10:00 〜 12:00
[PA34] 3年次学生調査における大学入学後の能力向上と主体的学びとの関連
キーワード:学生調査, 大学教育, 間接評価
目 的
近年の学修成果の可視化の要請に対応して,多くの大学で学生調査による間接的な成果評価が行われている(山田, 2016など)。なかでも,共通項目を用いて縦断的な比較を行うとともに相互のベンチマーキングが可能な大学IRコンソーシアムの学生調査は,現在,全国の国公私立49大学によって利用されている(http://www.irnw.jp)。
一方で,主体的学びを促すアクティブラーニングの工夫も今日の大学の大きな課題となっており,それと併せてアクティブラーニングの成果をどのように把握すべきかも問われている(溝上,2014など)。
そこで本研究は,大学IRコンソーシアムの「上級生調査」の結果を用いて,主体的学びの経験が大学入学後の能力変化知覚に及ぼす影響モデルを探索的に検討し,学生調査に基づく主体的学びの一評価枠組を提案することを試みた。
方 法
調査参加者は,2014年度の国立N大学3年次生1,226名(女子511名,男子712名,不明3名)。必修科目の授業中に実施,所要15分~20分。国立N大学は9学部から成る地方総合大学である。
結 果
因子分析による尺度構成 調査項目のうち,入学後の能力変化を尋ねた20項目はプロマックス法3因子解によって「認知面の向上」「関係面の向上」「共生面の向上」の3尺度(因子間相関は.54~.64)とした。それぞれの代表的な項目は「分析力や問題解決能力」「人間関係を構築する能力」「異文化の人々と協力する能力」である。授業経験を尋ねた14項目からは2因子解を得たが,第2因子は負荷する項目も少なく内容が明確でなかったことから,「学生が自分の考えや研究を発表する」などを代表的な項目とする「学生主体の授業経験」の因子のみを採り上げた。学習態度を尋ねた14項目は3因子解によって「自主的学習の経験」「授業不適応の経験」「情報活用の経験」の3尺度(因子間相関は-.01~.14)とした。それぞれの代表的項目は「単位とは関係のない教員あるいは学生による自主的な勉強会に参加した」「授業に遅刻した」「授業課題のために図書館の資料を利用した」である。「情報活用の経験」因子にはインターネット活用の項目も高く負荷していた。最後に,週当たりの活動時間を尋ねた8項目は3因子解によって「自主的学習の活動時間」「授業関連の活動時間」「正課外の活動時間」の3尺度(因子間相関は.00~.15)とした。それぞれの代表的項目は「授業時間以外に授業に関連しない勉強をする」「授業や実験に出る」「部活動や同好会に参加する」であった。
階層的重回帰分析 学修成果としては認知面の向上が最も重要であることから,「認知面の向上」を従属変数として,授業経験,学習態度,週当たりの活動時間,の順に階層的に説明変数を投入したところ,「学生主体の授業経験」(β=.10)よりも「自主的学習の経験」(β=.19)と「情報活用の経験」(β=.13)が強く影響し,また週当たりの活動時間の要因はほとんど寄与しなかった(ΔR2=.01)。
媒介分析 以上を踏まえて,「学生主体の授業経験」が学生生活での「自主的学習の経験」や「情報活用の経験」を介して「認知面の向上」に寄与するという仮説モデルを検証したところ(リサンプリング1,000回のブートストラップ法による),同時媒介要因の間接効果はそれぞれ.09, 95% CI [.06, .13]; .04, 95% CI [.02, .06]であり,値はいずれも小さいが,「自主的学習の経験」の方が「情報活用の経験」よりも寄与が大きかった。また,媒介要因を加えることで「学生主体の授業経験」の直接効果が.21, 95% CI [.16, .27], から.09, 95% CI [.03, .15], に有意に低下した。
考 察
以上の結果から,少なくとも大学IRコンソーシアムの学生調査を利用する際,「認知面の向上」「学生主体の授業経験」「自主的学習の経験」「情報活用の経験」の4つの評価指標にとくに着目することが,主体的学びを促す大学教育の成果把握に役立つことが示唆される。但し,成果把握には直接評価指標(客観テストやGPAなど)も不可欠であり,一般には間接評価と直接評価の相関は低いことから(Finley, 2012など),適切な直接評価指標と組み合わせた学生調査の活用が課題となる。
文 献
Finley, A. (2012). Making progress? What we know about the achievement of liberal education outcomes. Washington, DC: Association of American Colleges and Universities.
溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東信堂
山田礼子 (2016). 高等教育の質とその評価 東信堂
謝 辞 本研究は,国立N大学のIR室から提供されたデータに基づくものである。ここに記して謝意を表する。
近年の学修成果の可視化の要請に対応して,多くの大学で学生調査による間接的な成果評価が行われている(山田, 2016など)。なかでも,共通項目を用いて縦断的な比較を行うとともに相互のベンチマーキングが可能な大学IRコンソーシアムの学生調査は,現在,全国の国公私立49大学によって利用されている(http://www.irnw.jp)。
一方で,主体的学びを促すアクティブラーニングの工夫も今日の大学の大きな課題となっており,それと併せてアクティブラーニングの成果をどのように把握すべきかも問われている(溝上,2014など)。
そこで本研究は,大学IRコンソーシアムの「上級生調査」の結果を用いて,主体的学びの経験が大学入学後の能力変化知覚に及ぼす影響モデルを探索的に検討し,学生調査に基づく主体的学びの一評価枠組を提案することを試みた。
方 法
調査参加者は,2014年度の国立N大学3年次生1,226名(女子511名,男子712名,不明3名)。必修科目の授業中に実施,所要15分~20分。国立N大学は9学部から成る地方総合大学である。
結 果
因子分析による尺度構成 調査項目のうち,入学後の能力変化を尋ねた20項目はプロマックス法3因子解によって「認知面の向上」「関係面の向上」「共生面の向上」の3尺度(因子間相関は.54~.64)とした。それぞれの代表的な項目は「分析力や問題解決能力」「人間関係を構築する能力」「異文化の人々と協力する能力」である。授業経験を尋ねた14項目からは2因子解を得たが,第2因子は負荷する項目も少なく内容が明確でなかったことから,「学生が自分の考えや研究を発表する」などを代表的な項目とする「学生主体の授業経験」の因子のみを採り上げた。学習態度を尋ねた14項目は3因子解によって「自主的学習の経験」「授業不適応の経験」「情報活用の経験」の3尺度(因子間相関は-.01~.14)とした。それぞれの代表的項目は「単位とは関係のない教員あるいは学生による自主的な勉強会に参加した」「授業に遅刻した」「授業課題のために図書館の資料を利用した」である。「情報活用の経験」因子にはインターネット活用の項目も高く負荷していた。最後に,週当たりの活動時間を尋ねた8項目は3因子解によって「自主的学習の活動時間」「授業関連の活動時間」「正課外の活動時間」の3尺度(因子間相関は.00~.15)とした。それぞれの代表的項目は「授業時間以外に授業に関連しない勉強をする」「授業や実験に出る」「部活動や同好会に参加する」であった。
階層的重回帰分析 学修成果としては認知面の向上が最も重要であることから,「認知面の向上」を従属変数として,授業経験,学習態度,週当たりの活動時間,の順に階層的に説明変数を投入したところ,「学生主体の授業経験」(β=.10)よりも「自主的学習の経験」(β=.19)と「情報活用の経験」(β=.13)が強く影響し,また週当たりの活動時間の要因はほとんど寄与しなかった(ΔR2=.01)。
媒介分析 以上を踏まえて,「学生主体の授業経験」が学生生活での「自主的学習の経験」や「情報活用の経験」を介して「認知面の向上」に寄与するという仮説モデルを検証したところ(リサンプリング1,000回のブートストラップ法による),同時媒介要因の間接効果はそれぞれ.09, 95% CI [.06, .13]; .04, 95% CI [.02, .06]であり,値はいずれも小さいが,「自主的学習の経験」の方が「情報活用の経験」よりも寄与が大きかった。また,媒介要因を加えることで「学生主体の授業経験」の直接効果が.21, 95% CI [.16, .27], から.09, 95% CI [.03, .15], に有意に低下した。
考 察
以上の結果から,少なくとも大学IRコンソーシアムの学生調査を利用する際,「認知面の向上」「学生主体の授業経験」「自主的学習の経験」「情報活用の経験」の4つの評価指標にとくに着目することが,主体的学びを促す大学教育の成果把握に役立つことが示唆される。但し,成果把握には直接評価指標(客観テストやGPAなど)も不可欠であり,一般には間接評価と直接評価の相関は低いことから(Finley, 2012など),適切な直接評価指標と組み合わせた学生調査の活用が課題となる。
文 献
Finley, A. (2012). Making progress? What we know about the achievement of liberal education outcomes. Washington, DC: Association of American Colleges and Universities.
溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東信堂
山田礼子 (2016). 高等教育の質とその評価 東信堂
謝 辞 本研究は,国立N大学のIR室から提供されたデータに基づくものである。ここに記して謝意を表する。