10:00 AM - 12:00 PM
[PA22] 大学生にみるMIF概念再考(1)
投げ上げられた物体に作用する力の向きについての選択理由の分析
Keywords:大学生, MIF概念, 重力概念理解
目 的
科学の様々な領域,特にニュートン力学の分野に関して,大学生は直観的で科学的に誤った概念を有しており,伝統的な指導法では変化しにくいことが報告されてきた。その典型例として「連続的な運動には,運動の必須原因として,運動と同じ向きに働き続ける力の存在がある」(Clement,1983) 「運動している物体のもつ”内なる力”は徐々に散逸するため運動は遅くなり,やがて止まる」(McCloskey,1983) というMIF概念が取り上げられ,その背景として物体を動かし続けるためにはそれを押し動かなければならないという日常経験が指摘されている(オズボーン,1988; 鈴木,2008)。
しかしながら,大半の大学生は「重力」「加速度」「慣性」などの用語を知っており,それら概念によって物体の運動が説明されるという知識を有する。それ故,作用する力の方向の判断を求められた場合には,彼らは直観的に判断するのではなく,自分なりの概念理解にもとづいて問題解決を図ると想定しうる。本研究では,判断の説明回答を力学概念理解の観点から体系的に整理することにより,大学生の問題解決方法の様相を明らかにする。
方 法
回答者に与えられた課題は,人がテニスボールを真上に軽く投げ上げている状況について,① ボールが上昇中・頂点到達時・落下中の各時点における力の向きについて,3選択肢(上向き・下向き・かかっていない)から1つずつ選ぶ ② 3選択全てを含めた選択理由を自由記述する ③ 選択全てが科学的に正しいという確信度を数直線上(全く自信ない―自信たっぷりの4段階目盛)にマークする である。佛教大学教育学科1回生160名に対し,①~③を表面1枚に記したA4用紙を配布,集団アンケート方式により回答(所要時間約20分)を求めた。有効回答151のうち,以下の選択パタン・説明類型に分類可能であった144を分析の対象とする。
結果・考察
上昇中・頂点時・落下中における力の向きの選択パタンの主なものとして,A(↑・↓・↓),B1(↑・↓・↓),B2(↓・-・↓),C(↓・↓・↓)が見出された。また,選択理由の説明には「重力」以外の用語使用はほとんどなく,大半の回答者の説明は重力への言及のしかたにより,Ⅰ:全く重力への言及なし,Ⅱ:1or2時点でのみ重力に言及,Ⅲ:3時点全てで重力に言及するも他の力も想定,Ⅳ:どの時点でも重力のみが作用すると理解 に類別できた。表1は,各選択パタンと各説明類型に該当した回答者数のクロス集計表である。選択パタンによる説明類型分布に有意差がみられた(Χ2 (9)=147.99; p<.001)。
どの時点でも下向きを選択した(C)全回答者は,重力のみが作用すると理解(Ⅳ)していた。他方,運動方向と一致する向きを選択した回答者(A)も,半数以上は自分なりに重力を考慮して説明(Ⅱ,Ⅲ)を試みた。典型的な誤答にも,直観的なMIF概念というより,力学概念理解の不十分さを反映とみなすべきケースが多いと言える。また,説明類型間に確信度(数直線上のマークを1-4の小数第1位までの数値に変換)評定差はなく(全て平均2.2-2.4;H=.349,Kruscal-Wallisの検定),大学生の主観からすると,どの類型説明も同様に「科学的に正しい」と考えられる。こうした結果は,大学生は「こま切れの知識」の寄せ集めで運動を解釈しているという見解(diSessa,1993)を支持する。
科学の様々な領域,特にニュートン力学の分野に関して,大学生は直観的で科学的に誤った概念を有しており,伝統的な指導法では変化しにくいことが報告されてきた。その典型例として「連続的な運動には,運動の必須原因として,運動と同じ向きに働き続ける力の存在がある」(Clement,1983) 「運動している物体のもつ”内なる力”は徐々に散逸するため運動は遅くなり,やがて止まる」(McCloskey,1983) というMIF概念が取り上げられ,その背景として物体を動かし続けるためにはそれを押し動かなければならないという日常経験が指摘されている(オズボーン,1988; 鈴木,2008)。
しかしながら,大半の大学生は「重力」「加速度」「慣性」などの用語を知っており,それら概念によって物体の運動が説明されるという知識を有する。それ故,作用する力の方向の判断を求められた場合には,彼らは直観的に判断するのではなく,自分なりの概念理解にもとづいて問題解決を図ると想定しうる。本研究では,判断の説明回答を力学概念理解の観点から体系的に整理することにより,大学生の問題解決方法の様相を明らかにする。
方 法
回答者に与えられた課題は,人がテニスボールを真上に軽く投げ上げている状況について,① ボールが上昇中・頂点到達時・落下中の各時点における力の向きについて,3選択肢(上向き・下向き・かかっていない)から1つずつ選ぶ ② 3選択全てを含めた選択理由を自由記述する ③ 選択全てが科学的に正しいという確信度を数直線上(全く自信ない―自信たっぷりの4段階目盛)にマークする である。佛教大学教育学科1回生160名に対し,①~③を表面1枚に記したA4用紙を配布,集団アンケート方式により回答(所要時間約20分)を求めた。有効回答151のうち,以下の選択パタン・説明類型に分類可能であった144を分析の対象とする。
結果・考察
上昇中・頂点時・落下中における力の向きの選択パタンの主なものとして,A(↑・↓・↓),B1(↑・↓・↓),B2(↓・-・↓),C(↓・↓・↓)が見出された。また,選択理由の説明には「重力」以外の用語使用はほとんどなく,大半の回答者の説明は重力への言及のしかたにより,Ⅰ:全く重力への言及なし,Ⅱ:1or2時点でのみ重力に言及,Ⅲ:3時点全てで重力に言及するも他の力も想定,Ⅳ:どの時点でも重力のみが作用すると理解 に類別できた。表1は,各選択パタンと各説明類型に該当した回答者数のクロス集計表である。選択パタンによる説明類型分布に有意差がみられた(Χ2 (9)=147.99; p<.001)。
どの時点でも下向きを選択した(C)全回答者は,重力のみが作用すると理解(Ⅳ)していた。他方,運動方向と一致する向きを選択した回答者(A)も,半数以上は自分なりに重力を考慮して説明(Ⅱ,Ⅲ)を試みた。典型的な誤答にも,直観的なMIF概念というより,力学概念理解の不十分さを反映とみなすべきケースが多いと言える。また,説明類型間に確信度(数直線上のマークを1-4の小数第1位までの数値に変換)評定差はなく(全て平均2.2-2.4;H=.349,Kruscal-Wallisの検定),大学生の主観からすると,どの類型説明も同様に「科学的に正しい」と考えられる。こうした結果は,大学生は「こま切れの知識」の寄せ集めで運動を解釈しているという見解(diSessa,1993)を支持する。