10:00 〜 12:00
[PA01] 児童の家庭における生き物の飼育経験が共感性の発達に及ぼす影響
キーワード:飼育経験, 他者感情への敏感性, 共感的関心
他者への感情理解を促進する試みとして,近年動物を用いた取り組み(動物介在教育・活動)が注目されている。中川(2007)は,子どもは動物を飼育することにより,動物をよく観察するようになり,飼育動物のちょっとした変化に対しても気づくことができるようになり,生物への感性を培うことができるのではないかと指摘している。
これまでの動物介在教育の効果に関する先行研究においては,動物介在教育が共感性にポジティブな影響を与えることが指摘されているが,共感性について多次元的に検討している研究は少ない。
本研究では,共感性を複数の側面(「共感的関心」,「他者感情への敏感性」)から測定し,飼育経験が共感性に及ぼす影響について検討することを目的とする。
方 法
調査対象者:神奈川県内のA小学校(男性31名女性34名),B小学校(男性28名女性33名)の6年生(計131名)を対象にした。
調査手続き:2016年8月下旬から9月下旬にかけて個別自記入形式の質問紙調査で実施した。A小学校は家庭内,B小学校は授業内で実施した。なお,本研究は田園調布学園大学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(受理番号:16-005)。
調査内容:
1.家庭における生物の飼育経験の有無
「1.今飼っている」「2.今は飼っていないが昔飼ったことがある」「3.飼ったことがない」の中から1つ選択するように求めた。
2.飼育生物の種類について
13種の生き物からこれまで飼育したことのある生物全てに〇をつけるように求めた。
3.他者感情への敏感性と共感的関心
村上ら(2014)の「他者感情への敏感性」尺度のうち,因子負荷量の高い上位3項目のみを使用した(4件法)。また長谷川・堀内・鈴木・佐渡・坂元(2009)による「共感的関心」尺度(7項目,4件法)を用いた。
結果と考察
飼育経験の有無別で児童を2群に分け,「共感的関心」および「他者感情への敏感性」について統計的に有意な差が認められるかどうかを検討した。その結果,「共感的関心」については2群の間で統計的に有意な差は認められなかったが,「他者感情への敏感性」については,飼育経験がない児童(n=11)よりも,今飼育している児童(n=62 )の方が,得点が高いことが示された(t=1.77,df=71, p<.10)。
次に哺乳類と6ヶ月以上ともに過ごした経験のある児童と過ごしていない児童に分け,検討したところ,「共感的関心」においては差が認められなかったが,「他者感情への敏感性」については,哺乳類と6カ月以上ともに過ごしていた群(n=56)の方が,過ごしていない群(n=72)よりも有意に高いことが示された(t=-3.42,df=126,p<.01)。
以上より哺乳類を飼育している児童は,飼育していない児童に比べて,「他者感情への敏感性」が高いのではないかということが示唆された。
全体的考察
生き物の飼育経験は,共感性の中でも「他者感情への敏感性」に影響を与えるのではないか,またそれは特に哺乳類を飼育している場合に,より顕著であるのではないかということが示唆された。
今後の展望として,生き物の飼育経験が他者感情への敏感性に及ぼす影響について明確にするために,実験的な検討を行うことが求められる。
引用文献
村上達也・西村多久磨・櫻井茂男 (2014) 小中学生における共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連:子ども用認知・感情共感性尺度の信頼性・妥当性の検討 発達心理学研究, 25, 399-411.
※調査実施につきまして,旭麻里那さんにご協力いただきました。
これまでの動物介在教育の効果に関する先行研究においては,動物介在教育が共感性にポジティブな影響を与えることが指摘されているが,共感性について多次元的に検討している研究は少ない。
本研究では,共感性を複数の側面(「共感的関心」,「他者感情への敏感性」)から測定し,飼育経験が共感性に及ぼす影響について検討することを目的とする。
方 法
調査対象者:神奈川県内のA小学校(男性31名女性34名),B小学校(男性28名女性33名)の6年生(計131名)を対象にした。
調査手続き:2016年8月下旬から9月下旬にかけて個別自記入形式の質問紙調査で実施した。A小学校は家庭内,B小学校は授業内で実施した。なお,本研究は田園調布学園大学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(受理番号:16-005)。
調査内容:
1.家庭における生物の飼育経験の有無
「1.今飼っている」「2.今は飼っていないが昔飼ったことがある」「3.飼ったことがない」の中から1つ選択するように求めた。
2.飼育生物の種類について
13種の生き物からこれまで飼育したことのある生物全てに〇をつけるように求めた。
3.他者感情への敏感性と共感的関心
村上ら(2014)の「他者感情への敏感性」尺度のうち,因子負荷量の高い上位3項目のみを使用した(4件法)。また長谷川・堀内・鈴木・佐渡・坂元(2009)による「共感的関心」尺度(7項目,4件法)を用いた。
結果と考察
飼育経験の有無別で児童を2群に分け,「共感的関心」および「他者感情への敏感性」について統計的に有意な差が認められるかどうかを検討した。その結果,「共感的関心」については2群の間で統計的に有意な差は認められなかったが,「他者感情への敏感性」については,飼育経験がない児童(n=11)よりも,今飼育している児童(n=62 )の方が,得点が高いことが示された(t=1.77,df=71, p<.10)。
次に哺乳類と6ヶ月以上ともに過ごした経験のある児童と過ごしていない児童に分け,検討したところ,「共感的関心」においては差が認められなかったが,「他者感情への敏感性」については,哺乳類と6カ月以上ともに過ごしていた群(n=56)の方が,過ごしていない群(n=72)よりも有意に高いことが示された(t=-3.42,df=126,p<.01)。
以上より哺乳類を飼育している児童は,飼育していない児童に比べて,「他者感情への敏感性」が高いのではないかということが示唆された。
全体的考察
生き物の飼育経験は,共感性の中でも「他者感情への敏感性」に影響を与えるのではないか,またそれは特に哺乳類を飼育している場合に,より顕著であるのではないかということが示唆された。
今後の展望として,生き物の飼育経験が他者感情への敏感性に及ぼす影響について明確にするために,実験的な検討を行うことが求められる。
引用文献
村上達也・西村多久磨・櫻井茂男 (2014) 小中学生における共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連:子ども用認知・感情共感性尺度の信頼性・妥当性の検討 発達心理学研究, 25, 399-411.
※調査実施につきまして,旭麻里那さんにご協力いただきました。