保育実践につなげて考えていく論議として深めていきたい。
保育所における3・4・5歳児クラスの「気になる子」と保育者のニーズ
~クラス担任のインタビュー調査より~
野村 朋
2012年度の文部科学省の調査において,通常学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な支援を必要とする児童生徒は6.5%存在すると報告されている。就学前の幼児を対象とした調査では,調査によってばらつきがあるが,それよりも多くの子どもが「気になる子」として集団の中で特別な配慮を必要としていると考えられており,現場の大きな課題となっている。
また,保育の現場では「気になる子」本人への支援に加え,彼らを含めたクラス運営をどのように進めていけばよいかにまつわる悩みが大きい。多くの保育者は「気になる子」が友達とのかかわりの中で共に育つ保育を目指し,悩みながら試行錯誤している。そしてそのような保育を実現していくために必要な要素として,保育の中で何を大事にするのかといった保育観,保育所全体での連携や意思統一の在り方,クラス規模や加配の有無など様々なことが挙げられる。
現場の保育者へのインタビューを通して「気になる子ども」を含めた集団保育での保育者の悩みや困難,その困難を解決していくための方策,「共に育ちあう」クラスづくりにおいて大切にしていることや,保育者がよりよい保育をする上で必要とする支援について話題提供する。
「気になる子」を含むクラスづくり~保育内容と関係づくりの観点から~ 永谷 孝代
保育所において,どの年齢の担任になっても数名の「気になる子」がいる現状がある。その「気になる」姿が家庭環境の影響なのか,発達障害からくるものか,判断がつきにくいことが多い。「気になる」姿は「遊びに入れない」「切り替えに時間がかかり,クラスの活動に参加できない」などクラス集団とのかかわりで明らかになることが多い。
近年は発達障害に関する認識が広がったこともあり,保育所において「気になる子」を「配慮を必要とする子」として,かかわり方や環境調整を行う方法が工夫されている。そしてその支援は個別支援(特にノウハウ)に偏る傾向が強い。
しかし,「気になる子」の「気になる」姿は果たしてその子だけの問題なのだろうか?
クラスの取り組みとして「気になる子」が入れないあそびは,他の子も仕方なく参加していることもある。反対に「気になる子」が率先する(保育者としてはあまりして欲しくない)あそびはどこか魅力的な場合が多い。「気になる子」が遊びの主役になるとき,クラス全体が輝き,あそびも大いに発展していく。また,すぐにパニックを起こしたり,友だちに攻撃的になる子も,クラスの生活の中でちょっとがまんしたり,折り合いをつける方法を見つけ,集団の中の自分に気づく。「気になる子」を含めたクラスの遊びと保護者・子ども集団づくりの保育実践を通して,どの子も育つクラスづくりの重要性を報告する。
「気になる子」の問題を発達連関・機能連関から考える-不器用さ,姿勢運動発達の遅れを中心に別府 悦子
子どもの発達には,人格的な能力もふくめた総体的な能力が基盤になっている。機能間の発達の関係に目配りをしつつ,少し長い時間的な見通しの中で発達を考えようとすることが重要であり(加藤,2014),機能連関,発達連関という概念で整理されてきた。
一方で,それぞれの領域ごとの変化をもっと細かく具体的に明らかにしようとする,「領域固有論」と呼ばれる考え方の中で,社会性や認知発達などの領域に特化した訓練や療育の実践が就学前においても活発である。
発達のアンバランスさをもっていることの多い,「気になる子」の支援において,機能連関,発達連関の視点から発達理解や対応を考えていくことが今回の話題提供の趣旨である。演者らは,岐阜県下の保育所・園,幼稚園に対し,実態調査を行った(平野・水野・別府,2012)。また,現在,岐阜県のある自治体の協力を得て,乳幼児健診データの分析を行っている(宮本・別府・北川,2015)。その中で,特に,姿勢運動や不器用さなどが発達課題に影響していることが明らかになっている。
今回の話題提供では,演者が保育・教育現場の巡回相談を行っている経験からの事例の紹介も含め,「気になる子」の発達理解と対応を機能連関,発達連関の視点から考えていきたい。
「気になる子」問題に潜む発達研究の課題
木下孝司
保育現場における「気になる子」の問題は,保育条件の改善を問題提起するとともに,(「治療」ではなく)「保育」としての実践を省察する契機となりうる。ただ一方で,現状においては,「気になる行動」をいかに減じるかという「ハウツー的関係論」が流布している傾向がある。本報告では,こうした動向を教育心理学的に分析し,「気になる子」問題が発達研究に突きつけている課題を考えていきたい。
実践的な問題には理論的な問題が隠されている。「気になる子」問題は,これまでの発達研究が扱いきれていない,次のような問題を投げかけていると思われる。1)自我形成論(能力の獲得としての発達とは別に,自我形成をどのように理論化するのか),2)集団形成論(比較認知発達研究などの成果も取り入れつつ,文化伝達という観点から幼児の仲間集団の形成と個の発達の相互関連を検討する)。このうち,今回は,保育現場で「気になる子の自我の育ち」として問題にされているものを発達研究がいかに射程に入れられるのかを考えてみたい。
以上4人からの話題提供を受けて,指定討論を荒木穗積(立命館大学大学院応用人間科学研究科)におこなっていただく。