10:00 〜 12:00
[PA59] 児童養護施設退所者の支援の課題の検討
自立とアフターケアに対する若年層の認識とその変化から
キーワード:児童養護施設退所者, アフターケア, 教育効果
問題と目的
子どもの貧困問題と同様に深刻な問題である児童養護施設退所者の課題も漸く認識されるようになり,民間での支援活動が行われるようになってきている。しかし,残念ながら十分ではない。筆者は,児童養護施設(以下,施設と略記)を18歳で退所した者への支援を施設関係者と共に行ってきており,事例報告や「施設の退所者の支援」「『自立』に対する認識」の調査も行い,一部報告も行っている。(2015)そうした実践の中で筆者は,個別の実践の充実は重要な課題だが,支援の幅を広げ,深め,浸透させるためにも本問題に関する若年層(大学生くらいまで)の認識を育て変化させる教育の必要性も強く感じるようになった。そこで本報告では,大学生に施設の退所者の実態,筆者の支援の実践・研究について紹介し,ディスカッションを行った後,若年層の一人暮らしと施設の退所者への支援に関する調査とディスカッションの観察により,その認識の変化を分析した。
本報告では,筆者はアフターケアとしているが,施設の退所者への支援の充実と,それに関する若年層の認識および一人暮らしの認識の向上の,教育―知ることーの効果について検討する。
(2)アンケートにおける仮説 a.若年層の一人暮らしへの認識は,自由度の高さに高い評価が多くなる。ついで自立する力の向上の回答が多い。b若年層の一人暮らしの問題点の認識は,寂しさや生活の難しさなど心理的な面が多くなる。c知識の向上は,支援の理解度を高め,支援に関する視野の広がりとアイデアの向上に貢献する。
方 法
1.方法 (1)「自立に関するアンケートa」「自立に関するアンケートb」実施―「A一人暮らしへの認識 B一人暮らしの心の支え C児童養護施設に対する認識 D児童養護施設退所者の自立生活に対する認識」,(2)「A若年者の自立生活 B児童養護施設退所者への支援の方法に関するディスカッション」
2.調査参加者 K大学女子3年,4年生
アンケートaのみ 15名, アンケートa,b 7名
3.手続き アンケートaを実施の後,児童養護施設退所者の実践・研究について筆者から伝達。その後,「施設退所者における『児童養護施設退所者の生活,支援の方法,若年層の自立」についてディスカッションを行う。筆者はその様子を観察する。最後に,児童養護施設退所者への支援について再度問う。一方,ランダムに振り分けた約半数の調査参加者に施設退所者の支援に関するアンケートを行う。(アンケートb=施設退所者の説明を受けたことによる認識の変化についても問う項目を入れてある)
4.分析方法 ディスカッション時の観察と記録,および回答されたアンケートの分析。
結 果
1. アンケートa回答では,「一人暮らしの
良い面」として,『精神的自立力の向上』という回答が最も多く,仮説の「自由度への高さの好評価」の回答は見られなかった。また「一人暮らしの問題点」では, 回答の内容が多岐にわたり,その中では『金銭の使い方,栄養のバランスの問題,孤独』など精神な課題を挙げる回答が多く,次に「一人暮らしの『心の支え』」では,友人の存在や同居でないが家族,周囲の人など『人的資源とのつながり』,『趣味,SNS』など外的資源を挙げる回答が多かった。中に「18歳頃の一人立ちは早すぎる」という回答も見られた。児童養護施設を知らない回答者は皆無であったが,詳しくは知らなかった。次に「施設退所者の支援」では,金銭面,心理的な支援の面,病気の際の支援の面などが挙がっていた。
2. アンケートbでは,「心の支え」については全員が『人』を挙げていた。「一人暮らしの留意点」は,『金銭面や健康面と共に他者との繋がりと信頼』という回答が見られた。具体的には,家事一般の技術や金銭支援の他に心理や福祉の専門家などの存在と助言,相談のできる環境の必要性の指摘が見られた。
3.ディスカッションの際には,『精神的な危機(孤独など)』『生活上のリスク(詐欺や対人間のトラブル』『経済的な課題(生活費,学費,金銭管理など,)』などが挙がった。生活スキル(料理や炊事,掃除,洗濯など)に関してはあまり話題に挙がらない。さらに「信頼できる大人の存在の重要性』が挙がっていた。
4.「講義・説明を行うことで,認識の大きな変化を感じること」に対して自覚されている回答はあまり見られなかったが,退所者への支援方法について,知識を得る前よりも具体的なアイデアが増えていることから,変化があるとみなせた。
考 察
施設退所者とほぼ同世代の大学3年4年の学生たちの支援に対する認識では,『自立の始まりと考えられる一人暮らしは,精神的,技術的な向上につながる』との考えがあることがわかり,自身の向上に対する意識が高いことが窺われた。また,生活のリスクや生活スキルの課題への理解ができていることも推測された。施設についての認識,理解は低かった。しかし若干でも知識を得ることによる学びの吸収は早く,信頼できる大人の存在を重視する考えなどに繋がっていると考えられる。さらに施設退所者の支援については,制度などの課題に視点がゆくことも確認された。また「一人暮らしの問題点」に対し,その情況を受け止めるだけでなく改善の方法を考え,しかも個別の対応の解決策を考えるのではなく,新たな方法を考えるようになっていると理解できる。また施設退所者は,一人暮らしへの懸念として生活スキルや金銭管理などの不安が多く,切実感や心理的な問題や対人間のつながりの重要性に視点がゆくゆとりがないことが推測された。そしてこのことが,施設の退所者の支援,仮にアフターケアと位置づけている支援の課題の一つと考えられるに至った。つまり,この視点を持てることがリスクなどを回避するうえで役立つと考えられる。
