10:00 〜 12:00
[PA63] フィンランド公立学校におけるインクルーシブ教育の実践からの示唆
‐日常的な支援のあり方に着目して‐
キーワード:特別支援教育, インクルーシブ教育, フィンランド
問題と目的
垣根を越えた流動的な支援を示すキーワードとして,インクルーシブ教育が挙げられる。これまでわが国では,諸外国におけるインクルーシブ教育の実践から多くの示唆を得ている(渡辺,2010;片岡,2012,2013;長澤ら,2016)。特に,経済協力開発機構(OECD)実施の学力到達度調査(PISA)において,2000年と2003年と連続して国際的な高い学力を証明したフィンランドはわが国でも注目を集めた(佐藤,2005;石井,2006;渡邊,2007;清水,2008;堀口,2009)。その中でも,教室における特別支援の在り方に着目した研究として,フレキシブルな3段階の特別支援システムにおける個別支援について調査・検討した小曽・是永(2016)の研究が挙げられる。フィンランドの特別支援教育に関するわが国の研究の中で,こうした教室における日常的な支援やチーム支援に焦点を当てた研究は未だ少ない。
そこで本研究では,現地学校における特別な配慮を必要とする児童に対する日常的な支援の在り方やチーム支援の在り方についてフィールドノーツをもとに分析し,明らかにすることを目的とした。本研究は「高い平等性(堀家,2012)」をもつインクルーシブ教育の実現のために行うものである。
方法・分析
研究対象:フィンランドにあるA市公立小学校2校。
データ収集方法:本研究では,自然な営みを人々が生きる生活環境から切り離されずに捉えられるエスノグラフィー(柴山,2006)を採用することとした。フィールドでは,学校場面にて児童生徒と支援者とのやりとりについての観察をする「消極的な参与者の立場」で観察を行った。
観察期間・回数:2016年8月28日~9月16日,基本スケジュールは平日8時から15時までであった。各学校には1週間ずつ訪問を行った。適宜,観察クラス担任・特別支援教員・支援員・管理職等に疑問点や確認したいことについて質問した。
インタビュー調査:調査者が見学を行ったフィンランド公立学校で実際に行われていた校内支援について支援場面の後に各教員へインタビューを行った。会話はすべて英語で行われた。
リサーチクエスチョン:観察者は「学校の日常的な支援はどのように行われるのか」また「特別な支援はどのような構造なのか」というリサーチクエスチョンを設定して観察を行った。
分析:各学校で得られたデータをまとめ,エピソードのなかで,校内で行われる日常的な支援やインクルーシブ教育に関わると思われる意味あるエピソードに切り取った。
結果・考察
フィンランド公立学校におけるインクルーシブ教育の実践について以下のことが明らかにされた。
本研究でも,小曽・是永(2016)らによって紹介されたフレキシブルな3段階の特別支援システムの有用性が推測された。3段階の特別支援システムは,General Support(一般教育)/ Intensified Support(教科補習) /Special Support(特別な配慮)である。Special Supportの支援はSmall Group(小集団クラス)とIn normal class(普通クラス在籍)というインクルーシブ教育が行われていた。
本研究では3段階の特別支援システムに加えて,Small Group とIn normal classのインクルーシブ教育について明らかになった。インクルーシブ教育では,その時々の児童の様子や特性に応じて【個⇔集団】と支援チームの中で柔軟に支援の「場」を移動させながら行われていた。
「場」に応じた柔軟な支援として(A)個別支援(B)集団支援(C)家庭支援が挙げられた。(A)学習の個別取り出し支援やクールダウンの別室対応など,児童の状態に応じて担任・特別支援教員・支援員が個別支援を行った。(B)集団の中でお互いに協力し合うことを目標とした活動や読み書き習得状況に応じて特別支援教員が行う補習授業,1クラスを2グループに分けた授業が日常的に行われた。そのため,児童が在籍クラスを移動することに対して他児童のまなざしは自然であった。(C)保護者が児童について不安を感じた際には教員らが不安を受け止めた。メール配信によって補習授業開催の連絡が行われ,保護者が希望して児童が補習に参加するシステムを持っていた。
さらに本研究で観察された日常的な支援の各エピソードには共通点が見られた。それは特別な配慮を必要とする特性の有無に関わらず,全ての児童に対して行われる(1)特性理解(2)保護者との支援方針共有である。学校では(1)(2)が日常的に行われており,さらに特別な配慮を要する児童への「場」に応じた臨機応変な支援が支援チームの中で適宜行われていた。
このようにフィンランド公立小学校における日常的な支援は,特別な配慮を必要とする特性の有無に関わらず,全ての児童に対して(1)特性理解(2)保護者との支援方針共有が行われた上で支援がなされていた。インクルーシブ教育では,児童の様子や特性に応じて【個⇔集団】と支援チームの中で柔軟に支援の「場」を移動させながら実施していた。
