10:00 〜 12:00
[PA45] 比例を活用した教授方略が内包量概念の理解に及ぼす影響(2)
割合合成課題の分析を中心に
キーワード:比例, 割合, 短大生
問題と目的
本稿では,内包量(食塩水濃度)と外延量との分化を促す際にどのような比例関係の提示の仕方が有効かを検討する。蛯名・宮田(2017)では,割合比較課題において,固定値(比例定数)の違いによる教示文の効果は見られないことが示唆された。本稿では,割合合成課題を中心に分析し,概念間の分化への影響を検討する。
方 法
分析対象者 短大生121名(割合固定群42名,部分固定群40名,全体固定群39名)。
調査課題(割合合成課題) 割合合成課題は,問題文中に全体量と割合のみが提示される2量提示課題と,全体量,部分量,割合のすべてが提示される3量提示課題で構成された。2量提示課題「ビーカーE:濃度2%の食塩水100g,ビーカーF:濃度4%の食塩水300g。EとFを混ぜ合わせると濃度は何%か」なお,事前調査と事後調査で数値を変えた。3量提示課題 教示セッションで,3種類の食塩水で比例関係を教示した後に,そのうちの2つを混ぜてできる食塩水の濃度を求める問題を出題した。割合固定群「食塩水全体100g,食塩1g,濃度1%の食塩水Aと,食塩水全体300g,食塩3g,濃度1%の食塩水Cを混ぜ合わせると濃度は?」部分固定群「食塩水全体100g,食塩6g,濃度6%の食塩水Aと,食塩水全体300g,食塩6g,濃度2%の食塩水Cを混ぜ合わせると濃度は?」全体固定群「食塩水全体100g,食塩1g,濃度1%の食塩水Aと,食塩水全体100g,食塩3g,濃度3%の食塩水Cを混ぜ合わせると濃度は?」
結果と考察
割合合成課題の解答理由は,公式による解答を適切演算,割合同士の加法または食塩の重さの和を割合としたものを未分化,その他の不適切な演算を他の演算,記入がないものを未記入とした。
(1)事前2量提示課題(Table1) 群×解答4分類のχ2検定を行った結果,有意な人数の偏りは見られなかった(χ2 (6)= 5.02)。
(2)3量提示課題(Table2) 群×解答4分類のχ2検定を行った結果,人数の偏りが有意傾向であった(χ2 (6)=11.24, p<.10)。参考までに残差分析を行ったところ,割合固定群で適切演算が有意に多く(残差=2.44),他の演算が有意に少ない傾向にあり(残差=-1.86),全体固定群で未分化が有意に多い傾向にあった(残差=1.89)。全体量,部分量,割合の3量が提示された問題では,割合固定群で適切演算が多くなる可能性が示唆されたことから,他の2群に比べ概念を分化させた者が比較的多かったと考えられる。
(3)事後2量提示課題(Table1) 群×解答4分類のχ2検定を行った結果,人数の偏りは有意傾向であった(χ2(6)=10.79, p<.10)。参考までに残差分析を行ったところ,割合固定群では,未分化が有意に少なく(残差-2.34),他の演算が有意に多く(残差2.31),全体固定群では未分化が有意に多い傾向にあった(残差1.68)。以上より,割合固定群では,割合と部分量を混同した誤答が抑制される可能性があるものの,適切演算の適用にまで到達させうる可能性は低いといえる。2量提示課題では食塩の重さを求める必要があるが,教示文では部分量の求め方までは直接教示していない。そのため,割合固定群においても,適切演算の出現率が低い水準にとどまったと考えられる。
討 論
割合固定群で概念間の分化の兆しが見られたが,全体固定群ではそのような傾向が見られなかった。これは,割合固定群で部分量が増加しても割合が増加しないという変数関係が定量的に提示されたことで,2量が相互に独立した量であることが明確になりやすかったためと考えられる。一方,全体固定群は部分量と割合とが共変関係にあることから,2量の独立性を把握しにくかった可能性が考えられる。今後は,このような比例定数による違いが他の内包量でも見られるのか検討したい。