子どもの貧困問題と同様に深刻な問題である児童養護施設退所者の課題も漸く認識されるようになり,民間での支援活動が行われるようになってきている。しかし,残念ながら十分ではない。筆者は,児童養護施設(以下,施設と略記)を18歳で退所した者への支援を施設関係者と共に行ってきており,事例報告や「施設の退所者の支援」「『自立』に対する認識」の調査も行い,一部報告も行っている。(2015)そうした実践の中で筆者は,個別の実践の充実は重要な課題だが,支援の幅を広げ,深め,浸透させるためにも本問題に関する若年層(大学生くらいまで)の認識を育て変化させる教育の必要性も強く感じるようになった。そこで本報告では,大学生に施設の退所者の実態,筆者の支援の実践・研究について紹介し,ディスカッションを行った後,若年層の一人暮らしと施設の退所者への支援に関する調査とディスカッションの観察により,その認識の変化を分析した。
本報告では,筆者はアフターケアとしているが,施設の退所者への支援の充実と,それに関する若年層の認識および一人暮らしの認識の向上の,教育―知ることーの効果について検討する。
(2)アンケートにおける仮説 a.若年層の一人暮らしへの認識は,自由度の高さに高い評価が多くなる。ついで自立する力の向上の回答が多い。b若年層の一人暮らしの問題点の認識は,寂しさや生活の難しさなど心理的な面が多くなる。c知識の向上は,支援の理解度を高め,支援に関する視野の広がりとアイデアの向上に貢献する。
方 法
1.方法 (1)「自立に関するアンケートa」「自立に関するアンケートb」実施―「A一人暮らしへの認識 B一人暮らしの心の支え C児童養護施設に対する認識 D児童養護施設退所者の自立生活に対する認識」,(2)「A若年者の自立生活 B児童養護施設退所者への支援の方法に関するディスカッション」
2.調査参加者 K大学女子3年,4年生
アンケートaのみ 15名, アンケートa,b 7名
3.手続き アンケートaを実施の後,児童養護施設退所者の実践・研究について筆者から伝達。その後,「施設退所者における『児童養護施設退所者の生活,支援の方法,若年層の自立」についてディスカッションを行う。筆者はその様子を観察する。最後に,児童養護施設退所者への支援について再度問う。一方,ランダムに振り分けた約半数の調査参加者に施設退所者の支援に関するアンケートを行う。(アンケートb=施設退所者の説明を受けたことによる認識の変化についても問う項目を入れてある)
4.分析方法 ディスカッション時の観察と記録,および回答されたアンケートの分析。
結 果
1. アンケートa回答では,「一人暮らしの
良い面」として,『精神的自立力の向上』という回答が最も多く,仮説の「自由度への高さの好評価」の回答は見られなかった。また「一人暮らしの問題点」では, 回答の内容が多岐にわたり,その中では『金銭の使い方,栄養のバランスの問題,孤独』など精神な課題を挙げる回答が多く,次に「一人暮らしの『心の支え』」では,友人の存在や同居でないが家族,周囲の人など『人的資源とのつながり』,『趣味,SNS』など外的資源を挙げる回答が多かった。中に「18歳頃の一人立ちは早すぎる」という回答も見られた。児童養護施設を知らない回答者は皆無であったが,詳しくは知らなかった。次に「施設退所者の支援」では,金銭面,心理的な支援の面,病気の際の支援の面などが挙がっていた。
2. アンケートbでは,「心の支え」については全員が『人』を挙げていた。「一人暮らしの留意点」は,『金銭面や健康面と共に他者との繋がりと信頼』という回答が見られた。具体的には,家事一般の技術や金銭支援の他に心理や福祉の専門家などの存在と助言,相談のできる環境の必要性の指摘が見られた。
3.ディスカッションの際には,『精神的な危機(孤独など)』『生活上のリスク(詐欺や対人間のトラブル』『経済的な課題(生活費,学費,金銭管理など,)』などが挙がった。生活スキル(料理や炊事,掃除,洗濯など)に関してはあまり話題に挙がらない。さらに「信頼できる大人の存在の重要性』が挙がっていた。
4.「講義・説明を行うことで,認識の大きな変化を感じること」に対して自覚されている回答はあまり見られなかったが,退所者への支援方法について,知識を得る前よりも具体的なアイデアが増えていることから,変化があるとみなせた。
考 察
施設退所者とほぼ同世代の大学3年4年の学生たちの支援に対する認識では,『自立の始まりと考えられる一人暮らしは,精神的,技術的な向上につながる』との考えがあることがわかり,自身の向上に対する意識が高いことが窺われた。また,生活のリスクや生活スキルの課題への理解ができていることも推測された。施設についての認識,理解は低かった。しかし若干でも知識を得ることによる学びの吸収は早く,信頼できる大人の存在を重視する考えなどに繋がっていると考えられる。さらに施設退所者の支援については,制度などの課題に視点がゆくことも確認された。また「一人暮らしの問題点」に対し,その情況を受け止めるだけでなく改善の方法を考え,しかも個別の対応の解決策を考えるのではなく,新たな方法を考えるようになっていると理解できる。また施設退所者は,一人暮らしへの懸念として生活スキルや金銭管理などの不安が多く,切実感や心理的な問題や対人間のつながりの重要性に視点がゆくゆとりがないことが推測された。そしてこのことが,施設の退所者の支援,仮にアフターケアと位置づけている支援の課題の一つと考えられるに至った。つまり,この視点を持てることがリスクなどを回避するうえで役立つと考えられる。