日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA35] 黙読時における眼球運動への朗読予告による影響その2

物語の結末部を中心に

福田由紀 (法政大学)

キーワード:朗読, 黙読, 眼球運動

問題と目的
朗読を予告された場合の方が読み手は物語を深く理解をする(Fukuda,2016)。その理由の一つとして,福田(印刷中)は,朗読予告有り条件の方が予告無し条件よりも,黙読している際の眼球の停留回数が多く,停留時間が長いことを示し,物語全体に関する朗読予告の影響を検討した。しかし,Fukuda(2016)が用いた状況モデルレベルの質問との対応に疑問が残る。それらの質問では主人公とその成長を喜ぶ父や祖父との交流や,主人公の成長を助ける店長の思いやりのある言動について問われている。つまり,物語の結末部分でどのようにエピソードが完結しているかを注意深く読む必要がある。そこで,本研究では福田(印刷中)のデータの結末部に関して,より詳細に朗読予告有り条件と予告無し条件の眼球運動の停留回数と停留時間を検討する。
方   法
実験計画 2(朗読予告条件:有り・無し)×7(行の位置:L1・L2・L3・L4・L5・L6・L7) の混合計画。
参加者 日本語を母語とする大学生と院生計26名。朗読予告有り条件は男5,女8名,無し条件は男4,女9名。
材料 福田・楢原(2015)によって使用された物語(「初がつおのたたき(西本鶏介著,2004,1,771文字)」を用いた。分析対象は7行に分かれ,意味的なまとまりを優先し,1行の文字数は12~47文字であった。
装置 両眼眼球測定装置(Tobii TX300 Eye Tracker)を用いた。眼球運動のデータは,両眼をサンプリングレート300Hzで記録した。材料は23インチディスプレイ上に提示され,参加者はモニターから60㎝離れた場所に正対して座った。文字サイズは18ポイントMSPゴシック体を使用した。
手続き 朗読予告有り条件では,最初に「声に抑揚をつける」「声に強弱をつける」「登場人物ごとに声色を変える」「発声を明確にする」といった朗読の4つの条件(福田・楢原, 2015)を満たすように朗読の練習を行った。その後,実験材料を黙読し,内容についての確認的な質問2問に答え,モニター上で朗読した。一方,黙読条件では,練習セッションと朗読をすることを除いて,同じ手続きである。
結果と考察
 参加者全員は内容質問に正答をしたため,眼球運動のデータの分析に移った。また,各行の文字数が異なるため,1文字あたりの停留回数も停留時間を算出し,それぞれの平均値をFig1.とFig.2に示した。
停留回数 1ヶ所あたり,100msec以上注視していた場合を停留したと考え,その回数について,分散分析を行った。条件と行の位置の交互作用に有意傾向が認められた(F(6,144)=1.90,p=.086)ため,単純主効果検定を行った。その結果,L1とL2において朗読予告有り条件の方が予告無し条件よりも停留回数が多かった(L1:F(1,168)=5.53, p<.05,L2:F(1,168)=11.69, p<.01)。
停留時間 停留時間について分散分析を行った結果,条件と行の位置の交互作用に有意傾向が認められた(F(6,144)=2.03, p=.065)ため,単純主効果検定を行った。その結果,L1とL2において朗読予告有り条件の方が予告無し条件よりも停留時間が長かった(L1:F(1,168)=5.61, p<.05, L2:F(1,168)=9.33, p<.01)。
 これらの結果より,朗読予告有り条件群の参加者は,仙吉が一人前の職人のように料理を出した1行目と父と祖父の喜びが強く表現されている2行目に停留回数が多く,時間も長く見ていることが示され,参加者はこれらの情報を物語理解に利用している可能性が考えられる。
主な引用文献
福田由紀(印刷中). 黙読時における眼球運動への朗読予告による影響その1-物語全体を通して-日本心理学会第81回大会発表論文集
※本研究はJSPS科研費JP16K04319の助成を受けたものです。