本稿では,内包量(食塩水濃度)と外延量との分化を促す際にどのような比例関係の提示の仕方が有効かを検討する。蛯名・宮田(2017)では,割合比較課題において,固定値(比例定数)の違いによる教示文の効果は見られないことが示唆された。本稿では,割合合成課題を中心に分析し,概念間の分化への影響を検討する。
方 法
分析対象者 短大生121名(割合固定群42名,部分固定群40名,全体固定群39名)。
調査課題(割合合成課題) 割合合成課題は,問題文中に全体量と割合のみが提示される2量提示課題と,全体量,部分量,割合のすべてが提示される3量提示課題で構成された。2量提示課題「ビーカーE:濃度2%の食塩水100g,ビーカーF:濃度4%の食塩水300g。EとFを混ぜ合わせると濃度は何%か」なお,事前調査と事後調査で数値を変えた。3量提示課題 教示セッションで,3種類の食塩水で比例関係を教示した後に,そのうちの2つを混ぜてできる食塩水の濃度を求める問題を出題した。割合固定群「食塩水全体100g,食塩1g,濃度1%の食塩水Aと,食塩水全体300g,食塩3g,濃度1%の食塩水Cを混ぜ合わせると濃度は?」部分固定群「食塩水全体100g,食塩6g,濃度6%の食塩水Aと,食塩水全体300g,食塩6g,濃度2%の食塩水Cを混ぜ合わせると濃度は?」全体固定群「食塩水全体100g,食塩1g,濃度1%の食塩水Aと,食塩水全体100g,食塩3g,濃度3%の食塩水Cを混ぜ合わせると濃度は?」
結果と考察
割合合成課題の解答理由は,公式による解答を適切演算,割合同士の加法または食塩の重さの和を割合としたものを未分化,その他の不適切な演算を他の演算,記入がないものを未記入とした。
(1)事前2量提示課題(Table1) 群×解答4分類のχ2検定を行った結果,有意な人数の偏りは見られなかった(χ2 (6)= 5.02)。
(2)3量提示課題(Table2) 群×解答4分類のχ2検定を行った結果,人数の偏りが有意傾向であった(χ2 (6)=11.24, p<.10)。参考までに残差分析を行ったところ,割合固定群で適切演算が有意に多く(残差=2.44),他の演算が有意に少ない傾向にあり(残差=-1.86),全体固定群で未分化が有意に多い傾向にあった(残差=1.89)。全体量,部分量,割合の3量が提示された問題では,割合固定群で適切演算が多くなる可能性が示唆されたことから,他の2群に比べ概念を分化させた者が比較的多かったと考えられる。
(3)事後2量提示課題(Table1) 群×解答4分類のχ2検定を行った結果,人数の偏りは有意傾向であった(χ2(6)=10.79, p<.10)。参考までに残差分析を行ったところ,割合固定群では,未分化が有意に少なく(残差-2.34),他の演算が有意に多く(残差2.31),全体固定群では未分化が有意に多い傾向にあった(残差1.68)。以上より,割合固定群では,割合と部分量を混同した誤答が抑制される可能性があるものの,適切演算の適用にまで到達させうる可能性は低いといえる。2量提示課題では食塩の重さを求める必要があるが,教示文では部分量の求め方までは直接教示していない。そのため,割合固定群においても,適切演算の出現率が低い水準にとどまったと考えられる。
討 論
割合固定群で概念間の分化の兆しが見られたが,全体固定群ではそのような傾向が見られなかった。これは,割合固定群で部分量が増加しても割合が増加しないという変数関係が定量的に提示されたことで,2量が相互に独立した量であることが明確になりやすかったためと考えられる。一方,全体固定群は部分量と割合とが共変関係にあることから,2量の独立性を把握しにくかった可能性が考えられる。今後は,このような比例定数による違いが他の内包量でも見られるのか検討したい。