日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA33] 偶発記憶における自己選択効果と選択規準

生存欲求規準と自己準拠規準の比較

豊田弘司 (奈良教育大学)

キーワード:自己選択効果, 生存欲求, 自己準拠

 参加者が自己選択した記銘語が,強制選択された語よりも再生率が高い現象を自己選択効果と呼ぶ。豊田ら(2007)は,自己選択効果は,選択規準が明確である場合にのみ出現することを明らかにした。そして,明確な選択規準によって選択された語が認知構造へ統合されることにより,自己選択効果が生じるという統合仮説を提唱した。この仮説は,多くの研究(豊田・小林,2009; 豊田, 2013, 2014)によってその妥当性が確認されている。統合仮説によれば,選択規準が明確であれば,より認知構造への統合が促進されるので,自己選択効果が大きくなると予想される。Toyota(2015)では,自己準拠規準がメタ記憶規準よりも自己選択効果の大きいことを明らかにしている。
 Nairneら(2007)は,サバイバル処理が他の処理よりも記憶を促進することを明らかにしている。もし,サバイバル処理が有効であるならば,これに対応する選択規準は,他の選択規準よりも有効になると考えられる。そこで,本研究では,サバイバル処理に対応する選択規準として生存欲求規準を設け,自己準拠規準と比較して,偶発記憶に及ぼす効果を検討する。
方   法
 実験計画 2(選択規準;生存欲求,自己準拠)×2(選択型;自己選択,強制選択)の要因計画。両要因ともに参加者内要因。参加者 看護学校の学生36名(男14名,女22名),平均年齢は,20歳5ヵ月。材料 記銘語は,兵藤ら(2003)から選択された漢字2字熟語であり,快語及び中立語を含む。記銘リストは要因計画に対応する4つの条件と単語対をカウンターバランスして,4種類作成。各リストは,快語と中立語が対になり,左右の位置を統制し,生存欲求規準・自己選択,自己準拠規準・自己選択及び,生存欲求規準・強制選択,自己準拠規準・強制選択にそれぞれ6対ずつを割り当てる。そして,リストの最初と最後にバッファー対を1対ずつ追加し,26対から構成。これらのリストは表紙をつけた B6判の小冊子。挿入課題用紙はB4判。自由再生テスト用紙は,B6判。手続き 偶発記憶手続きによる集団実験。1) 方向づけ課題 参加者は,小冊子の各ページに提示される記銘語対から「生きるためにより必要なのは?」という質問がある場合(生存欲求・自己)や,「自分により関係するのは?」という質問ある場合(自己準拠・自己)には,質問に該当する単語を○で囲むように,また,一方の単語に下線がある場合には,「生きるために必要ですか?」という質問がある場合(生存欲求・強制)には,その下線の単語が生きるためにより必要か,「はい」「いいえ」のいずれかを○で囲むように,「自分に関係しますか?」という質問がある場合(自己準拠・強制)には,その下線の単語が自分に関係するか,「はい」「いいえ」を○で囲むように教示された。練習試行を行った後,本試行に入り,参加者は実験者の合図にしたがって,10秒ごとにページをめくり,各ページの語を記銘していった。2) 挿入課題 語識別課題 3分。3)自由再生テスト 書記再生3分。
結果と考察
 選択語の再生率(Table1)分散分析の結果,選択規準(p<.05),選択型の主効果(p<.001)及び選択規準×選択型の交互作用(p<.05)が有意であり,下位検定の結果,自己選択では生存欲求規準>自己準拠規準(p<.01),強制選択では生存欲求規準=自己準拠規準という関係が示された。実験仮説を直接検討するために,自己選択条件における再生率から強制選択条件におけるそれを引いた値(Table 1の下欄)を自己選択効果の大きさであるので,選択規準間のこの大きさの違いをt検定によって比較した。その結果,生存欲求規準の自己選択効果が自己準拠規準の自己選択効果よりも大きかった(p<.05)。
 生存欲求規準で自己選択した場合が,自己準拠規準で自己選択した場合よりも選択語の再生率が高く,自己選択効果も大きかった。この結果は,統合仮説(豊田ら, 2007)からすれば,選択語が認知構造へ統合され,豊富な符号化がなされるためには,生存規準の方が自己準拠よりも有効であると解釈できる。