垣根を越えた流動的な支援を示すキーワードとして,インクルーシブ教育が挙げられる。これまでわが国では,諸外国におけるインクルーシブ教育の実践から多くの示唆を得ている(渡辺,2010;片岡,2012,2013;長澤ら,2016)。特に,経済協力開発機構(OECD)実施の学力到達度調査(PISA)において,2000年と2003年と連続して国際的な高い学力を証明したフィンランドはわが国でも注目を集めた(佐藤,2005;石井,2006;渡邊,2007;清水,2008;堀口,2009)。その中でも,教室における特別支援の在り方に着目した研究として,フレキシブルな3段階の特別支援システムにおける個別支援について調査・検討した小曽・是永(2016)の研究が挙げられる。フィンランドの特別支援教育に関するわが国の研究の中で,こうした教室における日常的な支援やチーム支援に焦点を当てた研究は未だ少ない。
そこで本研究では,現地学校における特別な配慮を必要とする児童に対する日常的な支援の在り方やチーム支援の在り方についてフィールドノーツをもとに分析し,明らかにすることを目的とした。本研究は「高い平等性(堀家,2012)」をもつインクルーシブ教育の実現のために行うものである。
方法・分析
研究対象:フィンランドにあるA市公立小学校2校。
データ収集方法:本研究では,自然な営みを人々が生きる生活環境から切り離されずに捉えられるエスノグラフィー(柴山,2006)を採用することとした。フィールドでは,学校場面にて児童生徒と支援者とのやりとりについての観察をする「消極的な参与者の立場」で観察を行った。
観察期間・回数:2016年8月28日~9月16日,基本スケジュールは平日8時から15時までであった。各学校には1週間ずつ訪問を行った。適宜,観察クラス担任・特別支援教員・支援員・管理職等に疑問点や確認したいことについて質問した。
インタビュー調査:調査者が見学を行ったフィンランド公立学校で実際に行われていた校内支援について支援場面の後に各教員へインタビューを行った。会話はすべて英語で行われた。
リサーチクエスチョン:観察者は「学校の日常的な支援はどのように行われるのか」また「特別な支援はどのような構造なのか」というリサーチクエスチョンを設定して観察を行った。
分析:各学校で得られたデータをまとめ,エピソードのなかで,校内で行われる日常的な支援やインクルーシブ教育に関わると思われる意味あるエピソードに切り取った。
結果・考察
フィンランド公立学校におけるインクルーシブ教育の実践について以下のことが明らかにされた。
本研究でも,小曽・是永(2016)らによって紹介されたフレキシブルな3段階の特別支援システムの有用性が推測された。3段階の特別支援システムは,General Support(一般教育)/ Intensified Support(教科補習) /Special Support(特別な配慮)である。Special Supportの支援はSmall Group(小集団クラス)とIn normal class(普通クラス在籍)というインクルーシブ教育が行われていた。
本研究では3段階の特別支援システムに加えて,Small Group とIn normal classのインクルーシブ教育について明らかになった。インクルーシブ教育では,その時々の児童の様子や特性に応じて【個⇔集団】と支援チームの中で柔軟に支援の「場」を移動させながら行われていた。
「場」に応じた柔軟な支援として(A)個別支援(B)集団支援(C)家庭支援が挙げられた。(A)学習の個別取り出し支援やクールダウンの別室対応など,児童の状態に応じて担任・特別支援教員・支援員が個別支援を行った。(B)集団の中でお互いに協力し合うことを目標とした活動や読み書き習得状況に応じて特別支援教員が行う補習授業,1クラスを2グループに分けた授業が日常的に行われた。そのため,児童が在籍クラスを移動することに対して他児童のまなざしは自然であった。(C)保護者が児童について不安を感じた際には教員らが不安を受け止めた。メール配信によって補習授業開催の連絡が行われ,保護者が希望して児童が補習に参加するシステムを持っていた。
さらに本研究で観察された日常的な支援の各エピソードには共通点が見られた。それは特別な配慮を必要とする特性の有無に関わらず,全ての児童に対して行われる(1)特性理解(2)保護者との支援方針共有である。学校では(1)(2)が日常的に行われており,さらに特別な配慮を要する児童への「場」に応じた臨機応変な支援が支援チームの中で適宜行われていた。
このようにフィンランド公立小学校における日常的な支援は,特別な配慮を必要とする特性の有無に関わらず,全ての児童に対して(1)特性理解(2)保護者との支援方針共有が行われた上で支援がなされていた。インクルーシブ教育では,児童の様子や特性に応じて【個⇔集団】と支援チームの中で柔軟に支援の「場」を移動させながら実施していた。